60 狼煙
お待たせしました。
累計3000PVを突破してました。ありがとうございます。感謝の気持ちと本編が少し短めの申し訳なさで、幕間となりますが明日も投稿します。
現在、混沌教の司祭が儀式を行なっている円形の広間。その出入り口を塞ぐように立つガントは、戦いとは呼べない蹂躙の余波を感じ取っていた。
足元に揺蕩う冷気が、敵の正体を伝えている。
ガントではウェウリンに勝てない。そう自己評価しているが、それは負けと同義ではない。戦術的勝利を目指すなら、ガントは負けない戦いをすればそれで良かった。無論、勝てるならその方がずっといい。
「久しいな。ウェウリン」
大回廊に横たわる暗闇から現れたのはウェウリンとノームだった。先制攻撃を仕掛けなかったのは、互いの力量を正確に把握しており、隙を晒すのを嫌ったからか。
ガントの言葉に反応したのはウェウリンではなく、ノームだった。
「報告で聞いちゃいたが、まさか本当に会えるなんてな。ガントさん、いやガント。俺はあんたに聞きたいことがある」
「ノーム、か。言ってみろ」
「どうしてあんなことをしたんだ。俺の知ってるあんたは皆の憧れで、魔技師の鑑のような人だった。なのに、なんでっ」
万感の思いの籠った縋るような問いかけは聴くものの心を動かす力があった。しかしガントは鼻で笑う。
「笑止。上辺だけを見て知った気になるのは、いつの世も若者の特権よな。特別にその勘違いを正してやろう」
愚者へと向けて言い放つ。
「俺は初めからこちらの側よ」
僅かな間を置いて、乾いた笑いがこだました。
「そう、か。ははっ、笑っちまうなぁ。俺は騙されていたことにも気が付かず、ずっとあんたを慕ってたってわけかい。とんだ道化だ」
信じていた男に裏切られ、それでもと片隅に残っていた『もしかしたら』という儚い希望も今、真実の前に潰えた。
「俺は大馬鹿野郎だ。分かってたはずなのにな」
顔に手を当てて自嘲していたノームは、すぐにいつもの調子へと自分を戻した。心を制御して動揺を鎮める術は心得ている。だが制御出来るだけであって、その動揺は完全に無くなるわけではない。それでも今は十分だった。
気怠げな顔のまま、しかし眼差しは鋭く。ノームはガントに宣告する。
「連盟の規定に則り、外法師ガントを死罪とし、黒位魔技師ノームが刑を執行する」
「お前にやれるか?この俺を!」
「やるしかねえでしょう、先生っ!」
ガントから目を逸らさないまま、ノームはウェウリンに声かける。
「というわけなんで、ここは俺がなんとかします。先に行ってください。弟子を助けられるのは師匠だけなんですから」
「……終わったら一杯付き合え。とびきり強いやつを用意しよう」
「へえへえ、いくらでも付き合いますんで」
そう易々とウェウリンを通すようなガントではない。ではどうするかと言えば、そのガントが迂闊に動けないほどの魔力をノームは放出すればいい。
ガントは顔色ひとつ変えず、ノームを視界に捉えた。すぐ隣を白い影が通り過ぎても微動だにしない。まるで巌のようだが、よく見ると口角が僅かに上がっていた。
「簡単には死んでくれるなよ?」
ガントの心には久しく忘れていた感情が去来していた。胸の高鳴りは何を意味するのだろう。それを思い出すのは少し先、戦闘が始まってすぐのことだ。
「ジジイにゃ、ちと刺激が強いかもしれないが……」
そう言ってノームは徐に葉巻とマッチを懐から取り出した。葉巻を口に咥え、続けて空いた手でマッチを擦る。火の点いた葉巻は煙を生み出して、呼吸と共に体内に回ったそれが吐き出される。
戦いの狼煙は上がった。
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