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らぶい小噺

手紙

作者: 武野 踊

 前略

 先日は励ましのお便りありがとうございました。

 あの人がいなくなってからもう三ヶ月、

 私に探せる所は八方手を尽くして探しました。

 貴方の教えてくれたお友達にも当たってみましたが、

 あの人を見たという話は聞けませんでした。

 これからも、私にできることは全て行いながら、

 あの人の帰りを待とうと思います。

 ご心配して頂いて、ありがとうございます。

 本日は取り急ぎ……

 後日またきちんとご挨拶に伺います。 かしこ




 拝啓

 寒さがひとしお身にしみるころとなりました。

 送って頂いた蜜柑、美味しく頂いております。


 先日、教えて頂いていた同窓会の通知が届きました。

 少し悩んだのですが、やはり私はお伺いするわけにはいきません。

 葉書は欠席でお返しさせていただきましたので、

 そのことだけお知らせします。

 いつもいつも貴方には良くして頂くばかりで、

 感謝は表し尽くせません。

 あの人に、こんなに心配していただける方が友達としていたのだと思うと、

 不思議な思いですが、嬉しく感じます。


 蜜柑のお返しに、林檎をお送りします。

 ご家族で召し上がってください。

 すこやかに新年をお迎えになられますよう、お祈り申し上げます。 かしこ




 拝啓

 春たけなわの季節となりました。

 引越しを手伝っていただいた方に、

 住所の変更のお知らせを差し上げるのもどうかと思いましたが……

 感謝のお手紙として送らせていただきます。

 新居は一人で暮らすにはちょうどよい広さです。

 けれど、私が一人で使う物は、こんなにも少なかったのかと、

 少々寂しい思いもしています。

 あの人のものはダンボールに四箱にもなったのに……

 あれから三年が経ちました。

 時期もいい四月、私自身も歩き始めたいと思います。

 温かいそちらの事、美しい花も多く咲いている頃でしょう。

 ぜひ花便りもお聞かせください。  かしこ




 拝啓

 梅雨空が恨めしいこのごろ。

 郵便受けの手紙が湿気で草臥れているのがとても悲しい日が続いています。

 この数年私を支えてくれた手紙を、最近では楽しみにしている自分に驚いています。

 みなさんの優しさに生かされているのだと実感しました。

 先日は演劇のお誘い、ありがとうございました。

 急に体調を崩し、お伺いできなかったことがとても残念です。

 後で聞けば、ご一緒する予定だった他の方もご都合が悪くなられたとか。

 本当に申し訳ありませんでした。

 梅雨が明けるころには、仕事も一段落すると思いますので、

 こちらからチケットを送らせていただきますね。

 そろそろ暑くなります、お体にはお気をつけ下さい。  かしこ




 拝啓

 朝夕はずいぶん涼しくなりました。

 先日の件は、もう少しお返事に時間をいただけないでしょうか。

 貴方からのお言葉はとても嬉しく、ありがたく思っています。

 後半年だけ、お待ちいただけないでしょうか。

 その時には、きちんとお返事できると思います。

 申し訳ありません。

 季節の変わり目、十分お気をつけてください。 かしこ




 拝啓

 年末を迎え、なにかとお忙しいことと存じます。

 こちらから、しばらくご連絡できませんでしたことをお詫びいたします。


 あの人が、見つかりました。

 今は、近所の病院に入院しています。


 これまで、貴方にどれだけ助けていただいたか、

 どれだけ救われたか、本当に、感謝し尽くせません。

 ありがとうございました。


 無礼なのは重々承知しておりますが、

 お手紙はこれで最後にします。


 我儘を、ゆるしてください。

 あと一月、時が流れていたら。

 楽だったのでしょうか。

 それとも、もっと、苦しんだのでしょうか……


 ありがとうございました。

 お元気で。

 ありがとう。

 さようなら。

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