2菌:エノキだった
窓から降る日差しのようにさり気なく、榎田さんという女の子がこのクラスにやってきた。
ちなみに、彼女の座席は僕の左隣だ。
朝のHRが終わり、一時間目の授業前。たしか国語だったかな。
「ねぇねぇ、舟司くん。次の授業はなにかなー?」
「あ、そっか。転校してきたばかりだから、わからないよね。えっと、次は国語だよ」
「そかそかー、ありがとー」
のんびりとした口調でお礼を言って、榎田さんは鞄を漁り始めた。
まだこの学校に慣れてない榎田さん。せっかく隣の席になったんだし、僕ができるだけサポートしてあげなくちゃな。
ところで、榎田さんは教科書とかはもう受け取ってるんだろうか?
そう思って隣を見ると、ちょうど鞄から取り出すところだった。
でも、それは教科書じゃなくて、
「榎田さん……? それは?」
「んー? エノキだよー」
エノキだった。
一度まばたきをして、もう一度見てみるけど、やっぱりエノキだ。
よくスーパーなんかで見かける白いあのキノコ類。
「え、いや……なんでエノキ?」
「んー? 朝の授業前といったらエノキだるぉぉ?」
なに当たり前の事聞いてんだ? って顔をされた。
え? 朝にエノキって、普通なの?
ふと右隣の恵子を見ると、授業の準備をする手を止めて榎田さんの方を見ていた。
「な、なんでエノキ……?」
って思ってるのがモロに顔に出てる。きっと僕もおんなじような顔をしてるにちがいない。
「い、いやいや、やっぱりおかしいよ朝はエノキだなんて……って、食べてる!?」
榎田さんは取り出したエノキにかぶりついていた!
「……エノキって、生で食べられるの……!?」
その暴挙を見て驚いたのか、恵子もそんな声をもらした。
うーん、ツッコミどころが若干ズレてる気がする……。
「もぎゅもぎゅ……あぁ~、朝エノキはしみるわー。今日も一日乗り切れるわー」
「なんか台詞がオッサンくさい!」
徹夜後に栄養ドリンクを飲んだサラリーマンみたいなこと言いながら、榎田さんはエノキをまるまる一株たいらげてしまった。
「ああ、これで目が覚めたー」
見てるこっちの目が覚めたよ……。
「た、只者じゃないわね……」
「う、うん……」
恵子のつぶやきに無意識に同意してしまった。
やっぱりというかなんというか、榎田さんは只者ではなかった。