7話:アリス武具店(後編)
遅れました
1
黒い影は少し動き
「ヴォォォォッ!」
けたたましい雄叫びが採掘場に響いた。
「「え?」」
2人の声が重なった。
影はこちらに近付いてくる。その姿は近付いて来る度により鮮明になってゆく。
その顔はまるで牛のようで、右手に大剣を持っており、体長は4m程ある。
凶悪そうな顔で口からは牙をむき出し目は鋭く、頭に角を2本生やしている。筋骨隆々なその体の体毛は
「ミノタウロス…?」紅い。
アリスさんが呟いた。確かに学校で聞いた事のあるような容姿をしているが、俺の知っているミノタウロスは体毛が黒い。
「あれがミノタウロス…ですか?」
黒い体毛だと聞いた、とアリスさんに聞くと、
「そうなんだけど…紅いミノタウロスなんて私も聞いた事無いんだよね…」
アリスさんも知らないらしい。
「グァァッ!」
リザード達が奇声を上げ、ミノタウロスの方へ突撃していくー
のだが、紅いミノタウロスは群れを一薙で吹き飛ばした。
どうやら、ミノタウロスはこっちに気付くと、目の色を変え走ってきた。
「まずい…」
とアリスさんが呟いた。
「とにかく、できるだけ無茶はせずに、応戦しつつ逃げよう!」
「は、はい!」
すると、ミノタウロスはを投げた。
岩は目の前に落ちてきて行く手を阻まれた。
「なっ…」
驚いて振り向くと、かなり接近されていた。
「ジル君!攻撃を避けることに集中して!」
「分かりました!」
ミノタウロスは狙いを定め、剣を振り下ろした。
アリスさんはその攻撃を盾で防ぎ軌道をずらした。
耳を塞ぎたくなるような金属音だったが、その間に俺は後ろに周りこみ、背中を横に切るも、
「硬っ!?」
確かに切れたが、傷は浅い。ミノタウロスはこちらに振り向いた所を、
「魔道ー斬撃!」
アリスさんの声が響いた。
これは後から聞いた話だが、アリスさんの武器は特殊で魔道の伝導率、つまりマナの流れやすい素材で作られていて、武器にも魔道が使えるらしい。
アリスさんの攻撃は見事にミノタウロスの腕を切り裂いた。
「ヴォッ!?」
ミノタウロスは悲鳴を上げた。
いけるか!?と俺は思ったがこの時は忘れていた。このミノタウロスが特別であるという事を━
ミノタウロスは右手の大剣をアリスさん目掛けて振ったが間一髪の所で
「障壁ー〈ウォール〉!」
障壁魔法を張り、剣を止めたが…
「っ…」
ミノタウロスは大剣を振り切り、魔法を打ち破った。
「うっ…」
盾でどうにか防いだものの、アリスさんは吹き飛ばされ、壁に打ち付けられた。
このままじゃ…
俺はミノタウロスに向かって走って行った。
ミノタウロスは右の拳で殴ろうとしてきたが、それを躱し切ろうとしたが…
更に拳を振り、胸当てを掠めた。
「かはっ…」
ミノタウロスの腕が切られていなかったら即死だっただろう。
立っていられず倒れた。
咳をすると、地面に血が広がった。
痛い…苦しい…
体の温度が下がっていくのが分かった。
あぁ…ここで死ぬのかな…
ミノタウロスは剣を振り上げた。
目を閉じようとした時だった。
光…?
なんだ…この光は…?
光にミノタウロスは戸惑った。
ジル、お前はこのままでいいのか?
「え…?」
リューの声が聞こえた気がした。
次は確かな声で
お前はこんな所で終わっていいのか?
そんなの…
「駄目に決まってるだろ…!!」
2
不思議と力が沸いてきた。
さっきのリューの声は一体…いや、それよりも今は目の前のミノタウロスをどうにかしないと…とにかく避ける事に集中しろ!
自分を叱咤し、次の攻撃を避けようと必死にミノタウロスを見る。
来る!左の拳!
ギリギリで回避出来た!
次は大剣だ…
…?…筋肉の…動き…?
またしてもギリギリで避けた。ミノタウロスの大剣はジルの数十センチ横に傷を刻んだ。
やっぱり…動きが…読める!
さっきまで圧倒していた相手に連続で攻撃を躱され、ミノタウロスは更に困惑する。
ー隙!
「ふっ!」
連続して2度切った。
「ヴォォッ!」
ミノタウロスは悲鳴を上げ、傷から出た血で紅い体毛を更に紅く染め上げてゆく。
ミノタウロスは大剣を捨て、体術で攻めてくる。今まで黒かった目が紅く染まる。
「っ!?」
拳が今までより早い速度で飛んできた。
なんて速度だー頬を掠めただかで頬が切れた。
だけどー俺には負けられない理由がある!!
ミノタウロスは紅い双眸でこちらを睨み、鋭い鉤爪と俺の剣がぶつかり合う度、火花を散らす。
3
いつまでも終わらないように思えた戦いは終わりを告げる。
俺は全力でミノタウロスの爪を弾き、最後の力を振り絞り、剣尖をミノタウロスの胸に叩き込む。
「おぉぉぉぉっ!」
「ヴォォォォッ!」
俺とミノタウロスの声が重なり、やがてミノタウロスは倒れた。
「はぁ…はぁ…」
終わった…のか…?
そこで意識は途切れた。
4
目が覚めると、アリスさんの顔がすぐそこにあった。
「?」
「あ、目覚めた?」
「え、あ、はい。」
頭に何やら柔らかい感覚が…
…柔らかい?
起き上がると
「ジル君、倒れてからなかなか起きないから膝枕してた…えへへ…」
何やってるの!?
「え、えっと…」
自分で顔が赤くなっていくのが分かった。
「じゃ、帰ろっか」
アリスさんはほこりを払い、先に行こうとしたので、俺も歩き始めると、
アリスさんは振り返り
「助けてくれてありがとう。かっこよかったよ」
輝くような笑顔だった。
後ろで手を組んで笑いかけてくるアリスさん。
とてもドキドキした。
アリスさんはそんな俺に気持ちをつゆ知らず、また歩き始めた。
続く
8話もまた難航中です()
待ってて下さい