幕間 ドット家の令嬢の気概
幕間。ドラコーン視点です。
今日も稽古で汗をかく。
その合間の休憩で思い浮かべるのは、いつも決まってあの日のことだ。ジンと出会い、異形と戦い、そして逃げ延びた日。
それ以前にも異形と戦い、経験は積んできたつもりだった。しかし上には上がいた。所詮、私の経験など浅いものだったのだ。
私は強くならねばならない。
それは他ならぬ私自身のため。
彼に恩を返す、その時に力を発揮できないのでは仕方ないからな。そして力が足りないのでは本末転倒。だから稽古に励むのだ。
「やっているか」
珍しいことに父が稽古場にやってきた。
私の父の名前はドゥーラゴウン。
魔技師の名門の中でも特に四大名家と呼ばれる超名門、そのうちのひとつに数えられるドット家の今代当主、その人だ。
体の芯まで響くような低い声。巌のような肉体を持つ。ドット家では男は槍を、女は薙刀をと、それぞれ決められており、当主である父は槍の達人だった。
「答えんか」
私はこの男が嫌いだ。
当主の娘ということは立場上、私はドット家の令嬢になるのだろうが、血の繋がりがあると考えるだけで不快になる。
「まあいい。最近は以前にも増して、稽古に励んでいるようだな」
「ええ、それが何か?」
棘のある言い方をするのも、冷たい対応をするのも、それは当然のことだ。むしろそれくらいが相応しい。なんと言ってもこの男は私の母を見殺しにしたのだから。
「深級相当の異形と相対して生き残ったのは僥倖。上を知った幸運を噛み締めて、その調子のまま鍛錬を積むがいい」
「言われずともそのつもりです」
「ふん、ではな」
鼻を鳴らし、そのまま父は稽古場を後にした。
「今更何しに来たんだか……」
庶民の出だった母は、使用人として住み込みで働いていた。当時、父は既にドット家の当主だった。
2人の間にどんな経緯があったのかは分からない。残された事実として、父は母に迫り、そして母はそれを受け入れた。
酷いのはここからだ。
私を身籠った母は、私を産んだ後、すぐに病を患ってしまう。しかし母を孕ませたあの男は、母が病に苦しんでいるにも関わらず、医者に診せなかったのだ。さらに館の隅に押し込めて、ろくに看病もさせなかったと聞く。
私にこの話をしたのは父方の祖母、つまり父の母だった。
この方も意地悪な人で、何かにつけて私のことを半端者だとか、家格に相応しくないだのと言ってくる。そして私だけならばともかく、私の母のことも女狐や阿婆擦れなどと口悪く罵る始末だ。
その祖母が唯一嬉しそうに語るのが先の話だった。特に私の母の死に様の辺りなどは、最高に嬉しそうに話す。
「ああ、気分が悪い」
本当に嫌になる。
思い出す度に悔しさと怒りで吐きそうになる。
そんな気分を払拭するには稽古に打ち込むのが1番だ。体を動かして汗を流す間だけ、私は私を取り巻く環境のことを忘れられる。
もし私に魔技師としての才能が無かったら?
考えたくもない。
今頃は、どこぞの家に嫁がされていたに決まっている。
休憩は終わりにしよう。
私は再び、稽古場の中央に立ち、薙刀を振るう。初めは緩やかに、徐々に素早く、型をなぞるように薙刀を動かしていく。
「こんなことではっ、ダメだっ」
そうだ、雑念を振り払え。
私は強くなる。私自身のために。
「集中、しろっ」
だから今は、一心不乱に薙刀を振れ。
無駄を省き、流れるように、一部の隙もなく。
もっと速く。
もっと鋭く。
もっと。もっと。もっと。
もっとだ。
この身に宿る竜を鎮める方法を、私は他に知らないのだから。
読んでくださった方々ありがとうございます。
今回は、ちょっと短めでした。
次回からは本編に戻ります。幕間を書いていて楽しかったので、また書くことがあるかもしれません。その時はよろしくお願いします。
さて世間はGWですね。
作者は残念ながら出かける予定はありません。
GW中に1話分の更新を予定しています。
それでは皆さんも、良いGWをお過ごしください!




