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魔技師  作者: 檜山 紅葉
第4章 異形を滅する剣
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77 薙刀

お待たせしました。

 メモレクサスの中心へ偵察に向かう道中、ジンは街の静けさを訝しんで足を止めた。ジンの感知できる範囲に存在する異形の数、およそ1体。たった1体である。

 そしてその個体は非常に強力な魔力を感じさせた。

 ここでジンは迷った。果たして異形を倒すべきか否か。異形を回避して中心地の偵察を優先することもできる。

 そうしているうちに事態は動き出す。


「捕捉された!?」


 恐ろしい速度で件の異形の反応が接近してくる。もう目の前にいる。しかし姿は影も形もない。即ち不可視であり、適切な間合いを取ることが困難ということ。

 ジンは一旦、距離を取って様子を見ようとして、その眼前に巨大な拳が迫っていた。すんでの所で両腕を交差させて防御、勢いに逆らわず吹き飛ばされる。

 建物と接触し、そのまま外壁を打ち破って屋内へ転がった。勢いが死んだ所で立ち上がる。そしてすぐさま壁の穴から外に出た。

 空中に身を躍らせると異形の反応を目の前から感知する。着地したジンが瞬動術で離脱するのと、異形が建物を崩壊させたのは同時だった。


「攻撃の瞬間だけ透明化は解除されるのか」


 異形が両腕を叩きつける一瞬、建物と触れる間際に実体を露わにした。

 管の如く伸びた長い鼻を持ち、角は5本、扇のように耳を広げている。今し方、建物を崩落せしめた筋骨隆々の腕は毛深く、かと思えば下半身は人間の皮膚に近しい。だが構造は四足獣のそれである。にも関わらず二足で歩き、あまつさえ蹄を携える。尾はトカゲのように長く、鱗に覆われていた。

 様々な生き物の特徴を継ぎ接いだ奇怪な異形は、立ち昇る土煙の中、再び姿を消す。

 恐らく攻撃と透明化は両立できない。そう考察したジンは、その小さな隙に勝機を見出している。

 相手の攻撃を避けてカウンターをいれる。基本的な戦術だが、攻撃の直前まで相手の姿は見えないのだ。刹那のやり取りになる。その難易度を想像して、それでもジンは自分なら出来ると信じた。


「来いっ」


 三度、不可視の異形が肉薄する。

 ジンはまだ刀を抜かない。

 瞬きひとつせず、いつ来るとも知れない攻撃を待つには相応の胆力がいる。例え短い時間でも感覚は引き延ばされるからだ。

 そしてついにその時は来た。

 壁のような蹄が唸りをあげて出現する。

 鼻先に蹄が触れようかという瞬間、ジンの姿がかき消えた。


「無心一流・抜刀術」


 異形の股下で構えを取る。


黒条一閃(こくじょういっせん)


 黒い魔力が鞘から迸り、残光となって軌跡を塗りつぶした。黒い斬撃によって肉体を左右真っ二つにされた異形は、黒絶に冒されて切り口から消滅しながらもまだ動く。

 その巨大を利用してジンを押し潰そうとした。倒れ込む間際、異形の体は後方へ大きく吹き飛ばされる。


「今のは……薙刀?」


 フード付きローブで素性を隠した人物が身の丈以上もある薙刀を用いて、異形を薙ぎ倒したのが見えた。しかしジンが驚いたのはそこではなく、直前まで魔力を捉えられなかったことだった。

 しかし不思議と警戒心は湧かなかった。

 薙刀に見覚えがあったからだ。


「もしかしてドラコーン、さん?」


 謎の人物は背を向けたままだったが、わずかに反応したのをジンは見逃さなかった。異形が塵と化す間、沈黙は続き、やがて短い肯定の言葉が返ってきた。


「そうだ」


「やっぱり!生きていたんですね」


「来るなっ!」


 近寄ろうとしたジンに叫ぶ。

 ジンがその気迫に足を止めると、彼女は申し訳なそうな口調で言った。


「すまない。今は姿を晒すわけにはいかない。だが、まだこの街に残っているということは戦うんだろう?中心に座すアレと」


「はい。そのつもりです」


「その時、力になると約束する。それまでは詮索しないでほしい」


「分かりました。何か事情があるんですね。信じます。ドラコーンさんのこと」


「ありがとう」


「あっ、待って」


 ドラコーンはジンの言葉に感謝を示した。そして止める間も無く屋根の上に飛び上がると空虚な街に姿を消した。


「行ってしまった……」


 ひとり残されたジンは当初の目的を思い出す。予期せぬ再会は嬉しいものだったが、それはそれとして街の中心に向かわなければならなかった。

 ドラコーンはそのことについて何か知っている素振りを見せたが、それを聞くことは敵わなかった。となれば、やはり自分の目で確かめるより他はない。

 異変の根源を確かめるためにジンは再び駆け出した。

読んでくださった方々ありがとうございます。


丸2年で完結できるかな?と思っていましたが無理そうです。夏までかかると思います。たぶん。

それまでどうか、のんびりお付き合いください。

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