5菌:しりとりをした
休み時間にトイレから戻ってくると、恵子が僕の席に座っていた。
隣の榎田さんと向き合ってなにやらお話しをしているようだ。
恵子、やっと榎田さんと会話できたんだな。よかったよかった。
「なに一人でうんうん頷いてるのよ」
「あ、いや……ちょっと恵子の一歩に感動を……」
「?」
「おう舟司くん。ちょいとヅラ貸せよなー」
「それを言うなら面(ツラ)だよね!?」
この歳でヅラなんて絶望的にも程がある!
「舟司くんも一緒にしりとりやろーぜー」
「榎田さん、しりとりセンス凄いわよ。あたしは全然敵わなかったわ」
二人はどうやらしりとりをして遊んでいたらしい。
恵子に席を譲ってもらいつつ、
「しりとりって、凄いとかあるの?」
「まぁまぁ、次の授業まであとちょっとだし、早速はじめよー。まずは、舟司くんからでいいよー。次に末田さん」
「あ、ああ」
問答無用でしりとりが始まった。
「じゃあ、最初は僕だね。……"しりとり"。次は恵子」
「り、ね。……"りんご"」
「"五束売りのエノキ"」
「き、か。……って、なんでそのチョイス!?」
まだまだ序盤なのに無理やり持っていった感が半端ない!
「せめて実際にあるものの方が……」
「んー? あるよー五束セットのエノキ。『スーパー玉出し』の名物商品だよー」
「そんな店はじめて聞いた!」
なんかいろいろ怒られそうだ!
「はい次、舟司くんだよー。き、だよー」
「う、うん。わかったよ……。き……き……、"きなこ"」
「こ、コップ。はい、榎田さん」
「ぷ……、ぷ……」
少し詰まる榎田さん。「ぷ」はちょっと言葉が少ないかな?
いやでも、あるにはあるな。でも、あれは……。
「ぷ……プリン!」
僕が懸念してたことが、すぐ目の前で起こった。
「ぁ……」
言った本人もすぐに過ちに気がついたのか小さく声をあげた。
「……」
しばらくの沈黙のあと……
「……色のエノキ! はい次ー」
「さすがに無理やり過ぎるわ!」
僕と恵子が気づいてないとでも思ったのか、無理やり繋げてきたよ!
「それに間が凄かったよ!? 今度こそ無理やりだよね!?」
「そんなことねーよ? 茶碗蒸しに入ったエノキって、どことなくプリン色してるだるぉ?」
「あれは卵の色! はい、榎田さんの負けー!」
「いやいや、昨今の人工のエノキはたしかに白いなー。けど、自生するエノキはカサが茶色味を帯びていて暗所のやつだとそれはそれはプリンのような色をしたエノキがある事例も」
「え……そうなの? タメになるわ……」
恵子もすっかり丸め込まれてるけど、それでも無理やりには変わりないから!
――キーンコーンカーン。
騒いでいるうちにチャイムが鳴った。
「自生のエノキは茶色っぽくて柄も短くて表面にはぬめりもあって、それは紫外線や雑菌から身を守るために中からメラニン色素を出してうんぬん……」
その後の授業中も、榎田さんのエノキ談義のおかげで全然集中できなかった。
榎田さんは意外と負けず嫌いだったようだ。