そこに混沌が在った
そこに混沌が在った。
混沌はただそこに、全てを内包して在った。己の内に全てがあることは識っていたが、何があるのかは識らなかった。全ては渾然一体であったからである。
あるとき、ふと、混沌は己の内にある何かを認識した。
そのとき、理、もしくは秩序、あるいは名付けと呼ばれるものが混沌から分かれた。
?
混沌の問にそれは答える。
僕は形をつくるものだ。
君の中にあるものに名を与え、一つの理をもつ一つの何かを取り出すものだ。
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君かい? 君は全てだ。世界そのものだ。僕が君から分かれたことで、君は君として存在を確立し、世界となった。
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そう、世界だ。僕が君の内に在るものに名を与え、個々の何かが増えていき、世界が廻りだす。君は混沌であり原初であり、世界そのものだ……そうだね、創世の神、と言ってもよい。
それの答えに、混沌が凝り、何かの形をとろうとし、空間が生まれ、混沌が凝り固まった何かができた。
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僕は、そうだね……秩序と理の神、とでも言おうか。
それの、秩序と理の神の答えに、それもまた凝り固まり、形ができる。
空間と、境界でそれぞれ区別された君と僕になった。では、この空間と君と僕を認識するために、光と影を創ろう。
?
形を浮かび上がらせるものだよ。
空間に光が生まれ、二柱を照らし、影が落ちた。
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そう、これが、形だ。君と僕の境界が明確になった……僕らだけならば不要だが、これから、もっと増えるからね。
?
君の内にあるものが、存在を持つことになるからね。たくさん、もっともっと、増えて、世界を満たすのさ。今の君のように。そして、君とは違い、形を持って。
さあ、君と僕は、分かたれた。
これまで一体だからこそ、全てが通じていたけれど、これからは、違う。さあ、君の思いを、僕の思いを、形にするよ……僕の、これは、言葉、だ。
こ、と、ば?
「ことば……?」
「そう、創世の神よ。言葉だよ。そして僕らを隔てる領域がぶつかったときにわかるように、肌を持つよ……ほら、これが、君と僕の境目だ」
混沌であった、いまは創世の神は目を見開き、耳を澄ませ、触れ合う肌をそっと滑らせ、口を開く。
「これが、そなた……と、われ……?」
「そう、そして全て君の内に在ったものだ」
秩序と理の神は、宣言する。
「さあ、世界を満たそう」
世界が廻りだした。