70 支部
お待たせしました。
連盟支部は半壊状態だった。
辺りには瓦礫が散乱している。
地下へと続く階段の付近は頑丈に作られていたのか崩れておらず、幸にして地上との行き来は可能なようであった。
「ひどい有様ですね」
「ああ、そして異形がうじゃうじゃと」
道中で遭遇した異形は、ノームの夢幻術によって文字通り煙に巻き、極力戦闘は避けてきたのだが、それは連盟支部が異形の巣窟になっていることを予め知っていたからだ。
屋内は狭い。遠目からは誤魔化せても近距離ではそうはいかない。早晩戦闘を余儀なくされることが予想された。だからこそ無駄な体力を使わずに温存してきた。
連盟支部跡には感じ取れる範囲で11体の異形が確認できる。個々の強さはそれほどでもないようだが、いかんせん数が多い。とはいえこれは地表部だけの数だ。地下にはこれを超える数の異形がわんさかいる。
「迅速に殲滅するぞ。騒がれれば周囲の異形が寄ってくる」
「はい。内訳は?」
「5五だ。最後の1体は早い者勝ち」
「では早速」
言うが早いかジンは動いた。
少し遅れたノームが、すぐにジンを追い抜いて前に出る。袂から小刀を取り出して手近な異形に接近。それに気づくのが遅れた異形を一刺しで仕留める。
ジンは追うのを辞めてコースを逸れると、瓦礫の影で此方を窺っていた異形へと踊りかかった。見つかっているとは思わなかった異形は慌てて飛びあがろうとするも、そこを上から押さえつけたジンの打撃。異形はあえなく落命する。
敵の強さは下級から中級程度。平時ならいざ知らず、戦いの経験を積んだ今のジンにとっては雑魚同然の扱いだった。
2人はみるみるうちに殲滅していく。
そして最後の1体。
「う、うぎゅ」
悲鳴を上げるより先にジンの拳が、ノームの短刀が、それぞれ腹と頸部に突き刺さる。肉を叩くあるいは斬る鈍い感触は、すでに慣れたとはいえ不快感は何ともし難い。
お互い眉根を寄せている顔を見て苦笑いを浮かべる。
「いい動きだった」
「ありがとうございます。ノームさんのおかげです」
「ははっ、そいつはどうも。怪我はないか?問題なさそうなら地下に進もうと思うが」
「いつでも行けます」
「おーし、じゃあ行きますかぁ」
小刀の血を払い、しかし鞘には納めないまま階段を下りていく。ところどころ証明が生きているものの全体的に薄暗い地下だ。
目標階層は地下7〜9階。以前訪れたこともある技術開発局の地下大工房を目指す。使えそうな武具が多数保管されていると目される工房群である。
「早速おいでなすった」
魔力感知に引っかかる反応は3体。
正面から来るのは2体。まず人型の異形。ぎこちない動きで身体中から骨を生やしている。並ぶもう1体も人型だ。ただし四つん這いで、目が肥大化している。そして最後の1体は蜘蛛型の異形。天井に張り付いていた。
「あの骨野郎はヤバい」
隣からノームの強張った声が聞こえる。その見解にはジンも頷きを返す。
もしあの全身から生える骨が射出可能なタイプなら、狭い室内では避けようがない。散弾のように飛び散る骨片によって、瞬く間に挽肉と化すだろう。
そうしている間に骨を生やした異形が痙攣し始める。それは力を溜めているようにも見えた。
「そこの部屋へ!」
咄嗟に近くの扉を開け、2人して部屋へと逃げ込んだ直後、凄まじい破砕音と共に悍ましい悲鳴が響く。
「ピギャャャ」
「グエエエッ」
注意して扉の外を覗けば、射出された骨に巻き込まれたのであろう異形たちの姿があった。唯一無事なのは骨を生やしていた異形だけであり、その異形の全身からは既に新しい骨が生え始めている。
壁に穿たれた無数の穴が射出された骨弾の威力を物語っている。それを食らった異形たちは、体にいくつも空いた穴から赤黒い液体を溢していた。しかしまだ息がある。
「次だ、次に奴が骨を発射した直後、次の骨が生えるまでの僅かな時間が隙になる」
「攻撃を誘発させるんですね」
「そうだ。俺の霧分身を使う。詰めるのはジンに任せたいが、どうだ?」
「やります。やらせてください」
ノームは頷き霧幻術で霧分身を作り出す。
霧分身が揚々と異形へ向かって走る。
新たに現れた霧分身に反応した異形が身を震わせた。
破砕音が再び響き、僅かに間を置いてジンが飛び出す。異形の体表からは骨の頭が覗いたばかりだ。霧と化した分身を散らしながら突き抜けて肉薄する。
異形だって待ちぼうけなわけじゃない。抵抗の表れとして両腕を前に出す。しかしその腕を掻い潜ったジンの掌底が異形の顎を突き上げた。
すかさずバランスを崩した異形に追撃をする。
ジンの放った回し蹴りを側頭部に食らった異形が、右肩から通路の壁に叩きつけられて亀裂を入れながらめり込んだ。ジンはさらに頭部へと正拳を突き入れようとする。
「ジン!避けろ!」
「……!」
徐ろに挙げられた異形の左掌から突然、先の尖った骨の杭が伸びたのだ。全身の骨を再生するのではなく、一部に力を集めて急速に再生させたのだろう。それはカウンターとして機能する。
そのまま杭が射出されるかと思われた。が、ジンも足掻く。突き出しかけた右の正拳を開き、挙げられた左腕を下から上に払った。
角度のズレた骨弾がジンの頬を掠る。
そこから一歩、摺り足気味に踏み込み、ジンは左拳を握り込む。
血の筋を宙空に引きながら、眼差しで射抜いた異形の頭部を殴打する。側頭部を陥没させる威力ある縦拳だった。その一撃で異形は四肢を力無く下げ、完全に沈黙した。
「ジン、大丈夫か?」
「はい、なんとか」
「しかし、よく対応できたなぁ」
「師匠の教えのおかげです。決めうちはするな、と」
予測は大事だが、パターンを固定してしまうと予期せぬ事態に対応できない。だから常に余白を残せとウェウリンは教えていた。
言うは易し。行うは難し。
ノームは感心しつつ、目だけは鋭く通路の先の暗闇へと向けていた。魔力感知には依然として、その先に巣食う異形の反応がある。警戒を解くわけにはいかない。
「そうか。ところで話は変わるんだが、おじさんが把握してるのは地下3階までだ。前に潜った時、その階層までは掃除したんだが、この様子を見ると異形は下層から上がってきたか、もしくは周りから集まったかで増えている」
「この先は未知数ってことですね」
「そういうこと。黒絶を使わなかったのは正解だな。消耗は抑えていくぞ」
「はいっ」
まだ息のあった四つん這いの異形と蜘蛛型の異形にトドメを刺して、2人は奥から新たに湧いてきた異形を注視する。
短くも長い道のりの予感があった。
読んでくださった方々ありがとうございます。




