58 神秘
先月のPVアクセスが、先々月の2倍という客観的データに戦慄しています。いや何があった…?
それはそれとしてお待たせしました。
ウェウリンの通った後は例外なく霜が降りる。冷気として放出される魔力が室温を急激に下げているのだ。
そして冷気とは低きへと流れるもの。
階段の下で待ち構えていた異形の信者たちは、極寒の冷気に込められた強大な気配に慄いていた。彼らは足が凍りついてしまったかのようで、身じろぎひとつ出来ないまま、怯えた眼差しで階段の暗闇を見つめていた。
靴音が接近を知らせる頃には、彼らのいる通路は冷凍庫の中のような有様だ。そこへついにウェウリンが現れる。
「出迎えご苦労様」
ウェウリンは異形の間をすり抜けるようにすれ違い、指を鳴らした。天井から人間の腕ほどの太さをした氷柱が伸びる。彼女の魔力で成長したそれは鋭利であり、彼らを脳天から串刺しにしたのだった。
その後も遭遇する異形、その悉くを屠りながらウェウリンは進む。
そして……大回廊へと出る。
「ふむ、風情が変わったな」
そこはメモレクサスの地下に広がる下水道のさらに奥、地中深くに存在する遺構であった。幅広い廊下は地下水道としての役割を果たしつつ、細部に施された意匠や同じ石積みでもより丁寧に施工された様子など、人の往来を考えさせる造りとなっている。
この場所に足を踏み入れたウェウリンには残念ながら、過去のロマンに思いを巡らせる時間はない。それはジンの救出を優先するためであり、それを足止めされるからである。
「オラクとラクルがお世話になったわねぇ」
艶のある声が暗い地下大回廊に反響し、続いて足音が2人分、近づいてくる。闇より出でたのは顔を黒いベールで隠した女、そして鎖で繋がれたニンゲンの姿。後者に関しては辛うじて人間に見える程度である。
「誰だ?」
「双子がいたでしょう?貴女が砕いた生意気で可愛い双子。覚えていない?」
「生憎と死人に興味はなくてな」
「じゃあ私たちのことは覚えてね。死ぬのは貴女の方だから」
随分ねっとりした話し方をする女だった。
女は尚も挑戦的に名乗る。
「私はミステリアス。こっちの駄犬はレオナルド。異形を従えていたものが、今度は従えられているなんて……滑稽だと思わない?」
「趣味が悪い」
「面白くないのね、貴女?」
悪趣味だと断じたウェウリンが気に入らない。顔が一瞬だけ歪み、しかしすぐに穏やかな笑みを浮かべ直す。ベールに覆われて物理的に見えないので、ミステリアス本人にしか分からない機敏だが。
「まあいいわ、少しお話ししましょう」
「そんな時間はない。押し通る」
「もうっ、せっかちなんだから。慌てない慌てない、ね?」
「ほう?」
冷気を伸ばし、ミステリアスを名乗る女の動きを鈍らせ、そのまま氷漬けにしてやろうと実行したウェウリンだが、彼女の周りに冷気が入り込まないのを確認して顔を僅かに引き締める。
ウェウリンが負けることはありえない。しかしながら瞬殺できるほどミステリアスは弱くない。それを認めるだけの技をミステリアスは行使していた。
「んふふ、驚いた?この技はね……」
「自身も魔力を放出し、渦を巻くように安定させることで他者の魔力干渉を弾いた……と言ったところか」
「貴女、本当につまらないのね」
「言葉から余裕が失われているぞ、ミステリアス?それと、そのような児戯で悦に浸るのは止した方がいい。見ているこっちが恥ずかしいからな」
「……足止めだけのつもりだったけど、もういいわ。噛み殺せぇ、レオナルド!」
時として人は正しさに屈辱を覚える。
それが煽るつもりなどさらさらないのであれば、尚更に腹が立つものだ。
許容を超えた怒りのままに、ミステリアスは声高に叫ぶことでレオナルドを解き放つ。鎖を引きちぎって疾走する姿は、まさに四足獣のそれである。
指先のない指は強烈な握力を、縫い合わされた目蓋は暗黒の世界に超感覚を授ける。背骨の浮いた猫背はしなやかな肉体の象徴だ。鋭い牙を覗かせる口から唾液を滝のように垂らしながら、レオナルドは獲物に飛び掛からんと地を蹴った。
「死ね」
凍りついた石床で足元の滑らない膂力に些かの感嘆も抱かず、ウェウリンは床から氷柱を生み出す。空中にいるレオナルドは避けること能わず、腹部から刺し貫かれた。
しかしそれで終わらない。
辛うじて人間を保っていたレオナルドは絶命を経て、異形として再誕する。
耳を劈く断末魔を産声にして、氷の槍を砕いて地に降り立つ獣は、四腕二顔の怪物だった。
読んでくださった方々ありがとうございます。
レオナルドくんは使い物にならない(混沌教会比)のでリサイクルされました。




