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単純さが連携の鍵です

 小鬼ゴブリンの村はすでに廃墟となっていた。小屋も燃えて、動く小鬼ゴブリン達はもういなかった。ジョルジュは大剣を肩に担いでゆっくりとチハたんへと歩み寄った。


 「お嬢ちゃんの作戦がハマったな。」


 「……うむ。」


 ロリはジョルジュにお嬢ちゃんと呼ばれて不満顔だったが、チハたんの提案してくれた作戦が思いの外うまく行ったことは満足だった。


 「どうあってもこいつの動く音は隠しようがねぇ。だったら、思い切って正面から進んで、俺たち近接戦専門職が裏から回って、人質を回収し、ジゼルが遊撃として撹乱させるか。」


 「力があれば、平押しが一番なのじゃ。」


 「ああ、まったくだ。戦闘は単純な作戦な方が動きやすい。」


 「であるか。ジョルジュよ。ところで小鬼ゴブリンの王とやらはおったかの?」


 双眼鏡を覗き、辺りを警戒するロリがフィムたちが逃げた方向とは反対の森の奥に視点を固定していた。


 「いや、俺は見てねぇな。」


 「ふむ……早々に退却した方が良いか、それともここで待ち構えて決着をつけるべきか。悩むのじゃ。」


 「なんだって?」


 聞きなおそうと見上げたジョルジュの向こうの森から地響きに似た音が聞こえた。


 「遅かったかのう。ジョルジュよ。敵の王が来るのじゃ。覚悟を決めておくのじゃ。」


 「なっ!!」


 森の暗がりから姿を現したそれは小鬼ゴブリンと呼ぶには大きすぎた。


 灰色の分厚い皮はたるみ、あちこちがカビのように緑に変色していた。つり上がった目は狂気を浮かべ、口のはしからはあぶくが湧いていた。


 右の手には豚鬼オーク大鬼オーガが持つような棘の生えた鉄の棍棒が握られている。


 「でけぇ……豚鬼オークの間違いじゃねえのか?」


 「あながち、違うとも言えんのじゃ。」


 「……師団長。車内に入られることを進言するであります。」


 「で、あるか。ジョルジュよ、妾は中に入るゆえ、そちはチハたんの後ろに下がるが良いぞ。」


 ロリは車内に入り、ハッチを閉めた。彼女はキューポラの外部展望装置で外をのぞいた。


 怒りに我を忘れている様子の小鬼ゴブリンの王は三度地面に棍棒を叩きつけ、振り上げて威嚇した。 


 動いている間に体を縛っていた綱が緩んだグロリアは機銃を撃つための小窓から外を確認していたが、初めて見る最上位種の小鬼ゴブリンに体が震えるのを止められなかった。


 「か、勝てるのぉ〜?」


 「……ジョルジュが出るようだな。まったく。おい、グロリア。奴はどのくらいの腕前なのじゃ?」


 「ジョルジュは剣士としてはBランクに入るくらいの技量を持つと言われています。」 


 「ならば、余裕で勝てるかの?」


 「小鬼ゴブリンの王はその君臨した期間にもよりますが、だいたい、Bランク、生まれたてでもCランクはくだらないと言われています。疲労も考えるとギリギリかと思いますよ。」


 「……チハたん。徹甲弾の用意。隙を見て撃ち込むのじゃ。」


 「了解であります。」


 「ジョルジュを気にしてくださいね。」


 「わかっておるのじゃ。」


 二人の目の前には小鬼ゴブリンの村の広場で構えるジョルジュと小鬼ゴブリンの王に注目をしていた。


 ジョルジュは肩幅に開いた両足の膝を軽く曲げ、脇構えと呼ばれる両手剣を右下に構える型に移った。


 対して小鬼ゴブリンの王は頭の上で棍棒をグルングルンと回している。


 車体の向こうでかすかにジョルジュの気合が聞こえた。彼は頭から敵に突っ込んだ。


 口からよだれを垂れ流した小鬼ゴブリンの王が勢いをつけた棍棒を振り下ろした。


 「危ない!!」


 グロリアは叫んだが、ジョルジュは振り上げた両手剣で小鬼ゴブリンの王の棍棒を跳ね上げた。


 「うまいのじゃっ!!」


 ロリが喝采を挙げたが、ジョルジュの剣が折れてしまっていた。しかし、脇がガラ空きになった小鬼ゴブリンの王に折れた剣の刃で切りつけた。


 「浅いっ!!」


 小鬼ゴブリンの王の皮は厚くヒダのようにたるんでいる。そのために皮を切っても肉まで達することができなかった。


 切られた小鬼ゴブリンの王はさらに狂乱を見せ、棍棒を振りました。ステップを踏んで棍棒を避けていたジョルジュだったが、攻め手に欠ける彼はどんどん疲労が蓄積していった。 


 「ジョルジュの足が重くなっています。一発でも当たったら……! ロ、ロリちゃん。どうにかならないのですか?」


 「いささか侮っておりました。早くて照準がつけられません。一瞬でも足が止められたら、当てる自信があるのでありますが……。」


 「どっしりとした体格のくせに意外と動きが軽快なのじゃ。少しでも足を止めることができたなら、撃てるといっているのじゃが。」


 「わかりました。だいぶ回復してきた気がします。火球なら一度撃てる気がしますね。よし、ロリちゃん、私を外に出してください。」


 「ああ。良いのじゃ。」


 ロリは銃剣で綱を切り、グロリアを解放した。

 彼女はフラフラしながらも表に出てキューポラに腰掛けた。ロリは入れ替えて、運転席から外をのぞいていた。

 

 「ジョルジュッ!!」


 「オウッ!!」


 グロリアの声に応えた剣士は折れた剣を投げ捨てた。


 小鬼ゴブリンの王は雄叫びをあげ、右手握りしめた棍棒を振り下ろした。


 しかし、ジョルジュはその右手を掴み、彼に背を向けて、力任せに放り投げた。


 ジョルジュは自分の体ごと小鬼ゴブリンの王を投げた後、そのまま前転を繰り返し、敵から離れた。 


 「す、すごいのじゃ。」


 「よくやりました!! フォイエル!!」


 右手を突き出し、構えたグロリアの掌からソフトボール大の真っ赤な炎が小鬼ゴブリンの王に向かって射出された。

 また魔力をすべて失った彼女は自分で体を支えることができなくなり、ずるりと砲塔から滑り落ち、そのまままるでスライムのようにぬるりと車体を滑り落ち、地面に横たわった。


 仰向けに倒れた小鬼ゴブリンの王の腹にグロリアの火の玉が刺さった。


 グギャアアアアアアッ!!!!! 


 叫び声をあげてのたうちまわった小鬼ゴブリンの王は火だるまになりながらも立ち上がろうとした。


 「チハたん!!」


 「はい!!」


 チュドォォォォォォォォォォォォォォォン!!!


 チハたんの九七式五糎七戦車砲が火を吹いた。徹甲弾を模した魔力弾が小鬼ゴブリンの王を粉々に砕いた。


 「やってやったのでありますっ!!!」


 「か、勝ったのじゃーーーーー!!」


 「すごい。」


 チハたんとロリ、グロリア達とは少し離れたところで、満身創痍の体を鼓舞して格闘術の構えをしていたジョルジュは気が抜けたように地面に座り込んだ。


 「ふっ…ふははははは……。 マジかよ。ははは……ありぇねえって……。」

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