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エメラルドの王国 オズの都  作者: 未馬耳うず
1/1

変わってしまったオズ王国

ーーー雲の向こうにあるオズの国は、誰もが知っているおとぎの世界。皆それぞれ平和に暮らしてきた。

 しかし、ある時世界は姿かたちを変えていった。…オズの国を支配する男によって。


魔法使いで無いとドロシー達に勘付かれた時、その男はふと思い立った。

いっそのこと()()()()()()()()()()()()()と。

そして誰も知らなかった。彼が()()()()()()()()()()()()()()()()ということを。


ーーーーこれは、変わってしまったおとぎの世界…エメラルドの都の話ーーーー



1 銃声

   ーエメラルドの都の郊外

 火薬の燃える匂いが空に溶けていく。近年、エメラルドの都の政権は確実にその外へと侵略していった。貧困層が多いスラム街からじわじわと、その領地を伸ばして来た。…と言っても他全体を見れば一部だけで、都以外の国も多い。侵略なんぞ容易くないのだ。 ところで、何故銃声が聞こえたのか。それは都で法を犯した()()()の男がスラム街へ逃げたからだ。おとぎの世界には全く人間がいない。人型だと大体エルフや妖精、魔女などに絞られる。魔法は殆どの住人が使えるが、物を少し浮かすだとか動かすだとか…使えないも同然。それ以上は技術と知識が必要なのだから、魔女も多くない。魔女は魔女で、弟子を多く取る。後世に名を残すためだ。その一方で魔導具の普及も増え、今となっては本当の魔法と区別はつかない。

 このエルフは合法ではない薬品を各家に訪問して買わせた罪で追われていたが、姿消しの薬(※名前の通り自分の姿を他人の視界から見えなくする魔導具。犯罪防止のため、個人差もあるが約1分しか効果を保たない)で逃亡していた。男はスラム街へ逃げ切ったつもりだったのだろう。後ろを見ても追手の保安官達はいない。男はざまあみやがれと口の端を上げた。だが、後ろを気にしてばかりで、()()など気に留めてなかった。

「!!!!」

重い銃声が入り組んだ街に響き、火薬の燃える匂いが空に溶けてゆく。銃弾は男の右足に直撃し、男は呻いてそのまま倒れた。撃ったのはどこか幼い顔つきの少女だった。一つに結んだ三編みが風に揺れている。少女は不安定な家を足場にし、左手を添えることなく見事命中させた。

「ヒッ………こ、殺さないでくれ!!!」

男は腰が抜けた様子だ。右足を庇い小さく悲鳴を上げた。少女は地へ降り、ゆっくりと男に近づいた。

「殺す?貴男を?」

どこか幼声の少女はキョトンとして言った。銃口は男に向いている。

「…へっ、嬢ちゃんよぉ上から降りてきて良かったのか?」

男は先程と打って変わって少女をあざ笑った。と、少女の周りを4人のニヤついた男達が囲んだ。男は続ける。

「俺には仲間がいるんだよなぁ。嬢ちゃんにゃわりぃが、ここで死んでもらうぜぇ。いや、殺す前にイイコトを…」

男が言い終わる前に、少女は隠し持っていたもう一つの銃を取り出し、素早く4人の男達の肩を撃ち抜いた。ぐぁぁあと呻き声を上げて倒れる仲間を見てやっと震える男を見据え、少女は見下ろす。

「この銃使いたくないのにな…」

「…!お、お前……そ、その銃は…!!」

ようやく絞り出した声で男は気づいた。少女の持つ銃、エネミーガン―type.Emer―(※銃型の最高魔導具。作る技術が難しく、操作も慣れづらいためあまり種類がない。これは銃型の中でも高級で希少なもの。)を見たのだ。

「ッお前何者なんだよ!!!なんで俺を追う!!!」

やれやれと少女は半ば呆れていた。

「私はオズの法律、 “犯罪者は生きて連れ、裁判にかけること” に則ったまでですよ」

少女は小型スマホをそろそろと取り出し、電話を掛けた。

「…あ、捕まえたよ〜…そそ、スラム街。……もうすぐ迎えが来ます。震えてますけど、大丈夫ですよ。()()しなきゃですけどね」

少女は初めて笑みを見せると、

「私は…この世界を、国を支配するオズの博識(ちせい)と呼ばれる者。どうぞ…」

そっと胸に手を当て、

「お見知りおきを♪」

親愛そうに言った。



2 バルーン 

 ここはエメラルドの都。科学技術は進み、今やオズ一番の近未来都市となった。魔導具の普及と共に、『()()()()()()()魔導具の利用の制限はされない』という新しい法ができた。都では科学と自然の両立を目指しており、都中心にもその周りの住宅地にも木が植えられている。それは都が周囲の国の土地を支配して土地を広げ、森を取り込んだからだ。おかげで科学の中にいる自然が生き生きとしている。

 住人はエルフが多く、動物たちも流行りの服を着て町中を歩いている。都へ働きに来るために、郊外からも人が来る。ここでは人間は珍しいくらいいない。人間世界とこの世界は繋がりが薄いのだ。まあ…この少女を除いての話だが。

 

 ーエメラルド北学園

「♪〜」

一つに結んだお下げを左右に揺らす少女、バルーンは廊下を歩く。今日は旧錬金術の授業で作った“宝石”が綺麗でご機嫌のようだ。時折日に照らしてその屈折を眺めていた。昼の授業はすでに終わり、放課後となった今、彼女が学園にいる理由はただ一つ…。

「ラッド!帰るよー!!」

2年の教室にひょこと頭を出すバルーンはニコッと笑う。その光景の異様さは言うまでもない…このクラスは不良しかいないのだ。学園長の優しさでそこらの半端者達が集まってしまったようで、彼らの溜まり場と化した。壁にはスプレーで落書き、机は椅子と化して、教室も校舎の端にある。誰も寄り付かないはずである。満面の笑みを浮かべるチビ(バルーンの身長は161cm)を見て、不良達は「何だお前か」と言うような顔をした。

「おっいつもの彼女だぜ〜ラッドw」

「お前もやるよな〜!!あんなカワイイコ捕まえるなんてな!!!」

その銀髪が日に照らされ、輝いて見える。狼のラッドは仲間の茶化しに顔を顰めた。耳が前方に傾いているのが不機嫌な証拠だ。

「あいつはただの幼馴染だっつの…お前らが思ってる阿呆みてぇな関係じゃねぇから安心しろ」

「またまた〜!!」

「照れんなって!!」

絡んでくる仲間に舌打ちをカマし、つかつかとバルーンを見据えた。

「…帰るぞ」

「うん!!!」

しかしラッドの尻尾は揺れていた。



3 ランドリュー


 「…でね、旧錬金術でめちゃ綺麗な“宝石”作れたの!これ…」

「はーん、確かに綺麗な水色だな」

ビルの街が緑色に光る中、バルーンとラッド(本名はランドリュー)はてんでんのお下げと尻尾を揺らし歩いていた。街は店の呼び込みや行き交う人(人間ではないが人と数えよう)で賑わっていた。時刻は昼。飲食店は混んでいて、他は服屋や専門店に吸い込まれていった。

「綺麗だけど、俺はそんなのに興味ねぇな〜。だって本物じゃねぇし」

「そりゃ、本物のダイヤとか水晶じゃないよ。これは錬金物だから」

「本物じゃなきゃ売れねぇな!」

「ロマンがないね〜、本物じゃなくても綺麗ならいいんだよ!」

「うわ、そうやってると足元掬われるぞ〜…あ、昼飯ここな」

ラッドはラーメン屋で立ち止まった。焦がした油のいい香りがする。

「えっ!家で食べないの?」

行き過ぎたバルーンが振り返る。

「だって…こんなの食べさせてくれないだろ?家にいる“アイツ”」

「あー、あの人アンドロイドだからしょうがないよ。体に気を使うよう仕向けられてんだし」

「取り敢えず俺が奢るから!な!!」

にっと笑ってラッドはバルーンの手を取る。バルーンは広角を少し上げて何も言わず一緒に店に入っていった。


『いらっしゃい!!!カウンター席どうぞ2名様来店でェェす!!!!』

店の中は外以上にいい香りがする。スープや具材の香り、滑るくらいギトギトの床、頭にタオルを巻いたでかい店員の声。だいたいこういうラーメン屋は美味しい。とラッドは言った。

「ハァ…いい匂いだ。あ、バルは炒飯にしとけ。俺大盛り頼むから」

「炒飯じゃお腹膨らまないよ」 

「分けてあげるから。あっすいませーん、豚骨ラーメン大盛り野菜マシマシとレタス炒飯お願いします」

『かしこまりましたァ!!!』

店内はさほど人は多くないが、サインが飾ってあった。有名なのかな。バルーンはきょろきょろあたりを見回した。

「…で、ラーメン来るまでに今日やった勉強教えてくれよ」

「ん、いいよ」

バルーンは肩掛けバッグから教科書を取り出した。ラッドは不良であるが、勉強には興味があった。不良になった理由は先生が嫌いだからという単純なものだが、まず本気でやれば彼だって赤点は取れないはずである。こうして成績優秀のバルーンから勉強を教えてもらっている。と言うが、ラッドがバルーンより年上のため彼女が教えても詳しいところまで教えられないのが難点。どっちもどっちだ。

「ってことは、その“宝石”の水色は花から出した色なのか…」

「そういうこと。黄色くしたかったらカタバミとかを混ぜるってわけ」

「じゃあそこらへんの雑草でも混ぜりゃ作れんだな!…作って馬鹿にでも高く売りつけるか」

「なら全部緑色になるね」

「いーじゃねぇか、エメラルドだぞ」

「さっきそぉんなん売れねぇーとか言ってたのに」

「馬鹿は本物もニセモノもわかんねぇのよ。てかそのモノマネ似てないっての」

『はい!豚骨ラーメンと炒飯でーす』

通常の2倍の量のもやしなどが乗ったラーメンとパラパラの炒飯の湯気が目と鼻を擽る。バルーンはそそくさと教科書をしまい、いただきますと食べ始めた。



「ふー食った食った!安い上に美味い!コストパフォーマンスって奴だな」

「確かにそうだけど野菜目的でしょ?」

「最近雨少なくてさ、不作だっていうじゃん?」

「得好きめ」

満腹になった二人はお腹を擦りながら店から出る。もちろん電子マネーで払った。人だかりは先程より落ち着いているようだった。

「ふふ、ワンちゃん幸せそうな顔してるよ」

「…イヌじゃねぇよ」

ラッドはバルーンを拗ねたように睨んだ。

「そんな睨まないでよー。…奢ってくれてありがとラッド」

「まあな、もっと感謝していいんだぜ?」

「ふは、遠慮しとくって」

空には薄く黒い雲が空を覆っていた。

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