壺と欠片
壺に七人の精を溜め、混ぜ合わせ、溢れさせ、馴染ませ、熟成させ。
そうして勇者は世に顕れる。
最初の勇者が魔王を倒すときに、勇者の魂は呪いを受けて、七つに割れた。
女神はそれを憐れみ、壺に魂の欠片を集めてよく混ぜ合わせ、勇者の魂をもとに戻した。その壺は人々に与えられた。勇者の魂の欠片を持つ者とともに。
魔王が顕現するときに合わせて、魂の欠片と壺を持つ者も生まれ出る。
それを幾度か繰り返し、今生の魔王は妨害を仕掛けた。
欠片を持つ者の誕生を、呪いによって遅らせた。
果たして、六名が、まだ、産まれない。
「そんな訳で」
「よく、そんな訳、が判明したわね」
「そこはほら、魔術師達の努力と」
「終わらない残業と休日出勤の賜物よね」
「ブラックだからね」
「そうよねえ……研究所は高給取りだけどブラックよねえ」
「まあ、顔色土気色のがデフォルトの魔術師達は置いといて」
「ええ、そうね、置いといて」
今生の『壺』である姫が、ベッドに寝転ぶ。
成人男性が十人寝転んでも余裕のある、もはやベッドと呼ぶものなのか疑問が残る大きさのベッドは、少女の姿をした姫が寝転ぶくらいでは軋みもしない。
「このベッドが本来の目的で正しく使用される日はいつなのかしら……」
部屋の半分を埋めるベッドは、ほぼ、姫の生活空間だった。読書も、ボードゲームも、勉強も全てベッドの上だ。部屋の残りの空間が狭い、というのも、おおいにあった。
「八人で、えろえろでぬれぬれにくんずほぐれつまぐわうはずなんだけどねえ……このベッドで」
ただ一人、呪われずに産まれた、欠片をもつ一番目が椅子から立ち上がり、姫の横に寝転んだ。さすがに、少し軋む音がした。
「呪いに気づいて、女神様が私をエルフ族にしてくださったのはよかったわよ。待てるもの」
幼い声と、大人びた口調。
姫は、少女の身体を保つために、神樹の加護をも受けて成長を遅らせている。
「まあ、僕は呪いでどうにか待てる、かなあ?」
一番目は、不老の呪いをもつ指輪を女神の啓示により探し出し、それを常に左の中指にはめている。
「がんばって呪われ続けなさいよ?」
「ガンバリマス」
「私一人で待つの、やあよ? 貴方の精を溜め込んで一人で待つなんて」
「ガンバリマス……いやほんとに、まじでまじで。何その目」
姫が起き上がり、一番目の上に跨がる。
「まあ、待つしかないし、することないし、まぐわう練習でもしましょうか?」
姫の目尻が、少し、赤い。
「……はいはい、頑張りましょう」
一番目は苦笑して、姫を抱え込んだ。