38 打刀
お待たせしました。
地下大工房では作業場に0番から99番までの番号が振られており、ひとつの班が10人で100班、およそ1000人もの人間が、それぞれの作業場で業務に勤しんでいる。
彼らが取り組むのは主に魔技師の武装の修理や製造と、技術開発局研究部から委託された素材の加工や新製品の組み立てだ。勿論それ以外にも多岐に渡る。
ジンがカルナに連れられてやってきたのは作業場の21番。魔技師の武装を扱う班の中でもトップチームと目される第21班が汗を流す作業場だった。
「その辺に適当にかけといて」
「は、はい」
普段から椅子として使われているのであろう。テーブルの前にいくつか置かれた木箱、そのひとつを使う。ジンが腰掛けてすぐに、カルナが紙束とペンを持ってきた。カルナは腕を使って大雑把にテーブルの上のもの、工具や何やらを端に寄せると持ってきた紙束をテーブルの上に置いた。
「よしっ、何から話そうか」
「その前に確認なんですけど……」
「ん?なになに?」
「カルナさんが剣を作ってくれるんですよね?」
カルナはドクターとの会話の中で「アタシが剣を拵えてやる」と発言していたが、それはジンに向けられたものではなかったので、まずはそこを確かめずにはいられなかった。
カルナはニンマリと笑い、肯定した。
「当たり前じゃん!アタシがジンの手に馴染む最高の剣を打ってやるよ!そのために色々と聞きたいことがあるんだけどさ」
そこからは怒涛の質問責めだった。
どんな剣を使っていたのか聞かれれば、お守りとして腰に佩いていた剣を見せたし、流派や型など剣の握り方や振るい方を聞かれれば、実際に剣を握らされて振って見せたりもした。この時に使った剣は数打ちの使って問題のないものだった。
体重や身長は勿論、腕の長さから足の長さに始まり、手の大きさ、指の長さと太さ、関節の可動域など身体の隅々まで調べられる羽目にもなった。
ジンの要望なども加えられた結果、いくつかの候補が絵に書き起こされた。サンプルとしてカルナが書いたものである。
「片刃の剣、ですか?」
ジンの目を惹いたのは反りのある刀身に片方だけ刃の付いた剣、打刀だった。
「それは刀だね。斬ることに主眼を置いた武器。切れ味は抜群だけど、腕が未熟だとそもそも斬れなかったりする。でもジンは斬撃を主軸に、速さも大事にしてるみたいだし、意外と合うんじゃないかと思って入れてみた」
「数打ちの品はありますか?」
「お、振ってみたい感じ?」
「ちょっとイメージが湧かなくて」
「分かった。ちょっと待ってて」
カルナはそう言って、ふらりと何処かへ行ってしまった。その間にジンは、他の候補にも目を通してみる。
元の剣と殆ど同じ直剣、ジンの身の丈ほどもあるロングソード、そして先ほど目を惹いた刀である湾刀の一種、打刀。他にも幅広の大剣など扱えなさそうなものまであった。
ジンとしてはこの打刀に心惹かれるものがある。その刀に思い馳せてカルナが帰ってくるのを待っていること暫く、向こうの方からいそいそとカルナが戻ってきた。その手には一本の刀が握られていた。
「いや、お待たせお待たせ。刀は特殊でさ。専用の作業場があるんだよ。お陰で取りに行くのに時間かかっちゃった」
「お疲れ様です」
「ありがと。それよりさ、ほら」
ずずいっと刀が差し出される。
ジンは刀を受け取るとすぐには抜かず、まず鞘に収まった状態で眺めてみた。紐を巻いただけの簡素な柄で、鍔には何も装飾が施されていない。とりあえずという風に刀身は素木の鞘に納められている。それからゆっくりと鞘から引き抜いて現れたのは、反りのあるおよそ60センチメートルの刀身である。
「振ってみても?」
「周りには気をつけてね」
その場から少し離れて十分な間隔を確保したところで刀を振り上げ、無心一流として体に覚え込ませた動きのまま振り下ろす。間髪入れずに切っ先を跳ね上げて切り上げ、右から左へと流れるように袈裟斬りにし、今度は左から右へと横に薙いだ。
ジンの使う無心一流にはこれといって決まった型がない。斬撃動作を固定してしまうと異形を相手にした時、臨機応変に対応できない場合があるからだ。しかし技は存在し、ジンは今その技を遺憾なく発揮して、剣舞とでも言うべきものを披露していた。
「すっごい、前に刀使ったことあった?」
「いえ初めて、です。でも不思議と僕の動きに合う。まるで初めからそれを想定していたみたいに、不思議と合うんです」
カルナが見惚れている中、その剣舞を続けているジン自身、驚きの最中にいた。今まで扱ったことのない武器をこれほど使いこなせるとは誰しも思わないものだ。その秘密は、やはりその技にある。
柄の握り、腕の振り方、肩の動かし方、足の入れ替え、歩法、腰の捻り、重心の移動など剣術の初歩、基本にして奥義と言われる身体の使い方こそ無心一流の真髄だった。瞬剣や飛剣などは確かにジンの必殺技ではあったが、身体操作の技法が無心一流の大部分を構成しているのである。
そしてその技法が偶然、刀を扱うのに適していたはずがない。
無心一流を編み出したのはジンだが、それを共に完成まで導いたのはウェウリンだ。師匠である彼女は初めからジンに刀を使わせることを想定していた。それが変化したのはジンの才能により深く触れてからだった。
剣であればどんなものでも使えるように。
ジンの中に眠る潜在能力を、あるいは剣術の才能を潰さないために可能性を広げる形へと完成形を変化させていった。
「カルナさん、決めました。僕の新しい武器は打刀にします」
やがて剣舞を止めたジンは、そう言って刀を鞘に納める。表情から相応の手応えを得たのだと知ったカルナは、抑えきれない興奮を爆発させてジンに抱きついた。
「ちょっとカルナさん!?」
「ジン!お前っ、すごいなっ!」
それは純粋な賞賛の言葉だった。
抱擁を解いたカルナは足を肩幅に開き、左手を腰に、右手で握り拳を作ると、親指を立てたそれを自分へと向ける。
「アタシにできる最高の刀を打ってやる!」
「はい!お願いします」
「おう!任せとけ!」
カルナの笑顔は、鍛冶場の火も霞むほど眩い、太陽のような笑顔だった。
読んでくださった方々ありがとうございます。
今回、ジンの新しい剣が刀に決まりましたね。実はプロットの段階から、ジンには刀を持たせると決めていました。しかし刀の種類についてはそれはもう最後まで悩みました。小太刀というのもいいし、直刀というのもいい。でも打刀も捨てがたいとこのように頭を悩ませたわけです。正直、今も迷っています。刀はどれも素敵ですので。
それでは、また次回をお楽しみに!




