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魔技師  作者: 檜山 紅葉
第1章 師匠と弟子
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04 魔女

前回に引き続き、ややグロいので注意。

 光を通さない暗黒が路地を塞いでいる。

 よく見れば人型のそれは、がっしりとした肉付きの逞しい脚で屹立していた。

 よく引き締められた逆三角形の肉体は、一見すると人間に酷似している。しかし全裸にも関わらず、性器の類がまるで見当たらないことから、およそ人からかけ離れた存在であることが伺えた。

 右の肩口からは、腕の代わりであろう3本の触手が生えている。触手たちは互いに絡み合い、絶えず蠢いていた。その生々しい動きが見るものに生理的嫌悪を抱かせる。

 だが、なによりも暗黒の人型を異形たらしめていたのは、本来ならあって然るべき頭部が存在していないことだった。

 首がなく、頭がないのだから当然、顔も存在しない。その当たり前の事実が怪物をより不気味に演出していた。


「…………」


 言葉を発せず、逃げることも出来ず、ジンは見入るしかなかった。

 暗黒がにじり寄ってくる。暗黒の内では命の灯火も消えてしまうに違いない。

 やがて暗黒は、ジンに触れられそうな位置まで来ると足を止めた。そして伸ばした触手をジンの胴体に巻き付ける。

 締めつけられたジンは苦しげに身を捩ったが、触手のもたらすブヨブヨとしたゴム質の感触が不快感を伝えてくるばかりで、拘束が解けることはついになかった。

 触手がジンをゆっくり持ち上げると、より一層の苦しさが襲ってくる。足が地を離れたことで体重を支えるものが、忌まわしい触手以外になくなったからだ。


「うっ……く」


 ジンは左目の視界の端に、何か黒いものを捉える。それは徐々に徐々に視界の中心へと進出してくると、その全貌を露わにした。

 それは手のひらだった。暗黒の人型が伸ばした腕が、ジンの頭の横を通って、その手のひらをジンの顔に向けていた。

 ここに至ってジンの恐怖は限界に達した。

 足をバタつかせて、先ほどよりも激しく暴れてみせる。だが何をしても拘束は解けることはない。向けられた暗黒の手のひらが眼前に迫ってくる。

 ジンは顔を引き攣らせて、咽せながら、顔を必死に背けて、なんとか手のひらから遠ざかろうとしていた。

 手のひらには口がついていた。丸い穴が空いていて、その内側を鋭い歯がびっしりと埋め尽くしている。円状に配置された歯は、穴の淵に近いものほど大きく、奥に行くに従って小さくなっていった。その硬質さによって肉を抉り、骨を砕き、すり潰すようにして捕食することができるようだった。

 口から甘い吐息が漏れ出ている。鼻腔をくすぐるその匂いがジンの意識を朦朧とさせていき、抵抗する力を奪う。

 ジンの視界は既に黒一色で塗りつぶされている。もうすぐ指が額に食い込むだろう。

 手のひらの口が左目の眼球に触れそうになった瞬間、心まで凍てつかせるような冷気が辺りを襲った。


「間に合わなかったか」


 落ち着きのある凛とした声がこだまする。

 暗黒の人型の、足の先から指の先まで、もちろん触手の先までもが一瞬で凍りつき、ジンを拘束していた触手だけが砕け散った。

 解放されたジンを暗がりから現れた白いローブの女性が抱き止める。女性はジンを壁にもたれかかるように座らせた。


「少しの間、じっとしていてくれるな?」


 ジンは突然の寒さに震えながら、俯いて、女性の声に頷くことしかできない。女性の顔をはっきりと見る余裕はなかったし、顔上げたとしても涙で視界が霞んでいただろう。

 目の前の少年が自分の声に反応したことを確認した女性は、凍りついて身動きを封じられた暗黒に向き直る。

 氷像と化した暗黒だが、それで終わりではなかった。ピシピシと嫌な音が聞こえて、氷の表面に小さくヒビが入り始めていた。


「氷の縛りが足止めにしかならないとは大したものだ。強力な異形だな。しかし、私を傷つけるには足りないと知れ」


 女性の手の内で発生した氷が、大きな鎌の形を取り始める。女性の身の丈よりも巨大な鎌は、身の毛もよだつ冷酷な気配を纏っており、その刃は青白い三日月を彷彿とさせる。

 暗黒を閉じ込めていた氷が音を立てて崩れる。解き放たれた暗黒は、まず半ばでなくなっていた触手を瞬時に再生してみせた。


「さあ、狩ろうか」


 白き魔女の大鎌が振るわれる。

読んでくださった方々、ありがとうございます。


謎の人物が颯爽と現れてジンを助けました。

ジンは物語の主人公ですが、まだ影が薄いですね。そのうち主人公らしくなると思うので、もう少し辛抱ください。

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