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魔技師  作者: 檜山 紅葉
第2章 世に混沌のあらんことを
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幕間 ドット家の令嬢の気概

幕間。ドラコーン視点です。

 今日も稽古で汗をかく。

 その合間の休憩で思い浮かべるのは、いつも決まってあの日のことだ。ジンと出会い、異形と戦い、そして逃げ延びた日。

 それ以前にも異形と戦い、経験は積んできたつもりだった。しかし上には上がいた。所詮、私の経験など浅いものだったのだ。

 私は強くならねばならない。

 それは他ならぬ私自身のため。

 彼に恩を返す、その時に力を発揮できないのでは仕方ないからな。そして力が足りないのでは本末転倒。だから稽古に励むのだ。


「やっているか」


 珍しいことに父が稽古場にやってきた。

 私の父の名前はドゥーラゴウン。

 魔技師の名門の中でも特に四大名家と呼ばれる超名門、そのうちのひとつに数えられるドット家の今代当主、その人だ。

 体の芯まで響くような低い声。巌のような肉体を持つ。ドット家では男は槍を、女は薙刀をと、それぞれ決められており、当主である父は槍の達人だった。


「答えんか」


 私はこの男が嫌いだ。

 当主の娘ということは立場上、私はドット家の令嬢になるのだろうが、血の繋がりがあると考えるだけで不快になる。


「まあいい。最近は以前にも増して、稽古に励んでいるようだな」

「ええ、それが何か?」


 棘のある言い方をするのも、冷たい対応をするのも、それは当然のことだ。むしろそれくらいが相応しい。なんと言ってもこの男は私の母を見殺しにしたのだから。


「深級相当の異形と相対して生き残ったのは僥倖。上を知った幸運を噛み締めて、その調子のまま鍛錬を積むがいい」

「言われずともそのつもりです」

「ふん、ではな」


 鼻を鳴らし、そのまま父は稽古場を後にした。


「今更何しに来たんだか……」


 庶民の出だった母は、使用人として住み込みで働いていた。当時、父は既にドット家の当主だった。

 2人の間にどんな経緯があったのかは分からない。残された事実として、父は母に迫り、そして母はそれを受け入れた。

 酷いのはここからだ。

 私を身籠った母は、私を産んだ後、すぐに病を患ってしまう。しかし母を孕ませたあの男は、母が病に苦しんでいるにも関わらず、医者に診せなかったのだ。さらに館の隅に押し込めて、ろくに看病もさせなかったと聞く。

 私にこの話をしたのは父方の祖母、つまり父の母だった。

 この方も意地悪な人で、何かにつけて私のことを半端者だとか、家格に相応しくないだのと言ってくる。そして私だけならばともかく、私の母のことも女狐や阿婆擦れなどと口悪く罵る始末だ。

 その祖母が唯一嬉しそうに語るのが先の話だった。特に私の母の死に様の辺りなどは、最高に嬉しそうに話す。


「ああ、気分が悪い」


 本当に嫌になる。

 思い出す度に悔しさと怒りで吐きそうになる。

 そんな気分を払拭するには稽古に打ち込むのが1番だ。体を動かして汗を流す間だけ、私は私を取り巻く環境のことを忘れられる。

 もし私に魔技師としての才能が無かったら?

 考えたくもない。

 今頃は、どこぞの家に嫁がされていたに決まっている。

 休憩は終わりにしよう。

 私は再び、稽古場の中央に立ち、薙刀を振るう。初めは緩やかに、徐々に素早く、型をなぞるように薙刀を動かしていく。


「こんなことではっ、ダメだっ」


 そうだ、雑念を振り払え。

 私は強くなる。私自身のために。


「集中、しろっ」


 だから今は、一心不乱に薙刀を振れ。

 無駄を省き、流れるように、一部の隙もなく。

 もっと速く。

 もっと鋭く。

 もっと。もっと。もっと。

 もっとだ。

 この身に宿る竜を鎮める方法を、私は他に知らないのだから。

読んでくださった方々ありがとうございます。


今回は、ちょっと短めでした。

次回からは本編に戻ります。幕間を書いていて楽しかったので、また書くことがあるかもしれません。その時はよろしくお願いします。


さて世間はGWですね。

作者は残念ながら出かける予定はありません。

GW中に1話分の更新を予定しています。

それでは皆さんも、良いGWをお過ごしください!

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