86 仲間
お待たせしました。
後方で土塊巨人が異形と殴り合う中、術者であるダズもまた異形と対していた。相手は宙空にて座禅を組むイボガエルのような外見の異形である。
そして運がいいのか悪いのか。相手はこの戦場において厄介な能力の持ち主だった。
「……これは死霊、か?」
イボガエルの周囲の空間が半透明な霊体によって満たされていく。老若男女問わず、全員がこの街で死んでいった者たち。
街中から集められた霊が死霊へと変じて今もその数を増している。数の暴力は勝敗を決するだけの力を持っており、それに抗するには此方も数を揃えなければならない。
幸いにしてダズにはその手段があった。
「土軍」
ダズが大地に寄り添うと地面からハニワたちが隆起する。
すでに土塊巨人を2体ほど出しているが、彼らには簡単な命令を与えて自律性を持たせたので問題はない。
勿論、それに伴って魔力は消耗しているから不利なのはダズの方だ。
だから彼がこれからするのは勝つ戦い方ではなく、負けない戦い方だ。作戦目標が達成されるまで粘ってみせるだけの自信がダズにはあった。
長い長い不毛な削り合いの始まりである。
一方、ゲンキは繭の特異性に手を焼いていた。
得意とする破術が繭の表面に触れた瞬間、どういうわけか上手く働かない。吸収や無効とは違い、本来発揮する効果より著しく劣っている印象だ。
繭の表面に傷つけることは出来ても、すぐに傷ついた部分が再生してしまう。結果、繭の破壊には至っていないわけだった。
「ちくしょ……全力全開なら破れるか?」
感触を信じるなら惜しいところまでいくと思われる。つまり1人では無理だ。そしてこの戦況を見れば分かる通り、協力して繭を破壊することは不可能に近い。頭数が足りていないのだ。
個人の力でやり遂げなければならない。
それが適うのはゲンキの見立では1人だけだった。
「ジンッッッ!!!!!」
「!」
作戦の打ち合わせにはない行動だが、ゲンキの大音声による叫びの意図はジンへと正しく伝わった。
2人は同時に駆け出して、すれ違い様に全く同じ言葉を口にする。
「「頼む!」」
そしてゲンキは司祭の前に立つ。
「驚いた。息ぴったりじゃないか」
「当たり前だろ。仲間だからな!」
「お陰でマズいことになったよ」
その言葉でゲンキは確信した。ジンならば黒い繭を破壊出来ると。
そして目の前の無貌は自分が倒さなければならないと覚悟を決める。
本当ならジンが自分の手で殺したかった相手。それなのにジンは躊躇う素振りさえ見せず、さらには「頼む」とまで言った。その意味を推し量れば、そういうことになるだろう。
「おやおや、思い違いも甚だしいね。そんな覚悟を決めた顔をしても、キミじゃ私は殺せないよ。荷が勝ちすぎている」
「うっせ、ジンが繭を壊せば俺らの勝ちだ」
「そうかもしれない。だが、こういう事態を想定して切り札は隠しておくものだよ」
「なにっ……まさか……」
ゲンキの脳内にひとりの人物の名前が浮かび上がる。冷静に考えれば分かるはずだったのに、今の今まで忘れていた。敵方の戦力で判明しているもうひとりの男の名を。
「ザリュオン……!」
ご名答と司祭が嗤った直後、ジンの死角からザリュオンが襲いかかる。彼は剣を突き出してジンを串刺しにしようと企んでいた。
その際に漏れた僅かな殺気を手がかりに刀を振るったジンは、すんでのところでザリュオンの剣を弾くことに成功する。
「あの野郎、隠れてやがったか」
「さあ、あっちばかり見ていても仕方ない。かかってくるといい。無駄だと分かっていても私を倒したいんだろう?」
「言われなくともっ」
破術を纏い構える。
斯くして戦いは中盤へと突入した。
読んでくださった方々ありがとうございます。
夏バテなのか、あまりの忙しさに疲れているのか。あまり筆が進まないまま7月になってしまいました。
先週は更新が出来ず、申し訳ない限りです。
また来週土曜日に更新出来るように頑張りますので、皆さんも熱中症には気をつけてお待ちください。




