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小鬼(ゴブリン)の森 蹂躙

 キーロフ平原は南北にはヴァイスローゼン王国の南部から南部辺境小国にかけて、東西には二つの山地を越えて大陸の西のはじまで広がる大平原である。


 開拓はあまり進まず、大陸の西海岸までの踏破に成功したものはいない、未開の大地であるが、王国側の草原では大型で危険な魔物はおおむね絶滅しているためにヴァイスローゼン王国の初心者冒険者たちにとって格好の狩場となっている。


 おおむねといっても、中級以上、D〜Cランクの冒険者パーティでなければ対処することができない岩狼ロックウルフの群れや鉄筋熊メタルマッスルベアなどもいるし、一角兎ブルータルバニーも群れになれば強い。 


 しかも数年に一度起こる魔物が繁殖期を迎え、凶暴化する『蝕』の時期には森の中や丘陵地帯にいるモンスターは凶暴化し、『蝕』の数回に一度は大量にいる小鬼ゴブリンの群れの中から上位ゴブリンへと変化する個体も生まれるために、この近辺の村の住民たちは『蝕』の前には冒険者ギルドを介して間引きを依頼するのだった。


 この草原に遍在する森林は上記の大型の魔物や小鬼ゴブリン豚鬼オークなどの二足歩行で社会性を有する人型魔物の巣があり、冒険者たちでも近づくのにためらわれる場所だった。ロリたちの目の前にある森もそうだった。


 不自然に四角形をしたこの森は周縁部から小鬼ゴブリンたちが若木を刈り、被害者から奪い取った鉄の刃物で木製の槍を作ってゆくために、あたかも人の手が入ったように見えるのだった。


 もちろん普通の小鬼ゴブリンたちがこれほどの知恵が回るわけでもなく、この森に生息するこの小鬼ゴブリンがそれまでの群れ行動の中で得た知識であり、他の小鬼ゴブリンたちよりも賢い証拠であった。

 そのために、ここは上位種が生まれやすいと知られているが、交通の要所であるロートバルト地方に近く、人族を中心にした開拓村の村民は逃げ出すことができないのであった。


 「グギャグギャギャギャガー!!」


 「グゴ?」


 「グゲゲゲ? ゴゲー!」


 「グッガ! 」

 「グッガ! グッガ! 」

 「グッガ! グッガ! グッガ! 」

 「グッガ! グッガ! グッガ! グッガ! 」


 饐えた悪臭と薄汚い不衛生な小鬼ゴブリンの村の奥にある廃屋のようなあばら家にさらわれた娘たちが横たわっていた。彼女らは身体中にアザを作られて、抵抗する気力すら失われ、汚れた顔に涙の跡がついていた。


 彼女らの耳には怒気に満ちた小鬼ゴブリンの叫び声が突き刺さり、ドタドタと走り回る音が聞こえてきた。


 「どう…したの……?」


 「どうでも…ええ…じゃ。」


 絶望にとらわれ、目を開けることすら億劫になった彼女らは疑問を放り投げた。


 遠くで、キツツキが木を穿つ時の音が聞こえる。


 なにやら小鬼ゴブリンたちも興奮して叫んでいる騒音が聞こえる。


 「はやく、楽さなりてぇなぁ……」


 ドン!!!!!!!!!


 鼓膜を破るほどの大きな音がして、小屋が細かく震えた。床もまるで地震のように震えた。


 「な、なにが起こって、いるんさ?」


 「助けが来たのさ。」


 ビクッと身を震わせて振り返った女性たちの目の前には斥候のフィムが立っていた。


 「ひぃっ!!」


 「ど、どこから!?」


 「ん〜、そこの窓からだけど。みんな、立てそうかい?」


 彼が指し示した窓の衝立は破壊され、ぽっかりと空いていた。のんびりとした口調のフィムに彼女らは首を横に振った。


 「おらはまだ大丈夫だけんど、隣のマァサは足の骨を折られているんだ。あと向こうの娘たちは目が覚めないんだよ。」


 「そう。ちょっと診せてね。」


 そっとしゃがむとフィムはマァサと呼ばれた若い女性の赤黒く腫れ上がった足に触れた。苦痛に歪む顔に彼も首を横に振った。


 「添え木がいるようだけど、今はちょっと無理だね。僕が担いで行ってあげる。」


 それから奥の娘たちのところにゆき、なにやら確認して、すぐに戻って来た。 


 「さぁ、行こう。起きて。」


 そこまでで口を閉ざしたフィムにしっかりした赤毛の女性は目を閉じて首を縦に振った。フィムはマァサを肩に担ぐと続いて彼女も立ち上がった。


 「おら、ハイディだ。」


 「そう、ぼくらは『夏至の暁』という冒険者パーティーだよ。ぼくの名前はフィムっていうんだ。さてと表に出よう。」


 彼はそう言って玄関と思われる毛皮が吊り下げられた出入り口に向かった。 


 「だ、大丈夫なのかい?」


 「ああ、強い味方を連れて来た。」


 フィムに手を引かれて表に出たハイディの目の前には想像できないような異質な光景が広がっていた。


 地面のところどころに開いた大きな穴からは黒い煙がたなびいている。


 おぞましい小鬼ゴブリンたちは地に伏しているか、逃げ惑っている。


 時折上位種らしい大きな体をした小鬼ゴブリンが茶色と緑色と黄色の大きな鉄の塊に向かってゆくが、細長い棒のところから、金槌で釘を打つときに聞こえるような音とともに光が出て、向かって行った小鬼ゴブリンたちは倒されてゆく。


 弓を持った小鬼ゴブリンが鉄の塊の上に身を出している幼女を狙おうとするも、森の奥から光が飛んで来て、眉間を撃ち抜かれている。


 「おう、どうだった?」


 「この二人は無事だったよ。あとはもうダメだった。」


 「そうか。お前とジゼルは森の外に向かえ。俺はあの小屋を焼いてから逃げる。」


 「ロリちゃんたちはどうする?」


 「殲滅戦じゃ〜!!」


 噂をすればというわけでもなかったが、鬨の声をあげながら、主砲を撃った。


 小鬼ゴブリンたちの集団に弾着した榴弾は爆発して、薄汚れた魔物たちを吹き飛ばしていた。


 「適当なところで声をかける。」


 「わかったよ。」


 肩をすくめたジョルジュに頷いたフィムは右腕を上げて振り回した。するとすぐに森の奥から空に向かって弾が上がった。


 「あいつもすっかり使いこなしているな。」


 「ああ。早く行け。」


 「わかった。ハイディ、大変だろうが急ぐよ。」


 「んだなっす……わがったよぉ。」


 彼女はフィムに手を引かれ、駆け出した。森に入るとすぐに一人の女性冒険者が合流して来た。


 「ジゼルよ。大丈夫?」


 「あんまし。そっただこつより何だありゃ? テイムした魔物け? 」


 「……忘れた方がいいわよ。きっと。私たちもよくわからないわ。」


 「そ、そうするっす。それよりもうだめだなっす。力が入らん。」


 「頑張れよ。せっかく助かったのに、こんなところで死ぬ気かい? 」


 「それは嫌だなっすなぁ。」


 ハイディは砕けそうになる膝に力を込めて走るが、獣道ですらない森の中は走りにくく、木の根に引っかかった。


 「あっ!」


 「仕方がないわね。」


 ふわりと体が持ち上がり、ハイディは細身のジゼルの肩に担がれていた。


 「力持ちだなっす。」


 「精霊にお願いしたのよ。気まぐれだからどれだけ続くか、わからないから急ぐわよ。」


 「ああ。」

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