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魔技師  作者: 檜山 紅葉
第2章 世に混沌のあらんことを
25/94

25 黒位

お待たせしました。

長くなりそうだったので一旦、投稿します。

恐らく年内最後の更新かと思われます。

 ガシャドクロから命からがら逃げおおせたジンとドラコーンは、そのまま山を下りようとしていた。敵わない相手が近くにいるというだけで、心は休まらないものだ。この山門から少しでも離れたかったのである。

 然したる問題もなく下山は済み、現在は山の麓、ほどよい木陰で休息を取っている。


「ここまで来れば大丈夫でしょう」

「ああ。しかし夜通し戦っていたのだな」


 ドラコーンが空を見上げる。それに釣られる形でジンも空を見上げた。

 夜の闇を残した空のまだら雲を、東から昇る日が、じんわりと白く染めていく。直に闇の住人が好む夜を駆逐するのだろう。


「足の具合どうですか?」

「……だめだ、歩けそうにないな。ポッキリ折れてしまっている」

「添え木になるものを探してきます。応急処置を済ませてから最寄りの町に向かいましょう。早く治療しないと……」

「治してやろうか?」


 突然、声をかけられたことで一瞬、ジンは体を硬直させた。木陰から黒い外套に身を包んだ人物が姿を現す。

 人間には大なり小なり魔力がある。疲労が蓄積しているとはいえ、魔力の感知は正常に働いていた。感知できないはずはない。

 しかし現に、ジンは声をかけられるまで気がつかなかった。その事実はジンを驚愕させた。また、魔力の感知は万能ではないのだとも思い知らせた。


「その外套……黒位の魔技師だな」

「知っているんですか、ドラコーンさん?」

「知っているも何も……いや、ジンは新人だったな。そうだな、一から説明しよう」


 黒位の魔技師は精鋭の集まりとして有名である。

 いったい何名の人員が存在するのかさえ不明な彼らだが、その活動内容は多岐に渡る。そして魔技師の間で、恐らく最も知られている彼らの役目といえば懲罰だろう。

 例えば魔技を使用して一般人に被害を出してしまった。例えば同じ連盟所属の魔技師に対して危害を加えてしまった。そういった場合には彼らの出番となる。

 多くは事情を聴取した上で厳重注意で済まされたり、多少度が過ぎれば監視付きの謹慎処分や拘束、収容といった比較的穏便な処分が下されることになるだろう。

 しかしそれらは事故の場合に限られる。事件であれば、彼らは事を起こした魔技師を誅するために動き出す。

 いつの時代も不穏分子はいるものである。近い将来に事件を起こしそうな、あるいは事件を起こした疑いのある人物の監視も、彼ら黒位の魔技師の仕事なのだ。


「……だから彼は、本来この場にいるべき人間ではないんだ。それとも私たちを誅しに来たのかもしれないが」

「その心当たりがあれば話は別だが……ないだろう?」

「当然だ。私は異形を滅するためにここにいる」


 ドラコーンの凛とした物言いには、強い覚悟のが秘められているようだ。黒位の魔技師もそれ以上は何も言わない。

 3人の間には沈黙が作り出した空白の時間が広がっていた。その時間を利用して、ジンは黒位の魔技師を観察することにした。とはいえ得られる情報は限られている。

 そこそこに背が高く、体型は黒い外套に覆い隠されていて分からない。フードを被っているため顔も確認できなかった。ただし声から受ける印象は、30代から40代くらいの男性のものだった。


「……君たちが安心できるように、少し話をしよう」


 ドラコーンの言葉ではないが、ジンにも誅されるような心当たりは微塵もなかった。しかし、目の前に佇む黒位の魔技師が事情を多少なりとも話してくれるのなら、それを聞く用意がジンにはあった。


「おじさんがここへ来たのは、とある人物がここへ逃げ込んだと予測されたからだ」

「その人物の名前は?」

「名前は言えないよ。君たちが知る必要はないからね……話を戻そう。調査の結果、その人物は確かにここへ来た。しかしおじさんが来る少し前にここを離れたようだ」

「その人は何をしたんですか?」


 黒位の魔技師は暫しの沈黙の後、ようやく重い口を開いた。


「……その人物は我々の仲間を殺した。これ以上は話せないけど、その人物を誅する必要があることは分かってほしい」


 黒位の魔技師からは何も感情が伝わってこなかった。それは何も感じていないのではなく、感情を殺している風だった。

 ジンが無言で頷くと、ジンが気を遣ったと思ったのだろうか。黒位の魔技師は小さな声で「悪いね」と呟いた。

 空気を変えるためにドラコーンが口を開く。


「この山に来た理由は理解したが、結局なぜ私たちの前に姿を現したんだ?さっきは治してやると言っていたようだが?」

「そうだった……まあ話は単純だ。少し時間はかかるが君の怪我を治してやれる。その見返りに2つ頼まれて欲しいことがある。とは言っても大したことじゃない」

「……ジンはどう思う?」

「僕ですか?僕は……とりあえず内容を聞くべきだと思います」

「そうだな。判断材料が必要だ」

「そりゃ当然だわな。それじゃあ、まずひとつ。この報告書をメモレクサスの支部長まで届けてもらいたい」


 そう言って取り出された茶色い封筒は随分と太っていた。大方、分厚い報告書が押し込められているのだろう。とジンは思った。


「ふたつ。異界の中の状況を教えてほしい。流石に異界の中までは調べてないから、君たちの見たままを知りたい感じだ」


 黒位の魔技師が、ここを訪れた理由を考えれば、これは納得できるものだった。そしてこの程度であれば、応じることは難しいことではない。

 ジンがドラコーンに顔を向けると、彼女と目があった。どうやら彼女も、頼みを引き受けてもいいと考えている様子だった。


「分かりました。2点とも引き受けます」

「おっ、助かるよ。そいじゃあこれ報告書。中は見ちゃダメだからね。異界の話は怪我を治しながら聞かせてもらおうか」


 黒位の魔技師は報告書をジンに手渡した。それからドラコーンに近づいて屈み、彼女の患部に手を重ねる。そして彼の手のひらにやわらかな光が宿った。

 これも魔技のひとつ秘術に属する技である。

 人体の損傷を治癒する術は難易度が高く、並の魔技師が簡単に扱えるものではない。少し時間がかかると言いながら、それを軽々と扱うあたりに、この黒位の魔技師の底知れなさが表れている。

 黒位の魔技師の言動を注意深く観察しながら、ジンは異界での体験を詳らかにしていくのだった。

読んでくださった方々ありがとうございます。

前置きでも触れましたが、恐らく今年最後の更新かと思われます。半年ほど書いて参りましたが、想像よりも読んでくださる方が多く、感動しております。


それでは皆さん、良いお年を!

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