3菌:ボブじゃなかった
転校生というのがよっぽど珍しいからか、はたまた、初日の彼女の暴挙(?)を見てか、次の日の朝から、榎田さんの机を囲うように人だかりができていた。
今はその真ん中で、榎田さんがクラスメイトの質問攻めにあっている。
「ねぇ、ねぇ、榎田さんってどこから来たの?」
「んー? 某県の某町からだよー」
「榎田さんは、何人家族?」
「お母さんが二人と、お父さん(偽)が一人かなー」
「「え"っ!」」
「冗談だぜー」
「な、なぁんだ……。ビックリしたよ~。てっきり泥沼昼ドラ展開かと思っちゃた~」
「榎田さんって面白いね! それに可愛い! その髪型も似合ってるよぉ! えっと、ショートボ……」
「エノキカットっす」
「え? ショートb「エノキカットっす」
「あとあと、好きな食べものはな「エノキっす」
「え、エノキなんだー……。でもでも、似合ってるよね! 榎田さんの髪型に! そのショーt「エノキカットっす」
「(い、言わせてよ~……)」
「そ、そういえば、昨日も食べてたよね……。あれって、生で食べられるものなの?」
「採取してすぐなら大丈夫なんだぜー。長く置いておいたら腹ぶっ壊すぜー」
エノキの話しになるとやや食い気味だけど、クラスでの掴みは良いみたいだった。
僕はそんな会話を聞きつつ、隣の席で読書している。
もう中学生、大人な振る舞いをしなくちゃな。
ちなみに、もう一つ隣の席では恵子がそわそわしながら榎田さんの席をチラチラ見ていた。
「話しに入りたかったら素直に行けばいいのに」
「……行かにゃいわよ。子どもじゃあるまいし」
と睨まれた。
※ ※ ※
ただ、転校生恒例の質問攻めもそう長くは続かない。
二、三日もすれば机に群がる人の群れは消えていた。
「舟司くんって、いい感じだねー」
「「えっ!?」」
突然言われてビックリした。
というか、僕と一緒に恵子まで声をあげてた。
「いやいやー、どこもかしこも植菌しやすそうだなーってなー」
「植菌ってなに!?」
そういう意味のいい感じだったの!?
「今度ちょちょいと菌植えさせてくれなー」
「嫌だよ!」
榎田さんが転校してきて数日。
僕は、なぜか榎田さんにやたら絡まれるようになっていた。