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魔技師  作者: 檜山 紅葉
第4章 異形を滅する剣
72/94

69 黒絶

お待たせしました。

 ジンは訓練を続ける中で二段階の魔闘術と呼べるものを会得した。

 まず一段階目。

 それは生きている中で自然と体外に向けて発される魔力。これを操作、制御して行う魔闘術である。微小な身体強化を可能とし、持久力に優れる。

 そして二段階目。

 一段階目の上から黒い魔力、ジンの言う絶望の魔力を操作、制御して行う魔闘術だ。数瞬の間しか使えない代わりに爆発的に能力を向上させることができる。その上、触れたものを消滅させるという、ゲンキの使う魔技と似ているが本質は異なる凶悪な効果もある。しかしその反面、長時間発動させようとすると暴発する危険があった。

 ジンは二段階目の魔闘術を『黒絶(くろぜつ)』と呼ぶことにした。黒い絶望の魔力で黒絶だ。

 訓練後半は、この黒絶を常中することを目標に取り組んでいるが、その成果は芳しくない。ただでさえ消耗が大きく、失敗の度に膨大な黒い魔力を噴出させているのだから訓練の進みも遅くなろうというもの。

 だが悪いことばかりでもない。

 この訓練期間中、ジンの体術は目覚ましい進歩を遂げた。

 鈍っていた肉体、弱っていた精神は快復を果たし、勘を取り戻すばかりか以前より進化している。持っている手札が限られたからこそ磨かれたものというわけだった。


 そして訓練の最終日。

 時刻は夕暮れ時。

 ジンは三つ指の異形と戦おうとしていた。

 折り重なった脂肪のように弛んだ皮膚を揺らしていることから分かるように、三つ指の異形の歩は遅い。なので一見、どこからでも仕掛けられるように思われた。しかし生半可な攻撃では威力が殺されてしまい、有効なダメージになり得ない。

 まるで肉の鎧だった。

 この太ましい異形を三つ指とする所以は、その名の通りに指が3本しかついていないことにある。積み重なった皮膚の間から覗く、これまた太ましい腕の先についた指。黄ばんだ爪を見れば、肉幕に隠れて見えない足がどうなっているのか想像は容易い。

 禿げ上がった頭皮と落ち窪んだ眼孔。

 それより下を肉に埋めた異形は鈍重で、それだけに膂力はありそうだ。

 そんな異形を相手に、ジンは正面から近づいていく。


 推定、上級と目される異形を前にしても果敢に接近戦を挑む。ただし胴体は狙わない。斬撃は効きそうだが、今のジンの武器は徒手空拳。刀は所持していない。

 攻撃する部位は真剣に選ばなければならなかった。

 黒絶を使えば、どこを狙っても関係ないのだが、消耗が激しくリスクを伴う以上は使い所を選ぶ必要がある。

 ここぞという時を見極めるために、ジンは慎重に距離を詰めた。そして攻撃圏内に踏み入った時、三つ指の異形が徐ろに拳を振るってくる。予備動作のない図体に似合わない機敏な殴打だった。

 ジンは敢えて振るわれた拳の側へと進む。身を低くして拳を躱し、そのまま異形の背後に回り込み、その場で素早く跳躍。

 異形の目にはジンが消えたように映ったかもしれない。

 そんな、どこへ行ったと探している異形の頭上からジンが襲いかかる。

 黒絶を発動。かかと落としの姿勢のまま幾度かの縦回転を経て、黒の軌跡を宙に描き威力を増す。そして禿げ上がった異形の頭へと叩きつけた。


「うごおおおおぉ」


 聞くに耐えない絶叫が轟く。

 異形の頭部は陥没し、天辺まで己の肉の中へと埋まった。その衝撃で肉の隙間という隙間から汚らしい体液のようなものが噴く。伝播した黒い魔力に触れた端から異形は塵へと変わっていった。

 ジンは黒絶を抑止すると、攻撃の反動を利用して後方宙返り、着地した。


「だいぶ動けるようになったみたいだな」


「はいっ、体術を主軸とした戦いにも慣れてきました」


 残心するジンに声をかけたノームは、返ってきた彼の言葉に内心「そりゃそうだろう」と納得と呆れを浮かべる。

 この1週間でジンが滅した異形の数は100体を優に超える。その半数以上は黒絶を会得した5日目以降の成果だ。朝から夕方まで戦い尽くめの1週間だったのだから当然なのだが、それにしても異常な数を屠っている。

 そもそも当初、ノームは初めに強い異形を当てて、その後はゆっくりと戦闘勘を取り度して貰おうと考えていた。しかし普通の魔闘術を使えなかったり、黒絶という鬼札の出現によって予定は大幅に狂っていた。それでも1週間という限られた時間の中で、ジンはなんとか形にしてみせたのである。


「今日で訓練は終わり。明日は連盟支部に突入だ。明日に疲れを残さないよう、ゆっくり休めよ」


「分かりました。1週間ありがとうございました!」


「おいおい、頑張ったのはジンだろ?」


「それでも、です」


 ジンは復讐の中に生きている。

 それを知る由もないノームだが、その暗い瞳に相反しない律儀な性格と接する度、嘆息する。境遇さえ違えば魔技師になることもなかったろうに、と。


「はぁ、分かったよ。それでいい」


「はい」


「おじさん疲れたから帰るぞぉ」


 たらればに過ぎないと分かっているからこそ、今は出来ることをしよう。差し当たりそれは休息のことを指す。この1週間何度も通った道に2人の影が長く伸びた。

読んでくださった方々ありがとうございます。

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