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魔技師  作者: 檜山 紅葉
第1章 師匠と弟子
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07 師弟

ちょっとした説明回のようなもの。

 ジンが目覚めた翌日。

 病室にウェウリンが訪ねてきた。

 上体を起こした状態で、ジンはベッドの上から窓の外をボッーと眺めていた。その様子を見たウェウリンは何も言わず、黙って入り口近くの壁に背を預ける。


「ウェウリンさん。この間は危ないところを助けてくれてありがとうございます」

「私は仕事をしただけだ。礼には及ばない」


 ジンは徐ろにウェウリンへと顔を向けた。

 その目は、そのままジンの心の中を映していた。光は弱々しく、とても昏い。

 危うい、とウェウリンは思った。


「僕は、どうすればいいですか?」

「それは私に聞いても詮なきことだ。ジン自身が、これからどうしたい?」

「僕は母さんを探したいです。でもどうすればいいのか分かりません。考えても考えてもそれが空虚に思えてならないんです」


 ジンは一度に多くのものを失った。

 子供にとって家族というのは世界の全てと言っても過言ではない。狭い世界だからこそ、その中にあるものは大きく見える。

 それを失うということは、心に大きな隙間ができるということであり、未知の世界へ突然に放り出されるということでもあった。


「そういうことなら私から提案がある。ジンの母親を探すのにも都合がいいだろう」


 ウェウリンが壁際から離れて、ベッドの近く、ジンの正面に来るように立つ。


「魔技師になれ」


 困惑するジンに構わず、ウェウリンは魔技師になるべき3つの理由を語り始める。


「まず、これは先ほども言ったと思うが、ジンの母親を探すのに都合がいいからだ。魔技師は大抵が魔技師連盟、通称連盟に所属している。連盟の情報網は勿論、独自に情報収集の伝手を持っている者も多い。異形の関わる事件なら魔技師に頼った方がいい」


 魔技師連盟は数百人の魔技師が所属する組織で、メモレクサスの都市内に深く根を張っている。

 組織として表の顔を持っているわけではないが、裏では公的機関との連携も取っているし、保安組織とも協力している。さらに国の上層部とも繋がりを持っていた。

 また、ジンの母親の捜索も始まっている。普段であれば、ここまで迅速な対応は行われない。魔技師の数は少なく、より優先度の高い任務はいくらでもあるからだ。死んでいるかもしれない行方不明者の捜索など、異形が関わる事件だとしても後回しになるものだ。

 だがしかし今回は、近年見られる行方不明者の不自然な増加という、連盟としても動かなければならない理由があった。


「次に、ジンの身柄が狙われていること。今回攫われたのも、異形に襲われたのも、どちらも偶然ではない。まだ詳細は不明だが、死んだ男は誰かから指令を受けていたらしい。指示された逃走経路を使って、誘拐を実行したようだ。また狙われないとも限らない」


 異形というのは自分の縄張りのようなものを持っている。そしてその外側にはあまり出ようとしない。

 勿論それは絶対ではない。だが、今回の事件が起こった辺りに異形がいたという話を、ウェウリンは聞いたことがなかった。

 生まれたばかりだったのかもしれないが、実際に戦ったウェウリンはその可能性は低いと考えていた。根拠はなく、長年魔技師をやってきた経験からの判断だった。

 目的も何もかも不明だが、ジンを欲している者がいたことは疑いようがない。

 魔技師になったジンに手を出せば、連盟も黙ってはいない。姿の見えない相手は格段に手を出しにくくなるはずだった。


「そして何より問題なのが、現在のジンの状態だ。これが見えるだろう?以前は見えなかったこれが見えるはずだ」


 ウェウリンが右手を翳す。

 別に何が起こっているわけでもない。しかしジンの目はそれを捉えていた。

 ウェウリンの右手を覆う薄い膜のようなもの。白色に近い半透明で、ゆらゆらと漂い、まるで液体のようにも見える。

 ジンには、それがなんなのか見当もつかなかった。ウェウリンの言う通り、以前には見た覚えがないものだ。

 ジンが凝視しているのを確認して、ウェウリンが口を開く。


「右手に纏っているもの、これは魔力だ。魔力は感情から生み出されるエネルギーであり、人間に眠っている所謂、第六感が働かねば見ることもできない。私たち魔技師は、この第六感を勘覚と呼んでいる」


 魔技師たちの使う魔技という術は、この勘覚を鍛え、魔力を自在に操る力だ。魔技師として最低限の素養と言える。


「魔力が見えるということは、魔力の塊でもある異形が見えるということだ。故に勘覚が働くものは異形に怯えて過ごすことになる。戦う力を持たない一般人の中には発狂するものも少なくない。大抵は自殺する。魔技師の中にも心を壊すものはいるが、ある程度の耐性がつくからか、その数は少ない」


 そう言って、ウェウリンは右手に纏わせていた魔力を消した。長々とした話の時間が終わり、沈黙が訪れる。


「僕は……」


 その静寂を破ったのはジンだった。


「僕は、やっぱり母さんを探したいです」

「ふむ。それで?」


 ジンはウェウリンを正面に見据えて、自分の中にある強い想いを口にした。それは本人にとって絶対に表明しなければならない決意にも似た想いだった。

 ウェウリンに先を促されたジンが言葉を続けて言う。


「僕を魔技師にしてください」

「ならば、今から私がジンの師匠だ」

「よろしくお願いします。師匠」

「私は厳しいぞ、弟子よ」


 2人の間に師弟関係という名の繋がりができた。それは蜘蛛の糸のように細くとも力強く師匠と弟子の間を繋いでいた。

読んでくださった方々ありがとうございます。

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