37 工房
お待たせしました。
ジンに理由を問われたカウコーツは舌打ちをした。彼の顔には貴重な時間を浪費していることへの苛立ちが浮かんでいた。
「俺は嘘つきが嫌いなんだ。お前は嘘をついている」
「僕は嘘を言ってなんか」
「俺にじゃない。お前自身にだ」
「僕が、僕自身に……?」
「自分の感情と向き合ってから出直すんだな」
ジンは今しがた言われた事を正確に理解できなかった。その様子を見たカウコーツ主任は深い溜息を吐き出した。それからドクターへと顔を向ける。
「もういいだろう?」
「ああ、時間を取らせてしまって悪かったね」
「まったくだ。まったく気に入らない。おいカルナ、あとはお前に任せる」
「それって……」
カルナが子供みたいに目を輝かせる。
「あとは好きにしろ」
そう言うが早いか、カウコーツ主任は書棚の影に引っ込んでしまった。
気難しいという話は本当だった。
少なくともジンにとっては事実として記憶された。
ジンはカウコーツ主任の言葉の真意を掴みあぐねていたが、そのことについて物思いに耽ることは許されなかった。というのもカルナが突然、ジンの両肩を掴んで自分に向き直らせたからである。
「スゴいじゃん!親方に気に入られたね!」
「えぇ?」
ジンは当惑した。
カウコーツ主任は「気に入らない」とはっきり口に出していた。それなのにカルナはジンが気に入られたのだと言う。
どうしてそうなるのか。ジンにはさっぱりだった。
「親方って会話するのも大変なんだ。話しかけても当然のように無視するような人だよ。それが質問にまで答えてくれるなんて!アタシびっくりしちゃったもの!」
「いやそれはドクターがいたからで……」
「そんなの関係ないよ。質問にまで答えないで、さっさと行っちゃっても良かったんだから。それを律儀に答えて行くなんて。親方はホント素直じゃないなあ」
カルナの言い分が正しいのであれば、カウコーツという人物は確かに気難しいらしかった。いや難解と言っていいだろう。
「それじゃあカルナがジンの面倒を見てくれるかい?」
「勿論!アタシが剣を拵えてやるからさ。今すぐ詳細を詰めよう。そうしよう。善は急げだ、そら行くぞー!」
「ええ!?ああ、ちょっと……!?」
「用が済んだら迎えに行くからなー」
再び強い力で腕を取られたジンは、そのままカルナに引きずられていった。製造部中枢を出る間際に聞こえたドクターの声に応える暇も、ジンには与えられなかった。
「どこに向かっているんです?」
道中、ようやく体勢を整えたジンが行き先を尋ねる。
「実際に製造を担当する工房だよ。本当は専用の相談窓口で要望の聞き取りとかすんだけど、親方の許可も得てるしいいかなって」
「それ大丈夫なんですか?」
「大丈夫だって!アタシに任されてんだからさ!大体、今のシステムが迂遠なの。その武器使う人に直接聞いた方が早いに決まってんじゃんねえ?」
「いや『ねえ?』と言われても」
そう思わないかと聞かれても、ジンには言葉を濁すことしか出来なかった。
それからもカルナの強引さに振り回されたジンは、目的の工房に到着した頃には、若干くたびれていた。カルナから解放された手首を摩りながら、ジンは工房に目を向ける。
そこには地下とは思えないほど広大な空間があった。通路の外側の壁、その一部が刳り貫かれ、ずっと奥まで続いている。天井まで高さがある、というより入ってすぐに階段で降るため、さらに下に拡張して床を下げた結果なのだろうと想像できる。
それにしても床を下げすぎているとジンは思った。実際に階段を降って床に立つと、天井までの高さが、二階建ての建造物よりも高く感じたのだ。
「ふっふっふ、驚いたでしょ?」
予想しない大空間の出現に意表を突かれたジンは、しばしば呆然と佇んでいた。そこにカルナが声をかけてくる。彼女の口調には悪戯に成功した子供のような響きが多分に含まれていた。
「ここが製造部の誇る生産工房にして、連盟支部に所属する魔技師の武装を一手に担う連盟支部の心臓部。正式名称を『魔技師連盟メモレクサス支部技術開発局製造部魔技師専用武装等取扱製造所』だっ!!!」
両手を腰に当てたカルナがドヤ顔を決めている。ジンはその横で、今度は名前の長さに圧倒されていた。
カルナがドヤ顔のまま続けて言う。
「アタシらは短く『地下大工房』って呼んでる」
「俄然わかりやすくなった!?」
3度目の衝撃に思わず叫んでしまったジンは、すぐに口を抑えたが、それを見たカルナは楽しそうに笑っていた。
読んでくださった方々ありがとうございます。
作者、めちゃくちゃ長い名前とか大好物です。
あと今回は短めだったので、来週も投稿すると思います。




