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魔技師  作者: 檜山 紅葉
第2章 世に混沌のあらんことを
50/94

48 暗黒

お待たせしました。

 主を滅したことで異界が崩れ始めている。

 ジンは強烈な頭痛に襲われていた。


「おい、大丈夫かよ?」


「くぅ……はい、大丈夫です」


「あれだけの数を並列して操作、制御してたんだから当然っちゃ当然か。なあ、そのままでいいから黙って聞いててくれや」


 地面に膝をつき、腕で上体を支えながら、なんとか顔を上げてゲンキを視界に収める。


「同じ班になった時から思ってたんだがよ、俺に対して敬語使うのやめてくれねえか。なんていうか、背中がむず痒くなる!」


「ははっ、今言うことですか」


「バッカお前、今だからこそだよ。俺たちゃ共に死戦を潜り抜けた謂わば戦友だろ?仲間なんだから、タメ口でいいぜ」


 他人に失礼がないように礼儀正しく、ここ数年を生きてきたジンには、もうすっかり敬語が馴染んでしまっていた。だから急にそれをやめろと言われても難しい。

 とはいえ相手からタメ口で良いと言われているのに、それでも敬語で接するというのは逆に礼を失している気もしていた。

 頭痛が酷いジンは、それ以上に深く考えることはせず、ゲンキと話す時の努力目標として据えることにした。


「できる限り努力しま……するよ。これでいい?」


「ああ、そっちの方がいいぜ。ありがとな。それじゃ改めてよろしくな、ジン!」


「こちらこそよろしく、ゲンキさん」


 さん付けで呼んだ後で、そのことに気がついたジンが苦笑いを浮かべる。ゲンキも「早く慣れろよな」と言って苦笑していた。

 そうこうするうちに異界は完全に崩れ去った。ジンとゲンキは異界が展開される前まで立っていた裏路地に戻ることが出来た。そして目の前の光景に愕然とする。特にジンが受けた衝撃は大きかった。


「は?なんで、意味が分からない……だってアレはあの時に師匠が、確かに目の前で」


 そこでは新手の異形がドラコーンを宙吊りにしていた。彼女の首には黒い触手が巻き付いて締め上げている。苦悶の表情で触手を掴み、地面から離れた足を動かして蹴りを入れるなど抵抗を試みているようだが、異形にはまるで効いていない様子だ。足下には彼女の薙刀が落ちている。

 それを見たジンは信じられないものを見たように目を見開き、急に思い出された過去の出来事のせいで顔色を悪くしながら、ぶつぶつと独り言を呟き続けていた。


「なっ、お前までどうした!?しっかりしろよ。助けねえとヤバイだろ、あれは!すぐに行かねえと死んじまうぞ!?」


 それでもジンの独り言は止まらない。視線は異形へと釘付けにされている。これは当然の反応だった。なんせジンは、あの異形を以前にも見たことがある。

 全身を黒い表皮に覆われた頭部のない人型の異形。右の肩口から腕の代わりに生える3本の触手。この暗黒の存在は、かつてジンを襲った異形と寸分違わぬ姿形をしていた。

 今、ジンの脳内を占めているのは強烈な頭痛と疑問、それからあの日の出来事だけだった。だからゲンキがどれだけ呼びかけても、ジンは反応を返さない。否、返せない。


「くそっ、俺ひとりで何とかしなくちゃならねえか」


 新手の異形は間違いなく上級で、それ以外にも屋根の上に1人と1体が控えている。戦力差を考え、それでもドラコーンを見捨てる選択肢はゲンキの中に存在しない。


「異界を破ったのは褒めてあげよう。でも疲れてヘロヘロの君に何が出来るんだい?悪いことは言わないから、そこで黙って観ていなよ。仲間が時間をかけて、じっくりと締め殺されるところをさ」


「んなこと出来るわけねえだろうがッ!」


 屋根の上から降りかかる男の声にゲンキは激昂する。そうやって冷静さを奪うのが狙いだと気がついていて、それでも昂ぶるままドラコーンと異形へと肉薄した。

 ゲンキが拳を振り上げると異形がドラコーンを盾にするように動く。その知能の高さに驚かされ、仲間を傷つけまいと躊躇いを見せた瞬間、異形はドラコーンを振り回してゲンキにぶつけようとした。

 ゲンキが驚いたのは一瞬、すぐに膝を曲げて地面に沈み込む。柔軟な動きで回避、そしてバネのように前方へ跳ぶことで異形の懐に入り込んだ。


「テメェ!さっさと離せ!」


 触手の付け根へと掌底を当てる。すると破気衝撃が流れ、右肩部が爆散した。しかし破裂した範囲は狭い。まだ魔力は出せるが、ゲンキもまた連戦は堪えていた。

 触手が千切れたことで、振り回した勢いのままドラコーンが宙を舞う。そのまま地面へと投げ出されたが、ゴム質の触手がクッションとなり怪我はしなかった。

 ゲンキは掌底の後、間髪入れずに異形の胴部へ蹴りを繰り出し、その反動を利用して距離を取っていた。


「おい、立てるか?」


 視線を異形に固定したままゲンキが問いかける。


「……もう、大丈夫だ」


 地面に手をついて上体を起こすと咳き込んでいたドラコーンだったが、ゲンキに問われると触手を打ち捨てながらそう答えた。

 そうして立ち上がるドラコーンに、ゲンキがさらに声をかける。


「わりぃ、ジンのこと頼む」


「心得た。だが無理はするなよ。遊ばれているうちはいいが、奴等は強い」


「上等!」


 元よりゲンキは時間稼ぎのつもりだった。想像し得る最悪の事態が推移していると思しき現状、連盟支部からの救援を当てにしての時間稼ぎである。いつ来るか分からないが、救援自体は来ると確信していた。


「さて、俺が相手になってやる。かかってきやがれ」


 異形は既に体勢を立て直し、今は触手を再生していた。肩口が泡立ち、真新しいと言えばいいのか、ぬらぬらと黒い光沢を放つ3本の触手が生えてくる。

 その様子を眺めながら、ゲンキは密かに当惑していた。なぜなら目の前の異形は、異形受肉体ではなかったからだ。掌底や蹴りを叩き込んだ時の感触然り。破裂させた時も血や臓物を撒き散らしたりしなかった。


(難しいことは全部あとだ、あと。んなこと考えてる余裕、すぐになくなるだろうしな)


 勝利条件は救援が来るまで持ち堪えることだ。

 しかし相手は余力があり、追加戦力まで控えている。対するゲンキは限界が近い。

 それでもゲンキは全身の神経を研ぎ澄ませていく。なけなしの魔力を振り絞り、それを効率的に運用するために勘覚を働かせた。ひとつのミスでさえ命取りになるだろう。

 立ち昇る死の香り。

 肌がひりつくような緊張感。

 獰猛な笑みを浮かべながら、命と精神を削る長夜の戦いか始まる

読んでくださった方々ありがとうございます。


ジンの因縁の相手が再登場しました。

似ていることはあっても、姿形が全く同じ異形は存在しません。しないはずなのですが、ジン視点だと全く同じに見えます。そのカラクリは後々明らかになることでしょう。プロットを修正することはあっても、根幹の設定を変えることは無いと思うので大丈夫です、多分。


追記。ゲンキは戦闘狂です。

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