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魔技師  作者: 檜山 紅葉
第4章 異形を滅する剣
85/94

82 正体

祝!2周年!

 陥没したメモレクサス中央の崖のような傾斜を駆け下りるのは、ダズを先頭にジン、ゲンキ、ムラサキ、ノームの5人だった。彼らは南からこの陥没地帯に突入した。中心に聳える黒い繭と、その隣に立つ混沌教の司祭を目指し、散乱した瓦礫を越えていく。

 ジンの報告にあった継ぎ接ぎの異形は確認出来ていないが、十中八九罠だろうと認識を共有して作戦を決行している。

 どんな罠だろうと警戒する中、異変に気がついたのはノームだった。


「全員、地面に注意しろっ」


 言われて地を舐めるように視線を動かすと所々で地面が隆起している箇所がある。瓦礫の下に何かいるようだ。

 隠れている意味を失った瓦礫の下の者たちが姿を現わす。

 合成獣めいた継ぎ接ぎの大異形。

 同じ見た目のものはひとつとしてない。無理やり接着したような、事実そうなのだろう歪で不恰好、奇怪な怪物たち。

 その総数6体。いずれも数メートルから数十メートルの体躯を誇っていた。


「ムラサキっ」


「承知していますっ」


 ノームとムラサキがそれぞれ別の方向へと走り出す。

 異形の配置だが、黒い繭の近辺に2体。ダズたちの前に1体。残りは東西に1体ずつと、黒い繭の向こう側である北側に1体となる。このうちノームは西側の、ムラサキは東側の異形を抑えに行った。

 ダズは直進。ジンとゲンキもそれに追随する。


「2人は大丈夫でしょうか?」


「……自分の心配をしろ」


「そうだぜ、まずはアイツをどうにかしなくちゃならねえ」


 ゲンキが示した先にいる異形はワーム型と言えばいいのだろうか。

 タコの口のように360度、牙の生え揃った大口を頭部に持ち、長い胴体には様々な動物的特徴の脚部が無数に蠢いている。節足動物から鳥類、哺乳類などあらゆる種族の脚だけが生えているのである。

 その冒涜的な百足は大口を開け、瓦礫を飲み込みながら突進してきている。全長30メートルを優に越える威容は凄まじい。


「ジン。ゲンキ。そのまま走れ」


「僕たちは何もしなくてもいいんですか?」


「なんとかする」


「分かりました」


「信じるぜ、おっさん!」


 そして異形が目の前に迫り、ダズが魔技を使う。


「土塊操術」


 ダズが魔力を乗せた瓦礫が異形の体内に吸い込まれていく。十分に飲み込ませ、惹きつけたと判断した彼は魔力を解き放つ。


合塊(ごうかい)


 急激に異形の頭が膨張する。耐えきれなかった頭部は四散し、その場には血塗れた岩塊が出現した。残された異形の肉体が慣性に従って岩塊に衝突して潰れる。


崩塊(ほうかい)


 ダズが呟くと岩塊はぽろぽろと崩れ、瞬く間に土塊と化した。

 ダズの土塊操術は土があるところであればどこでも一定の成果を齎す。自分の魔力を付与する必要はあるものの、一度でも浸透させれば魔力が霧散しない限り自在に操れる。

 土は障害にならず、むしろ異形の亡骸を避けて進める足場へと変化する。


「すっげえ」


「異形は2体とも抑える」


「分かりました。お願いします!」


 ジンとゲンキが突貫する。

 黒い繭に近づくにつれて、そうはさせじと行手を阻む2体の異形。ダズは足を止めて大量の魔力を地面に流し込む。


「土塊巨人」


 地面から2体の巨人が生まれる。

 土で出来た巨人はダズの命じるまま、それぞれの異形に掴み掛かった。そうして動きを封じている間に、黒い繭の向こう側の異形へとダズは牽制に動く。

 彼の働きによってジンは混沌教の司祭の下へと、ゲンキは黒い繭の下へと無事に辿り着くことが出来た。消耗らしい消耗もない万全に近い状態である。戦意を滾らせてそれぞれの敵に相対した。


「やあ、調子はどうかな。死に損ない君」


 司祭は余裕を持って語りかけてきた。

 黒い繭にはゲンキが取り付き、今にも攻撃を加えようとしているにも関わらずだ。彼は動揺のひとつやふたつを見せていいはずであり当然、ここは疑問に思うべき点だが、ジンの胸中は静かなる殺意で満たされていた。

 どうやって目の前の司祭を殺すのか。その手段が忙しなく組まれては瓦解する。


「それにしたってウェウリンもバカなことをするよね。君ひとりの命と引き換えに、街ひとつ見捨てたんだから」


「何を言っているんだ?」


「簡単だよ。あの日あの地下で君を連れ帰らずに私と異子を殺していれば、メモレクサスはこうならずに済んだんだ。それをするだけの力を彼女は持っていた。にも関わらず、その力をたった1人のためだけに使った。それだけの話だよ。ね、簡単だろう?」


 そう言って司祭は暗い愉悦を洩らす。

 しかしジンは、もはや何の痛痒も感じていなかった。そんなことは打ち明けられた瞬間から分かっていたことだから。

 思っていた反応が返ってこなかった司祭は心底つまらなそうに鼻を鳴らした。


「まあいいさ、君は私を殺しに来たんだろう。やるといい。出来るものならね!?」


 司祭が言い終わるのと同時、肉薄したジンは爪先で顎をかちあげるような蹴りを放っていた。予想を裏切る速度に反応が遅れた司祭は驚愕に語尾が跳ねる。それでも上体を仰け反らせて回避を試みるが完全には避け切れなかった。

 ジンの爪先が司祭の顔に嵌められた無貌の面を掬う。そしてその素顔を白日の下に晒した。


「やってくれるね……おかげでバレちゃったじゃないか」


 司祭は一転、楽しそうに言う。

 昼下がりの太陽が照らす面の下に顔は存在しなかった。

読んでくださった方々ありがとうございます。

前置きにある通り早いもので、私がこの作品を描き始めて2年の歳月が経ってしまいました。これもひとえに皆さんのお陰です。

何か特別なことをするつまりはありませんが、これまで積み上げて来たように、これからも書き続けられたいいと思っています。それは当然、魔技師を含みますし、もしかしたら魔技師を書き終えた後のことも含むかもしれません。


これからもよろしくお願いします。

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