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魔技師  作者: 檜山 紅葉
第2章 世に混沌のあらんことを
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49 待望

お待たせしました。

 ドラコーンは時折よろめきながらも懸命に足を働かせる。ゲンキにジンのことを頼まれた以上は、ジンに何かあったのだろうと察していた。

 近くまで行くと案の定、ジンは地面に膝をついて、片手で頭を押さえていた。


「ジン、大丈夫か?」


 だが声をかけても反応がない。

 顔は血の気が引いて青白く、視線は異形を捉えて離さない。ぶつぶつと絶えず何かを呟いている姿は、その場にいるドラコーンではなくとも異様に思えたことだろう。

 ドラコーンがジンの肩に手を置き、軽く揺さぶりながら再度、声をかける。


「おい、しっかりしろ」


 やはり反応はない。

 どうすればいいかと考えたドラコーンは、自分の体を使ってジンの視界を隔ててみることにした。どうやらジンは異形の姿を目で追っているようだから、これが目に入らなければどうかと考えたわけだった。

 ジンの前にしゃがみ込み、その両肩を強く掴む。

 ドラコーンが目を覗き込んでやると虚だった瞳が揺れて、焦点が彼女に合わせられた。

思いつきは上手くいったようだ。


「ジン」


「ドラコーン、さん?」


「やっと気がついたか」


「ゲンキは、どこに?」


「戦っている」


 ドラコーンが視界から外れると、ゲンキが異形とやり合っているのが見える。彼はボロボロであり、すでに限界が近いことを察するにあまりあった。


「加勢を……ぐっ!?」


 立ちあがろうとしたジンの頭に刹那的な激痛が走る。痛みに伴って視界を光で埋め尽くすような眩暈も起こり、ジンは反射的に頭を抑えて蹲った。


「無理をするな。顔に怪我をしているわけでもない。であれば余程、脳に負荷をかけたのだろう。鼻血が垂れているぞ」


 言葉のままに視線を地面へと向けると鮮血が滲みを作っていた。赤い雫が鼻尖を伝ってぽたぽたと零れ落ちる。それを袖口で拭うジンにドラコーンが言葉を続けた。


「先ほどゲンキとのやりとりの間に救援要請信号送信機のスイッチを入れておいた。いずれ救援が来るはずだ。それまで時間を稼げれば、この場は私たちの勝ちだ」


「でも、ゲンキが」


「分かっている。だから私が薙刀を拾い、ゲンキに加勢する。ジンは少しでも回復を優先しろ。分かったな?」


「……動けるようになり次第、僕も加勢します。だから死なないでください。ゲンキも。そしてドラコーンさんも」


「当たり前だ」


 決意を秘めた頷きを残してドラコーンは駆け出した。彼女も既に満身創痍だが、まだ手足は動くし、魔力だって使える。ジンとゲンキが救援要請をする隙を作ってくれた。ならばここは時間稼ぎの一助になるべきだった。

 ジンはドラコーンが薙刀を拾うまで見守った後、気が気でないながらも心を鎮めるべく目を瞑った。瞑想を行うことで回復を早める狙いだ。どうせ動けないならと割り切っての行動だった。

 2人を信じているとも言える。

 自分が加勢に向かうまで持ち堪えることを信じ、無事を祈ることも忘れて、ジンは徐々に瞑想へと入っていった。




 薙刀を回収できたのは運が良かった。

 ゲンキと異形は戦闘をしている間に少しずつ戦場を移動していたらしい。お陰で薙刀を拾うのに邪魔は入らなかった。


「ゲンキ!待たせてすまなかった!」


「ジンは、ジンは無事か?」


「ああ、今は少しでも回復するように言ってある」


「よっしゃ。なら俺らで」


「いい加減諦めなよ」


 ゲンキの言葉を遮って、優男の声が降ってきた。


「来るかも分からない救援なんて待ってても無駄だから。なんでそれが分からないかな。さっさと絶望に打ちひしがれて、許しを乞いながら死んでいけばいいのに」


「死ねって言われて素直に従う奴が居るわけねえだろ。バカか?」


「口の聞き方には気をつけろよ小僧?ふん、そうだな、先にそっちの動かないガキを殺そうか。そうすれば少しは救いがないことを理解してもらえるだろうし、な」


「ああん!?ふざけんなよ!」


 ドスの効いた声で苛立ちを露わにした優男は、さらにジンを殺すとまで言った。ゲンキが額に青筋を浮かべて声を荒げる。

 しかしこの時点でドラコーンは優男の浅い器を見切っていた。

 ドラコーンが1人だった時はいざ知らず、ジンとゲンキが登場した時点で、もう1体の異形も参戦させるのが常道である。それをしなかったのは何故なのか。

 それだけ異形の強さを過信しているわけではない。より時間をかけて嬲り殺しにする腹積りなのは真実だろう。だが全てではない。

 優男は臆病なのだろう。

 弱者を踏み躙ることでしか悦に浸れず、異形を護衛として侍らせないと安心できない。故に弱者だと思っている相手に暴言を吐かれれば、小さな自尊心を満たすために憤る。

 ドラコーンは優男が小心者だと断じ、冷たい眼差しを向けた。それが優男には気に食わなかったようだ。目を血走らせてドラコーンを睨みつけている。


「なんだその目は……そんなゴミを見るような目で、この俺のことを見るなァ!!」


 肩を怒らせた優男が叫ぶ。


「殺せ!その女を殺せェ!」


 ゲンキと戦っていた異形が触手をうねらせる。今まで相手にしていたゲンキを無視する形で体の向きを変えて、ドラコーンに襲いかかろうと殺意を飛ばしてきた。

 ドラコーンは迎撃を選択した。


「笑止!吠えるだけの犬など怖くもない!」


 口では煽りつつも、ドラコーンは決して1人で戦おうなどとは思っていない。回避に重点を置き、ゲンキと連携して凌ぐ。時折、屋根の上にいる優男を侮辱するのを忘れない。注意を惹きつけられず、ジンに手を出されては堪らなかった。

 また、こちらから攻撃を仕掛けるのは危険だった。やはり自在に動く触手は厄介で、それが3本もあるのだから隙は少ない。再生能力も高いので、四肢を奪っても決定打にはならないのも痛い。

 屋根上にいる優男は時間が経てば経つほど苛立ちを募らせている。罵詈雑言、呪詛を吐き続ける優男を無視して、それでも戦いは続いていく。

 そして……


「待たせたな。助けに来てやったぜ」


「青位魔技師だと……」


 灰色の髪に、赤いジャケットの男。

 青位魔技師のジェットが駆けつけた。

読んでくださった方々ありがとうございます。

ようやく連盟支部から救援が来ました。

41話「集会」に登場した青位魔技師のジェットさんです。青位魔技師がどれだけ強いのか。読者の皆さんへ伝わるように描きたいですね。頑張ります。

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