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世代交代早すぎませんか。

「……そんな」


ロイスは魔王となったはず。

なのに、


「あなたが魔王?」


メリッサはベッドに半身を起こし、着崩れたシャツを直しもせず寛ぐ男を見上げる。

背が高い。

ベッドに半身を起こした状態でも座り込んだメリッサより頭一つ分見上げる形になるのだから。


黒い髪に黒い瞳。


ふとメリッサはそのひとをどこかで見たような気がした。


会ったことはない。

はずだ。


一度でも、それが幼い頃であったとしてもけして忘れられない。

男の容貌はそれほど整ったものであったし、何より黒というその色はアルバッハで非常に珍しいものであるから。


「……ロイス、ロイスか」

「知っているの?」

「まあ、知っているな。……ああ、お前メリッサか」


男の呟きに、詰め寄ろうと腰を浮かせて、メリッサはぴた、と固まった。


「どうして、私の名前」

「散々見せられたからな。奴の記憶に」

「記憶?」

「ああ、ロイスは先代の魔王だ。すでに退位している」

「……はい?」


(……え?先代?)


ロイスが行方不明になったのは10年近く前。

その後すぐに魔王になったのだとしても、ロイスは今メリッサより一つ上、17才のはず。


(さすがに世代交代早すぎない?)


「ロイスに、ロイスに何かあったんですか?」


そうでもないと17で退位はおかしいと思う。

この男ひとは明らかにメリッサたちより年上だし。


男の年令はおそらく25、6と言ったところ。

17のロイスが退位してそれより年上の男が即位したとなればロイスの身に何かあったか、あるいは略奪か。


だが、人間の国の王ならともかく、魔王である。


「何故そう思う?」

「だって早すぎるでしょう!」


「そうか?」と男ーー現魔王は頸を傾げた。


「奴が即位したのが確か7才、それから5年持った。長く持った方だと思うだな」

「5年で長いの……?」

「ああ、精神も肉体もまだ子供のうちの即位だからな。普通は2、3年持てばいい方だろう」


(……いったい魔王ってなんなの?)


よほどの激務だとでも言うのか。


「ロイスは無事なの?何処にいるの?」

「……まあ、無事と言えば無事だ。生きているしな」


その言葉にメリッサはほう、と息を吐いた。


「よかった」

「だが会いたいと言う気ならやめておけ」

「どうして?」


メリッサは無意識に男を睨んでいた。

ロイスは無事に生きている。

なら、会いたい。

そう思うのはいけないこと?


男ーー魔王は少し困ったような顔をして、メリッサから目を反らした。

長い指が持ち上げられ、グシャリと自身の黒髪を握り潰す。


メリッサはその表情一つ、仕草一つも見逃すまいと睨み据えていた。


だから、気付いた。


(……汗)


乱れて大きく開いたシャツの胸元。首筋。

少し長めの黒髪から覗く額にも。


軽く伏せられた瞼と目の下は、うっすらと朱に染まって。


「……ちょっと失礼」

「……おいっ!」


抵抗されるよりも手早く、メリッサは魔王のシャツをぐい、と両手で引っ張った。

もとより開いていた胸元をよりはだけさせる。


そしてそこに、ピタリと耳を着けた。


(……心音は、異常なし。肺も、妙な音はしない)


「何をしている!」

「静かに!ちょっと黙って!手っ!」

「は?」

「手、出して!早く!」


メリッサの剣幕に、気圧されたように出された手首をガシッとつかんで逆の手で脈を測る。


(……少し、早い?)


「次、口開けて」

「……き、貴様」

「いいから早く!」


(暗くて見えづらい。……けど腫れてるっぽい?)


メリッサは膝を立てて無理矢理顎に手を当てて上向かせた魔王の口の中、喉を覗きこむ。


そのまま指を添わせて扁桃腺の腫れを確認した。


触れた肌は熱い。

明らかに平熱とはいえない体温だった。


「貴方、風邪ひいてるわね」

「だったらなんだ!この痴女が!」

「失礼ね!私は薬師よ」


ふん、と何故か偉そうに胸を張るメリッサを魔王ははだけたシャツを直しながら、戸惑いとほんの僅かに怯えを含んだ瞳で見詰めていた。

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