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魔技師  作者: 檜山 紅葉
第1章 師匠と弟子
13/94

13 観察

若干、短いかも?

 雪の季節がやってきた。

 暖炉で薪がパチパチと燃えている。

 居間のソファに体を沈めているジンは、この頃、朧げながらに操作と制御のコツを掴みつつあった。

 きっかけは瞑想中、魔力の流れを観察していた時だった。内から外に漏れ出る魔力を発見したのだ。

 体から放り出されて分離した魔力は、そのまま空気中で溶けるようにして消えた。それを観測したジンは、発想を逆転させることにした。魔力の流れをどうにかするのではなく、体外に放出される魔力を増やす方向に。

 そしてその試みは成功する。

 ジンが強く念じると、初めは微々たる量だった魔力が、全身からもうもうと立ち込めたではないか。

 放出された魔力は、体を離れて空気中に霧散してしまう。拡散する魔力を留めようとしても、抑え込むのが難しく、次から次へと外に漏れ出して行く。

 そうするうちに虚脱感に襲われ始めたジンは、漠然と生命の危機を覚えていた。


「抑えるのではなくて、纏うようなイメージをしてみて?」


 瞑目した闇の世界に浸透する声に従って、ジンは服を纏うように、あるいは水を纏うように想像力を働かせる。すると魔力の放出は抑えられ、体を覆う膜となって落ち着いた。

 上手く行ったことを確認したジンは、魔力を収めてから目蓋を開ける。


「アイリーンさん……?」

「少し休憩したらどう?根を詰めすぎても、あまり良い結果には結びつかないと思うのだけど?」


 テーブルの上には、アイリーンが運んできたのだろうか。銀のトレイの上にティーポッド、ティーカップが置かれており、お茶請けの菓子も用意されている。

 ポッドからは既に良い香りが立ち上っているし、卵と砂糖をたっぷりと使った甘い生地が特徴の焼き菓子も魅力的だった。

 束の間の安息は、ジンの心に安らぎを与えた。落ち着きを取り戻したジンに、アイリーンが語りかける。


「私、少しだけ怒っているのよ」


 わざとらしく頬を膨らませて、いかにもな表情を作るアイリーンだが、次の瞬間には真剣な、それでいて心配そうな顔をする。


「たくさん魔力を出していたけれど、魔力が枯渇すると命に関わることもあるの。試行錯誤をするのは、もちろん良いことよ。でも無茶は禁物。分かった?」

「……分かりました。気をつけます」


 魔力を放出している時、ジンが覚えた虚脱感は尋常なものではなかった。

 アイリーンはジンのことを思って忠告してくれた。だからこそ、その忠告を無下にすることはしたくなかったので、ジンは素直に返事をすることにしたのだった。

 ジンの返事に、アイリーンは微笑みで返してくれる。


「素直な子は好きよ。私に出来ることがあったら、いつでも言って頂戴ね」

「それなら、実は聞きたいことがあります」

「あら、何かしら?」


 こてんと首を傾げるアイリーン。

 ジンが気になったのはアイリーン自身についてだった。


「アイリーンさんも魔技師なんですか?」


 アイリーンは、きょとんとした後、すぐに浮かべていた笑みを深くした。


「どうしてそう思ったの?」

「魔力を捉えているようでしたし、助言も適切だったので、もしかして、と」

「なるほど。でも残念ながら不正解。お姉さんは魔技師ではありません。魔技の心得があるただの侍女頭に過ぎないわ」


 そんな侍女頭がいるものか。そう口から出かかった言葉をジンは飲み込む。目の前に存在する以上、否定することはできない。

 ジンは間食後の修行で、拙いながらも魔力の操作と制御を行うことができた。

 再び瞑目して修行に勤しむジンを、アイリーンは暫くの間、微笑ましげに眺めていた。そして、どうやら問題はなさそうだぞ、と判断したところで、アイリーンは自分の仕事に戻っていった。

読んでくださった方々ありがとうございます。

魔力が枯渇すると死に至るとはどういうことか。この部分を少しだけ補足しようと思います。


魂を形作っているのは魔力の流れです。この魔力が極端に減ってしまうと魂は形を保つことができません。

魔力の流れが歪んだ場合と違って、枯渇した場合は魂が自壊して砕け散ってしまいます。こうなると元には戻せません。肉体からも飛び出してしまいます。

肉体から魂が失われると肉体が機能しなくなりますので、結果とした死んでしまうわけです。


長々と補足しましたが、ここで区切ろうと思います。

次回更新まで、どうか気長にお待ちください。

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