55 懐胎
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混沌教会の地下は広い。何せメモレクサスの地下に広がる下水道に手を加え、勝手に流用しているのだから当然だ。複雑に入り組んではいるが、場所によってはメモレクサスの中心、そのさらに地下深くまで教会は繋がっている。教会は下水道を介して街の至る所に根を張っていたのだった。
教会が整備した地下通路のひとつをジンは文字通り引き摺られて歩かされていた。手枷から伸びる鎖を引っ張り、ジンを連行しているのは混沌教の狂信者だ。
ジンの頭の中は「どうにかして母を助けられないか」そのことで一杯だった。最も太い精神の支柱が脆くも崩れ去ろうとしているのだから当たり前だ。
しかし全く冷静でないわけでもない。その残った理性によって、ここ数日で混沌教について分かったことが思い出される。
まず混沌教には表の信者と真なる信者が存在する。真なる信者だけが司祭の目的と混沌教の存在理由を理解しており、表の信者は教義に救いと安寧を求めているに過ぎない。そして教団の幹部は全て真なる信者から選出されているらしかった。
司祭を頂点として、その下に幹部が5人いる。その中の2人はジンも知っていた。レオナルド、そしてガントである。
残りの幹部の名前は分からなかったが、それぞれの外見的特徴は判明している。ジンは偶然それを知る機会を得ていた。
ジンが監禁されていた部屋には2人の見張りがついていた。余程、退屈していたのだろう。扉の両脇に立ち、どちらからともなく話始めた。最初は当たり障りのない世間話であったが、次第に混沌教の内部へと話題は移ろい、最終的に幹部連中が話題に上がる。
異形を調教して操るレオナルド。
双子の幹部オラクとラクル。
司祭の腹心にして幹部筆頭のガント。
性別以外の一切が謎に包まれている女幹部ミステリアス。
ただ、それらが分かったからと言ってジンにできることは何もないのだが。
唐突に視界が開けて顔を上げる。ジンは円形の広間に出ていた。
広間の中央には石の台座があってそれを囲むように、床には不可思議な紋様が描かれている。そしてその台座の上には人間が横たえられており、その近くに司祭が佇む。
「母さん!」
台座に横たわる人間が自分の母だとジンには一目で分かった。
「ぐっ、母さん!」
思わず駆け寄ろうとしたジンは冷たい床に転がることになった。鎖を強く引っ張られてしまえば何もできなくなる。それでも声の限り呼びかけたが、横たわる母は何の反応も示さない。目は虚でどこか遠くを見ている。
「くくくっ、静かにしたまえよ」
「母さんに何をした!」
「言っただろう。必要なことをしたまでだ。それよりそろそろだ。目を離さず、注意深く見守ることだよ」
確かにジンの母の姿は異様だった。
まるで妊婦のように腹が膨れている。ジンが最後に会った時、母親はああなっていなかった。いったい何をされたというのか。
ジンが歯噛みしていると、母の腹が不気味に蠢いた。
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