1菌:榎田さんがきた
一話だいたい1000字前後の短い中編作品です。
「今日から新しいお友達が増えまーす」
担任の先生の一言で、クラス中がどよめいた。
「どんな子だろうねー」
「男の子かなぁ、女の子かなぁ」
浮足立った会話が教室のあちこちから聞こえてきた。
もう中学生だし、立ち上がってはしゃぐような真似はしない。
けれど、僕だってみんなと同じように驚いた。
「ちゃんと仲良くなれるかしら……。ねぇ、ふなじ。どう思う?」
ボソボソと、右隣の席の末田恵子が話しかけてきた。
彼女は、小学、そしてこの中学でもずっと、僕とはクラスメイト。
しかも家もご近所。いわば、腐れ縁の幼馴染だ。
「うーん、そればっかりは会ってみないとわからないかなぁ」
「そこはお世辞でも良い風に言いなさいよね。ほんと、ふなじはふなじなんだから」
ため息混じりにそっぽを向き、ふてくされたように頬杖をつく恵子。ポニーテールが軽く揺れた。
恵子はよく、僕の返答にため息をつく。僕の何かがお気に召さないんだろうけど、それが何かはさっぱりわからない。
彼女も難しいお年頃ってやつなんだろうな。
「じゃ、入ってきてねー」
先生の声に合わせて、一人の生徒が入ってきた。
背の低い女の子。学校指定のブレザーに見事に着られている。
色白で、おかっぱ……いや、ショートボブっていうんだろうか。
ひと目見た感じだと、あまり印象に残るような子ではなかった。
「ではでは、簡単に自己紹介しちゃおっか」
「はい。みなさん、はじめまして。今日からお世話になります、榎田ですー」
少しほわんとした感じは、キツめな口調の恵子とは正反対なイメージだ。
「みんな、仲良くしてあげてね。それじゃ、榎田さん。あの席に座ってね」
「はーい」
先生が指した席……ちょうど僕の左隣に向かって、榎田さんが歩いてきた。
「はじめまして、よろしくね。榎田さん」
彼女が席に座る前にふと目が合って、挨拶を交わす。
「あ、はじめましてー。えっとー、君はー」
「僕は、舟司明治。下は、明治時代の明治って書くんだ」
「おおー、しぶい名前だぜー」
「えっ? ……あ、うん。よく言われるんだ……ははは」
もっと小さい頃は、オッサンみたいな名前だとからかわれたりして嫌だったけれど、中学に入って、僕だってちょっと大人になったんだ。もう気になんてしないぞ。
それにしても、意外だったな。
榎田さんってメルヘンチックな印象なのに、「だぜ」とか使うんだ……。
「……ぶなし、めぃじ、かー……。熱くなりそうだぜー」
「え?」
小さい声だったけれど、たしかに何か聞こえた気が。
隣を見るも、これといって変わった様子はない。
榎田さんは、のんびりと鞄から教材を出している。
不安とも危険とも、また違った感じ。
だけど、これから先、僕の学校生活の中で只ならぬことが起こるかもしれない。
そんな予感がした。