23 竜槍
長らくお待たせしました。
ドラコーンの隣に並び立ったジンは、骨のケンタウロスの出方を伺いつつ、可及的速やかに戦略を組み立てていく。
「まずは機動力を削ぐ。ジンがヤツの前脚に切り込み、私がそれに合わせる」
ドラコーンの作戦は、ジンが考えていたものと概ね同じものだった。であるから、それを実行することに否はなかったが、その作戦に付け加える形で発言した。
「それで行きましょう。ただ、僕の攻撃は対処されると思うので、あくまで隙を作ることに重きを置きます」
「なぜそう思うんだ?」
「ヤツは、まさに人馬一体。想像以上に対応力があると考えておくべきです」
「分かった。では私が本命だな」
異形からは片時も目を離してはいない。
共有するべきことは共有できた。そう判断したジンが、骨のケンタウロスの懐に飛び込むべく駆け出す。その少し後ろを、決して一列に重ならないようにドラコーンが続く。
また大弓を構えられては堪らない。ジンは肺の中の空気を全て吐き出し、深く大きく限界まで息を吸い込んだ。そして大地を踏みしめて加速する。
ドラコーンの目にはジンが消えたように映った。事実、ジンは彼我の間にある50歩の距離をひと足で零にしたのである。ジンの姿は骨のケンタウロスの目前にあった。
ジンが使ったのは魔闘術と、その応用である瞬動術。魔力を限定的かつ瞬間的に放出することで爆発的な推進力を得る術だ。
魔力感知を通して視れば、放出された魔力はその場に留まり、残像のように映る。
「瞬剣」
以前のように全身全霊の魔力を放出することはない。洗練された魔力操作と制御によって格段に扱いやすくなっていた。
瞬息の間に放たれた斬撃が、骨のケンタウロスの前脚を両断する。自重によって異形の体が前に傾いた。
そこまで事態が進行して、ようやく骨のケンタウロスが反撃に移る。
カウンター気味に振られた大槍が唸りを上げて襲いかかった。
しかし、ややタイミングを逸していたこともあり、ジンは瞬動術を使って悠々と大槍の間合いから逃れている。空振りした大槍が魔力の残滓をかき消した。
ジンは跳躍して異形の真上にいた。
「飛ぶ斬撃……」
間合の外にも関わらず空中で剣を構える。
「飛剣!」
上段から袈裟斬りに剣撃が放たれる。その軌跡に沿って放出された魔力が刃となり、骨のケンタウロスの背を打った。
乾いた音が鳴り、斬撃が弾かれる。残念ながら傷をつけることは敵わなかったが、衝撃は伝わったようだ。異形の注意が自分へと向いたことをジンは察知した。
ここまではジンの狙い通りであった。
問題はこのあとドラコーンが繰り出す本命の攻撃だろう。上手く決まれば痛手となることは間違いなく、それはそのまま勝算を高める結果に繋がる。
ジンは身を翻して着地すると間を置かずに走った。骨のケンタウロスの振るう大槍の間合から逃れるためだった。
そんなジンを追撃しようと身動いだ骨のケンタウロスに、薙刀を携えたドラコーンが迫る。対象に生じた決定的な隙を逃すほど、彼女は魔技師として甘くも浅くもなかった。
「竜槍術……」
ドラコーンの魔力が薙刀に流し込まれていく。魔力は柄を通り、刃を通り、切先の一点へと集中する。凝縮された魔力は可視化するほどの危険な輝きを放ち始めた。
「竜鱗突破ッ!!」
ダンッ!と強く踏み出した足の裏から余すことなく伝わった力が、ドラコーンの全身を駆け巡り、彼女の構える薙刀へと収束する。
気合いと共に突き放たれた渾身の一撃が、骨のケンタウロスの異形へと到達する。
驚くべきことに異形は、咄嗟に防御を間に合わせることに成功していた。自身と薙刀との間に大槍を滑り込ませたのだ。
しかし大槍の柄とドラコーンの薙刀が衝突した時、大槍は容易く折られてしまった。もう薙刀を止めるものは何もない。
薙刀が異形の胸骨を刺し穿つ。同時にドラコーンは薙刀に込めた魔力を解放する。
「爆華散!!」
一点に凝縮された高密度の魔力が、爆炎となって解き放たれる。
ドラコーンが前方へと指向性を持たせた爆炎は、その炎で異形を飲み込みながら土煙を生じさせる。また爆発の力によって異形の骨片を辺りに散乱した。
「やったか……?」
ドラコーンは残心を忘れず、注意深く異形を観察する。
土煙が晴れて姿を現した異形は、人間の骨格は爆ぜて残っておらず、下半身とも言うべき馬の骨格が崩れ落ちていた。
油断なく観察するが、なおも異形の骸が動き出す気配はない。
倒したのであれば、今いるこの空間は崩壊するはずである。
しかしその兆候は一向に現れない。
ということはまだ完全に滅してはいない。
『カカカカカカカカカッ』
「なにが、起こって……」
「頭が…割れそうだ……!」
突然のあまりの喧しさにジンも、そしてドラコーンも耳を塞いだ。
周囲を取り囲んでいた骸骨の兵たち、死群が一斉に、歯を打ち鳴らし始めたのだ。骨が擦れる「キーッ」という音や、骨がぶつかり合う「カタカタ、カツカツ」という音が合唱となって聴覚を蹂躙する。
やがて前列の骸骨からバラバラになって、ひとつどころに結集し始める。その場所こそ骨のケンタウロスの異形、その骸が横たわる場所だった。
ジンたちが耳を塞いで身動きもままならない中、数えきれないほどの骨が寄り集まって恐ろしい魔力の高まりを見せている。また、骨は何かを形作ろうとしているようだ。
ジンたちにそれを止めることは出来ず、ただ黙って見ていることしか出来ない。骸骨たちの出す音はそれほどであり、もはや音の攻撃と呼んで差し支えないものだった。
「……?」
「音が、止んだ?」
「……ドラコーンさん」
「なんだ、これは……」
音が止んだことに気がつき、顔を上げた2人が見たのは、聳え立つ巨大なガシャドクロだった。
読んでくださった方々ありがとうございます。
リアルの方が忙しく筆が止まっておりました。待ってくれていた方々には本当に申し訳ない。
もともと不定期な更新とはいえ、もう少し早く更新したいものです。
はい、がんばります。
今年も残すところ約1ヶ月。ラストスパートです。年末は忙しいかもしれませんが、その前に2回ほど更新したいですね(願望)




