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魔技師  作者: 檜山 紅葉
第3章 追い求めた真実が望んだものとは限らない
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幕間 吸い殻を想う

予告通り投稿です。

ノーム視点というか、回想というか、そんな感じの話です。

 黒位魔技師ノーム、本名をメイミストノーム。

 彼が魔技師になったのは本当に偶然だった。



 まだ10代の頃、ノームは実に怠惰な生活を送っていた。昼は学校をサボって日当たりのいいベンチで昼寝をしていたし、夜は気に入りの寝具に包まれて熟睡する。

 彼はこの上なく睡眠を愛していた。

 そんなある日、公園のベンチでいつものように昼寝に興じていると突然、日が遮られたので何事かと目蓋を持ち上げる。するとそこには知らないおっさんがいた。まだ幾分は歳の若いガントであった。

 当時からガントは優れた勘覚の持ち主として知られていた。偶々通りかかった公園で昼寝をしている少年に魔技師の素質を感じ取ったので気まぐれに声をかけようと思った。


「おっさん誰だ?」


「……口の利き方には気をつけろよ、小僧」


「ぐえっ」


 とりあえずガントは、ベンチを占領する小僧の上に腰掛けた。ノームは突然、自分の上に乗ってきた重量物に潰れたカエルのような声を上げた後、なす術なく降参した。

 これが2人の出会いだった。



 それからノームは起きて姿勢を正し、正直に言って面倒だなと思いつつも、改めて隣に腰を下ろしたガントの話に相槌を打つ時間を過ごした。

 会話の中で魔技師を知り、異形を知り、魔力を知り、その力を証明されて、最初は訝しんでいたノームは、段々とそういう在り方を許容していった。そして……


「魔技師になれ」


「は?なんで俺が」


「なれ」


「……はい」


 圧力に屈した。



 修行を始めて1年も経つ頃には一端の魔技師に成長していた。ノームには才能があったのだろう。退学にならない程度に学校へ通いつつ、みっちりと扱かれて弱音を吐いた。

 そんな毎日に嫌気が差していたところ、異形の前に放り出される。

 ノームは突然のことに驚きつつも修行の成果を遺憾なく発揮して善戦してみせた。やる気はなかったが油断なく戦えていた。しかし覚悟が足りなかった。

 追い詰められた異形の思わぬ反撃に面喰らい、ノームは初めて異形に傷つけられた。今この瞬間に行っていた戦闘が、まさに命のやりとりなのだと、ノームはこの時になって初めて認識したのである。


「惚けるなっ!死ぬぞ!」


 動揺から頭が真っ白になったノームだったが、ガントの喝が思考の硬直を解き、すんでのところで異形の追撃を回避することが出来た。結局、そのあとは激痛で動きが鈍くなったノームに代わり、ガントが異形を始末して終了となった。

 ガントは葉巻をふかしながら、ノームに言った。

 本人の気質に文句はない。昼寝が恋しいのもいいだろう。でも。


「戦いになったら切り替えろ」


 その時は神妙に頷いたノームだが、意識の切り替えをどうすれば出来るのか考えるだけ面倒だったので、身近な人間を手本にしてそれで済ませることにする。

 真似できそうなことで印象に残っていることを取り入れよう。ものは試しとばかりに葉巻を吸ってみて、盛大に咽せた。



 学校を卒業するまでの間、ガントからは色々なことを教わった。いつしか先生と慕っていたし、一人前になったと認められた時には泣きそうにもなった。

 その後は魔技師として経験を積んだ。ちなみにウェウリンと出会い、彼女に大きな借りを作ることになったのはこの頃だ。

 そして長い時間を経て、青位魔技師になったノームは遂に先達と並べたことを誇らしく思い、あの事件が起きた。


「あの人が?嘘だろ?」


 青位魔技師になって数年、支部長からの誘いを受けて黒位魔技師になった。その矢先、魔技師殺害の容疑でガントが謹慎処分を受けることになった。

 初めは信じられなかったが、調べれば調べるほど疑惑は確信に置き換わる。容疑が確かなものか検証するための謹慎期間だったが、覆りようもないくらい証拠は揃っていた。あまつさえ余罪まで出てくる始末だ。

 それでも、とノームは思っていた。

 直接会って確かめようとしたが、すでにガントは逃亡していた。同僚を傷つけて。

 すぐに行方を追ったが掴めず、やっと北の山に向かったことを突き止めたと思えば、そこは既にもぬけのからだ。

 やったことの報いは受けさせなければならない。仲間を傷つけられた怒りがある。しかし、やはり何か考えがあったのではと淡い期待を捨てきれない。

 そんな甘さを自覚し、複雑な感情を持て余しながらもノームはガントを探し続けた。

 捜索は難航したが、ガントは再びメモレクサスの街に現れた。新興宗教である混沌教と繋がりがあるらしかった。



 ジンが拐われたと聞いてノームは直様、救出に向かうべきだと支部長に進言した。そしてすでにウェウリンが動いていると言われ、安堵の息を吐く。

 ジンとは付き合いが浅いものの知らない中ではない。むしろ短い期間とはいえ行動を共にしたことで、ノームの中では仲間意識が生まれていた。ジンと話して放っておけない危うさを感じたのも事実だが。

 ウェウリンが暴れるために結界を張ることになり、彼女の支援を支部長から命じられた時、ほんの微かな期待があった。

 混沌教と縁のあるというあの男。もしかしたら遭遇するかもしれない。もしも会えたなら、きっと問わずにはいられない。

 会うことを祈り、会わないことを願う。

 何に祈り、何に願ったかは分からない。

 しかし結末は、そう遠くない未来に待ち受けている。ノームは知る由もないことであるが、それだけは確かな事実だった。

読んでくださった方々ありがとうございます。



Q.昨日投稿した本編の分より文字数が多い?


A.気にしたら負けだと思ってる。

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