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王城から光の柱が建った

 王城から光の柱が建った。

 爆音とともに建ったそれから、光が編まれ、複雑な文様を描き、凄まじい速さで上空を覆っていく。王都の民は、そのレース編みのような光が、王の編む結界であることを知っていた。

 広くはない王国全土を覆う、唯一人が可能とする絶対結界。

 この国の土地に根ざす貴族が持つ、血族にしか伝わらない魔法の中でも最も強力で、最も希少な、世界の端にある国を、異界の割れ目から溢れ出る異形から世界を守る絶対の盾であった。

 この国に生まれた者は幾度となくそれを見る。そして静かに家に立てこもり、魔力を捧げる呪文を呟くのだ。異形の侵攻が終わるまで、血を吐き続け、不眠不休で結界を維持する王のために。

 王都の民は一度だけ、王が結界をはり、維持するところを目の当たりにした。常に王城に籠もる王が、ただ一度、成婚のパレードで王妃とともに馬車で王都を廻っていたときだ。


 にこやかに民にふっていた手が止まり、王が空を見上げた。

 隣の王妃がそれに気づいた。

「陛下……?」

「……間に合わん! 馬車を止めよ!」

 言うやいなや王が立ち上がり、右手を、空を支えるように掲げた。

 恐らくは、何かを呟いたのか、王の全身から光が迸り、柱となって空に打ち上げられた。結界が広がりはじめたその奥で青空が破れていくのを、その裂け目から闇が凝り固まったような何かが溢れ落ちてくるのを、誰もが見た。

 間近での結界構築に皆が呆然とするなか、いち早く王妃が立ち直った。

「皆! 屋内に避難せよ! 結界が異形を防ぐとも何が落ちてくるか判らぬ! 近衛は民の避難を助けよ! 陛下と妾は結界の維持で動けぬ!」

 王妃の声に、馬車を護衛していた近衛兵が弾かれるように動き出した。

「将軍はもう気づいておろう! 軍への知らせはいらぬ!」

 矢継ぎ早に指示を出しながら、王妃が、王を支えるように腰に抱きついた。その両手に展開した魔法陣が王を包み込んだ。

 避難しようとした民は、光の中で、口から鼻から噴き出す血を拭おうともせずに、右手を掲げ続ける王の姿を見た。その血をマントで拭い、防御と回復の魔法を重ねがけする王妃の姿を見た。光の奔流に二人の髪は逆立ち、荒れ狂い、王冠が吹き飛んだ。

「おうさま」

 呆然としていた幼子が、王冠を拾い上げた。

「おうひさま」

 親が近くにいなかったのか、幼子を止めるものはなく、幼子は王冠を手に、軋む馬車に近づこうとした。

 王が、ちらりと、視線を向けた。

「よくぞ拾った……ここまで運ばずともよい……」

 王妃が近くの近衛兵を指し示した。

「近衛に渡せ、ここは危ない……だが、感謝するぞ……急ぎ、家に帰るがよい」

 王冠を受け取った近衛兵に抱え上げられ、幼子は頷いた。

「おうさま、がんばって」

 祈るように手を組んだ幼子の小さな手から、僅かな魔力が立ち上り、王に吸い込まれた。



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