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魔技師  作者: 檜山 紅葉
第3章 追い求めた真実が望んだものとは限らない
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64 外法

お待たせしました。

 ジンから放出された魔力が床に描かれた幾何学模様へと流し込まれていく。幾何学模様は輝きを発して魔力を増幅させる。何倍か、あるいは何百倍にも増幅された魔力は、黒い風となってメモレクサスの地下を駆け巡る。

 その荒れ狂う魔力の流れにはゾクりとさせるものがあった。それは間近で浴びたウェウリンも、広間に入ろうとしたノームも同様である。地上では支部長を含め、結界の維持に注力していた青位魔技師たちが、街の中心部から外縁に向かって広がる薄寒い力の波動を感じ取っている程度だった。


「絶えず自壊する世界。秩序は積み上げられては、また崩れる。災禍は平和の礎。平和は災禍の火種。未来永劫繰り返す人世の理たる混沌に仕える司祭にして、無貌の化身として命じる。偽りを捨て、真なる姿をここに」


 朗々と歌いあげる司祭。

 彼は想像を絶する魔力の荒波を完全に御し切って見せた。ゆえに彼の術は正しく、その効果を発揮する。


外法(げほう)異形転生(いぎょうてんしょう)


 まず、この広間の上にある時計塔。メモレクサスの中心に聳える時計塔の警備員が動きを止めた。警備員は次の瞬間には奇声をあげて、あまりの苦しみにのたうちまわった。

 突然に苦しみ始めた同僚を心配して駆け寄った別の警備員は、哀れにも血煙となってこの世を去る羽目になる。彼が今生の最後に見たのは、苦しんでいたはずの同僚が人面のまま爬虫類の姿へと変貌する姿だった。

 次に時計塔前の広場にいたカップルの片割れに異変が現れる。

この日、待ちに待った逢瀬を満喫していた男は、嗚咽を漏らし始めた恋人の背中にそっと手を添えた。彼女を気遣う彼は、自身の右腕を失ったことに気がつくより先に、愛する彼女によって頭から丸呑みにされた。

 このような惨劇がメモレクサスの中心から始まり外縁に至るまで、ありとあらゆる場所で起こった。街は阿鼻叫喚の地獄と化し、人々は混乱の坩堝へと叩き落とされる。

 そしてそれは魔技師も例外ではなかった。




 さっきまで隣にいた仲間が異形に変貌する異常事態に対処できる人間は限られる。その多くは経験を積んだ熟練者であり、逆に言えばそれ以外の人間は反応できなかった。


「がはっ、なぜ…………」


 膝からくず折れたのはジェット、青位魔技師だ。彼の胴体には大きな風穴が空けられていて、それをやったのは彼が仲間だと思っていたもの。同僚の青位魔技師である。

 ジェットは混沌教の教会を含む一帯を閉じる結界の一角を担っていた。しかし術の維持が覚束なくなったことで結界は消失する。通常、1人が結界の制御を手放しても消えることはないが、他方面でも同様の混乱があったがために結果としてそうなったのだ。


「ちぐ、しょ……めなしやろ、が」


 薄れゆく意識の中、最後までジェットは悪態を吐いていた。もし次に目が覚めたなら、コイツだけは絶対にぶん殴ってやろう。そう思った。




 大規模かつ強力な術を行使したことにより混沌教の司祭に動けない時間が発生する。一時的な魔力の枯渇である。それは僅か数秒間にも満たない時間的空白にして、魔力の再充填に必要な時間だった。

 何かをするには余りにも短い時間だが、その瞬間をこそウェウリンは待っていた。

 全速力でジンを回収すると同時に、司祭への目隠しとしてありったけの魔力を込めた白氷の壁を発生させる。司祭を取り囲むように出現させた壁を尻目に、ウェウリンはジンを抱えて広間の出口へと走った。


「やられたね……まあ、もう用は済んでいるし問題はないかな」


 魔力が使えるようになった司祭が壁を打ち壊した時には、既に2人の姿はなかった。これは実際には、まだ広間の出口に目掛けてウェウリンは走っているのだが、出口付近に待機していたノームがなけなしの魔力を振り絞って2人の姿を隠したのだ。

 ちなみに異子は逆流する負のエネルギーの受け皿となり、それを吸収して蓄えるのに勤しんでいた。そのため本人には動く気などさらさらなかったのである。

 斯してウェウリンとノームはジンを救出することができた。されどメモレクサスの街は阿鼻叫喚の地獄、異形跋扈する天外魔境と化し、魔技師たちは壊滅状態へと陥った。

 ジンが目を覚ましたのは、それから5日後のことであった。

読んでくださった方々ありがとうございます。

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