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「分かりました」ネットの接続状況を確認しながら小張が松井に言った。「それでは失踪者の方々のお名前から教えて頂けますか?」
会議室テーブルの彼女の右手側には先ほどの書類の束、パソコンを挟んだ左手側にはA4サイズの大学ノートが置かれている。
「まず、一人目」と松井が、背広の内ポケットから取り出した警察手帳――その中には所有者の性格をよく表す細かい文字が所狭しと並んでいたが――を読み上げた。「これが問題の警察官で、名前は堀井丈一郎。葛西署の巡査長です」
「事件の」右手でキーボードを叩きつつ小張が確認する。「――とするかどうかは分かりませんが、発端の方ですね」と同時に、彼女の左手は大学ノートに失踪者の名前を走り書きしている。「『じょう』は『背たけ』とかの『たけ』?」
「その通りです」と、松井。「二人目、よろしいですか?」
「はい。お願いします」
「二人目は志水高志さん。横手在住」
「横手って、岩手でしたっけ?」
「秋田です」と、新津。ずっとセリフがないと消えたと思われるのが小説とラジオドラマのツライところだが、今のところ小張の暴走が始まっていないので、正直、彼の出番はない。
「ありがとうございます」と小張。「――横手・秋田県」他の文字よりも丁寧に書いたのは新津への配慮だろうか?彼女が書き込み終わるのを待ってから松井が続ける。
「三人目は飛田武夫さん。『武士』の『武』に『夫婦』の『夫』。都内在住。年金暮らしのご老人です」
「――そう言えば」と、ノートへの書き込みを続けつつ小張が訊く。「最初に聞いておけば良かったんですが、全部で何名ですか?」
確かに。こんなに急いだ感じでやる必要もないかも知れない。
「メインはこの三名ですが、」と、手帳のページを一枚めくりながら松井。「司馬くんからは『一応、この二人も』と言われている人達がいます。――如何致しましょうか?」
そう言われて小張は、引き続きキーボードを叩きながら少し考え込んでいたが、カタカタカタカタッ。と打ち込みが一段落着いたのと同じタイミングで、「いえ、もちろん、全て教えて下さい」と、言った。