81 前夜
お待たせしました。
今回は連続投稿ではありませんので悪しからず。
強く目を瞑り、意を決して開く。
受け入れ難い現実と向き合い、ノームは近づいていった。辺りは血に塗れていて中心にウェウリンが横たわっている。
街の外から急ぎ戻ったが間に合わなかったのだ。無惨な結果だけが残されている。血がつくのも厭わずしゃがみ込み、足下のウェウリンを抱き起こしたノームが震える声で名前を呼ぶ。
「ウェウリン……」
ジンになんと言えばいいのだろう。
そんなことが頭に浮かぶ。
弟子のことを考えろと独りごちて、改めて検分する。
ウェウリンは片腕を落とし、腹部に深い刺し傷があった。明らかな致命傷。おまけに血を流し過ぎている。既に死んでいることに疑いの余地はない。
「ノーム……」
掠れた声にぎょっとして顔を覗けば、ウェウリンは薄らと目蓋を開けていた。奇跡的にまだ息があったとでも言うのだろうか。だとしても風前の灯だ。もう助からないことに違いはない。
恐らく遺言となる。
ノームは最後の言葉を一言一句聞き逃すまいと耳を澄ませた。
ダズがノームを連れてきた。
無事に合流できたらしい。離れていたのは1日に満たない時間であったが、ジンは素直に再会を喜んだ。
「ノームさん、無事で何よりです」
「ああ、お陰様でな」
「ドクターたちは無事に?」
「街の外だ」
「それじゃあ師匠も一緒ですね」
ジンとしては師匠がこの場にいないのだから当然、予定通りドクター等と共に街を出たのだと思った。しかしノームが何やら言い淀む気配を見せたので訝しみ、何かあったのかと様子を窺った。
「ノームさん?」
「ああ、いや、そのウェウリンから伝言を預かっている」
ただの伝言なら言い淀む必要もない。
どこか釈然としないものを感じながら、ジンは伝言に耳を傾ける。
「為すことを成せ。私もやるべきことを成す。以上だ」
「為すことを成せ……」
「そうだ。戦力も少ない、とても厳しい戦いだが、俺たちで成し遂げよう」
並々ならぬ覚悟を持ってこの場にいる全員の顔をノームが見回す。ダズ、ムラサキ、ゲンキ、そしてジンは一様に気合の入った面持ちで見つめ返す。
誰にとっても偉大な紫位の魔技師からの激励に心を震わせない者などいない。少なくともこの場にいた面々はそうだった。
それからは顔を突き合わせ、様々な情報を元に作戦を煮詰めていく。粗方、意見が出尽くした頃には夜もすっかり更けていた。
「ジンは司祭を、ゲンキは繭の破壊だ。ダズは先頭に立って2人のフォロー、必ず送り届けろ」
「分かりました」
「おう!」
「承った」
口々に了解の返事をする。
ノームはムラサキに向き直る。
「ムラサキは左翼、俺は右翼だ。ジンが目撃したって言う継ぎ接ぎの異形がいた場合、俺たちが相手をする」
「承知しました」
それから、とノームが続ける。
「ザリュオンが出てくる可能性がある。頭の片隅に入れておいてくれ」
「そうですか、ザリュオン……」
裏切り者の名前が重くのしかかる。
ザリュオンと対峙した者は、他の者が援護に来るまで時間稼ぎに徹することに決まった。
「この作戦の最終目標は繭の破壊だ。次点で司祭の滅殺。だがこれは未達成でも構わない。繭を破壊でき次第、離脱する」
「司祭を止めなくていいんですか?」
ジンが単純に疑問を口にする。
「確かに司祭を止めなければ、再び厄災を繰り返すことになるかもしれない。正直繭の破壊だけでは時間稼ぎにしかならないだろう。だが、あの異子が目覚めればその時点で敗北と同義だ。それだけの力を持っている」
「つまり逆を言えば、繭の破壊さえ出来れば司祭を排除出来なくとも次に繋げられると?」
ムラサキが問えば、ノームは頷いて答えとする。
「魔技師連盟が動き出すまでの時間を稼ぐことも出来る。もちろん司祭を殺せればそれに越したことはないが、時間制限は繭の破壊までだ。それ以降は、どんな状況でも撤退に移行してもらう」
特にジンの方を見て言うのは、司祭との因縁があるからだろう。ジンは安心させるように頷いたが、ノームは胡乱げに見つめるだけだった。
結局、信じることにしたらしい。
撤退時の想定を共有したところで解散となる。
「最後に。決行は2日後の正午きっかり。それまでは準備したり、休息したり、それぞれ充ててくれ」
決戦の時は近い。
読んでくださった方々ありがとうございます。
2024/06/29/改稿しました。
作戦会議中にザリュオンの話を追加しました。




