お伽噺はハッピーエンドで
「待てよ!」
目が覚めた。
枕替わりにしてた石が悪かったんだろうか。変な夢を見ちまった。
「ちくしょう。ホントに言いたい放題言っていきやがった」
というか誰なんだアイツは。
こちとら知り合いなんざ数えるほどしかいないってのに憶えはないぞ。
俺の悪態を責めるように木々がぞわぞわと揺れる。
「はいはい、悪かったよ。お前らには言ってない」
魔術で消えかかっている火を始末し、周りに張っておいた人避けの結界も回収して出発の準備を終える。
「ま、そんなことよりする事があらぁな」
そう。『誰か』を気にしている暇なんてないんだ。
「さーて、何時になったら抜けれんのかねこの森は」
この森の中で俺は、絶賛迷子中なんだから。
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既にこの森の中に入ってから4日は経過している。
これは日の出入を数えているから間違いないだろう。これすら間違っていた場合は考えない。
そろそろ食料にも限界が来始めている。
そもそも地図で確認する限り、そこまでこの森は大きくないはずだが。
「はずなんだけどなぁ」
何時になっても出口は見えず、今更戻る事も出来ない。
「魔術かねやっぱり。だが、それにしちゃあ」
敵さんが出てくるタイミングがおかしい。
昨日あれだけ爆睡している俺を狙わない手はねぇだろう。
と、なると。
「『自然的なもの』って考えるのが普通か」
じゃあ原因があるな。
随分と前から「森」が何か伝えたがっているとは思っていた。
面倒事だろうからわざと気にしてなかったんだけど。
それにしても一人旅は独り言がおおくなって困る。
だからと言って誰かとする旅なんざお断りだが。めんどくさそうだ。
そんな事を考えつつ、魔術の準備を始める。
どこかにこの『自然的な』魔術の原因があるはず。
その出がかりを探すための簡単なもの。
とまぁ、準備といってもほんとに簡単なものだが。
念には念を。旅をするならこれは欠かしてはいけない。
魔法円を書き終え、その中心に座って目を瞑り集中する。
「さぁて、どこのどいつだ。その迷惑野郎は」
神経が地面に、空気に移る感覚。
この自然と自らを一体化し原因を探す。
流れる風に乗り、木々をかき分けーーー
「うぉお!」
魔術を中断する。
目を開けると、周りを魔物達が囲んでいた。
「あらら。随分と恥ずかしがり屋さんなんだな」
まぁ、見つけたんだけど。
ギリギリだったな。あちらも俺を見てたらしい。
見つかりそうになったんで慌てて手を出してきたって感じか。
「とりあえず退いてもらおうか。そろそろここらの景色にも飽きが来てるんでね」
あの子には悪いが、ちょっとばかり暴力を振るわせて貰おう。
飽きが来てるのも事実だしな。
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かなり近づいてきた。
左から飛びかかってきた狼型の魔物を走る速度を落とさないよう左手で殴り飛ばして、意図的であろう倒木を避ける。
正面から走り込んできた4本角の猪くんは踏みつけさせて貰おう。ごめんな。
それにしても魔物と障害物のオンパレードだ。
「かなり仲良しでやってるとこをごめんよ」
最後の枝をどけて、原因に対面した。