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魔技師  作者: 檜山 紅葉
第4章 異形を滅する剣
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87 片羽

お待たせしました。

 ザリュオンの奇襲を防いだジン。

 すかさず反撃に刀を振るうが、それは飛び退って躱されてしまう。


「驚きました。まさか防がれるとは」


 毛ほども驚いていないのにザリュオンは、さも驚いた風を装った。挑発の一環だが、ジンには効果が薄いようだった。

 自然体で気負いなく、隙のない良い構えをしている。これは手強いと感じた彼は、間違いなくジンが激昂する言葉を言い放つ。その軽率な行いが、どんな結果を齎すのか想像せぬままに。


「ですが、私には勝てませんよ。なんといってもあなたの師、ウェウリンを殺したのはこの私なのですから」


 しかしザリュオンが望むような効果は、一見して表れなかった。ジンは些かの動揺も見せない。あるいは隠しているのかもしれないが、凪のように静かな魔力からそれは感じられなかった。

 長らく盲目であったザリュオンは魔力感知に優れている。だから分かる。

 落胆したが、ショックが大き過ぎたのかもしれないと思い直す。茫然としているなら、動揺も表せまい。

 そうであれば笑い種だ。楽に殺せる。


「それは本当のこと、なんですね」


 だからザリュオンには、このジンの声がようやく絞り出したように聞こえたはずだ。

 それは事実だが、意味合いが大きく異なることをザリュオンは知らない。ジンは怒っていたのだ。


「別にどっちでもいいです。異形は斬るだけですから」


 怒りを微塵も感じさせず、ジンが言った。

 ほんの一瞬、ザリュオンは反応が出遅れる。

 気がつくと目の前にジンが立っており、刀を振るおうとしていた。微弱な黒い魔力を闇刀に纏わせて。


 しかし彼の持つ優秀な第三の目は何が起きたのかを正確に捉えていた。

 なんのことはない。ただ歩いて近づいてきただけ。されど、そこに殺気は微塵もない。

 だからザリュオンは直前まで反応できなかった。


「!?」


 慌てて身を引くことで回避を試みる。

 異形の身体能力のお陰で本来、首を刈り取るはずだった斬撃は、首の薄皮一枚を切るにとどまった。

 ザリュオンの思考は混乱したが、それ以上に内心では屈辱に塗れていた。


 剣術の腕では圧倒的優位にありつつ、怒涛の攻めを捌き切れないでいる。致命傷には程遠い、だが徐々に全身に薄い傷が増えていく現状。


 苛立ちを声に叫ぼうとしても、ジンはそれさえも封じる。殺気のない攻撃とはそれほどまでに厄介なのだ。

 それは斬り殺すのではなく、第一に斬ることそのものを目的としているからなのだが、そんなことザリュオンには関係ない。


 今、青位魔技師として戦闘経験豊富だったザリュオンをして、冷静に戦いを進められていないのである。

 そこにはあのウェウリンを殺すことができたという驕りがあって、だから目の前の雑魚(ジン)も簡単に殺せるはずだという希望的観測に支配されているのだった。


「な、に……」


 剣での防御が間に合わず、首を狙った斬撃を躱そうとしたザリュオンは、またしても身を引いてしまった。


 そこへすかさずジンは必殺の一撃を放つ。

 闇刀の軌跡をなぞるように飛び出した黒い飛剣がザリュオンの無防備な首を刎ねる。

 感性のままに倒れゆく彼の体。それすらも第三の目は映し出す。敗北を克明につきつけられたザリュオンは、その認め難い事実を受け入れられなかった。


 刎ね飛ばされたザリュオンの頭部をジンがキャッチする。彼の長い髪を乱雑に掴んだ。


「私が負けるわけないだろう!何かの間違いだこれは!間違いなんだ!お前如きがっ、この私にっ、勝てるわけがないぃぃぃ!!!」


 首の切り口から黒い魔力に侵食されて少しずつ消滅していく。にも関わらず無様にも喚き散らすザリュオンは正直、見るに耐えない。

 だからジンは試すことにした。魔技における奥義となる技を。


「心象顕現……」


 どす黒い魔力が手を溢れ、掴んだ髪を伝って下りていく。まだ不完全な心象顕現は、残念ながら心象風景の形を生さなかったが、その権能を一部とはいえ発現せしめた。



 深い闇に覆われたと感じた直後、ザリュオンは何もない空間に立っていた。

何もない故に彼は落ちていく。どこまでも無間に落ちていく。落ちていく。落ちていく。


 かつて盲目であった時には馴染み深かった常闇。しかし第三の目は見たくないと命令をしても、ありのままの世界を持ち主へと伝え続ける。


 底のない、天のない、地平も水平もない。

 己の輪郭さえも曖昧な真の闇に囚われたザリュオンの精神は、あっけなく壊れた。



 手の中に掴むザリュオンの頭部が完全に消滅したことで、ジンは心象顕現を諦めた。

 己の内に広がる心象風景を知覚していながら顕現できない。現実の世界に固着させるために必要なものが、もう少しで掴めそうだったのだが。


 しかし今はやることがある。

 ザリュオンが得意顔で言っていたウェウリンの生死も気になるが、戦場を見回せば皆、傷ついていた。

 ノームは死力を尽くして戦った痕跡がある。ドラコーンはいつの間に駆けつけたのだろうか。ダズは大きな異形3体を相手取り、善戦している。


 そしてゲンキに託し、ゲンキから託されたもの。

 ジンは闇刀を構える。

 その鋒を中央に聳える黒い繭へと向けた。

読んでくださった方々ありがとうございます。


息抜きに今年も夏のホラー書こうかなんて思いながら執筆していたら、魔技さえ使わせて貰えないザリュオンさんが出来てました。仕方ないね。

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