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そういえば、パーティー名決めたっけ?

 「雨じゃのう。」

 「雨だねぇ。」


 雨季までまだ間があったのだが、珍しくキーロフ平原に雨が降っていた。いつもは地平線まではっきりと見えるのだったが、今日は煙のように降る雨が風景を霞ませていた。


 ロリはキューポラから、ユズは運転席のハッチから顔を出し、傘がわりにフードのついた灰色の雨外被あまがっぱを被っていた。


 「もしかすると今日は無理かもしれんのう。」


 「まあ、のんびりとゆきましょうか。」


 「そうじゃの。戦車前進。」


 「了解であります。」


 急にユズは砲塔に振り向いた。


 「いま、なんか言った?」


 「ん? 戦車前進とゆうたぞ。」


 「その後。」


 「いや。ああ、チハたんが返事をしたぞ。そちも聞こえたのか?」


 「えっ。私も聞こえるようになっちゃったの!? やだっ!!」


 「嫌だとはなんじゃ、嫌とは。チハたんに謝るのじゃ。」


 「えっ? あの、ごめん。」


 「いいえ、気にしないでありますよ。」


 「うわっ!! また聞こえた!! 本当に聞こえた!! すごいね。男の人の声なんだ。」


 「はじめまして、第一○一特殊機甲師団司令部付きの九七式中戦車であります。」


 「は、はあ。ユズです。よろしくお願いします。チハたんじゃないんですね。」


 「はい。チハというのは小官たちの計画時の名称となります。たんは英語のタンクを縮めたもの解釈しているであります。」


 「??? 言っている意味がよくわからないけど、そうなんですね。」


 「そうであります。」


 「まあ、お互いの紹介も終わったことじゃし、仲良くやるのじゃ。」


 「え? ええ。そうだね。よろしくお願いします。」


 「いえ、こちらこそお願いするであります。あと、話は変わりますが、師団長どの、前方に小鬼ゴブリンと思しき個体と岩狼らしき個体が争っていると思われます。」


 ロリはチハたんの言葉を受けて、首からぶら下げていた双眼鏡を覗いた。


 「しだんちょー?」


 「妾をそう呼ぶのじゃ。チハたんの主人なのでな。……うむ、確かにその様子じゃな。どうやら、小鬼ゴブリンどもが岩狼を狩っているようじゃ。」


 「そうなんだ。私も旅の途中でよく見かけたけど、こっちの小鬼ゴブリンは頭いいよね。」


 「そうなのか?」


 「うん。力は平原の中央の個体より弱いような気もするけど、それぞれが連携したり、罠を仕掛けてモンスターを狩るなんてのはこっちに近づいてからしか見かけなかったよ。」


 「ふむ。そのことは後ほどアニカかジェラルドに伝えておこう。今はあやつらを一網打尽にしようと思うのじゃが、何かよい策はないか?」


 「まあ、順当にどっちかが弱ったところで介入するのが一番だと思うけど。」


 「小官としましては、上空の個体も気になるであります。」


 「上空じゃと?」


 ロリが空を仰ぐと、鉛色の空の中、黒い点が弧を描いて飛んでいるのが見えた。双眼鏡を覗くと、くちばしが尖り、首の長い竜の様な生き物が翼を固定して滑空しているのが見えた。


 「飛竜なのか?」


 「ちょっと待って。遠目ホークアイを使うから。」


 ユズも空を仰いだ。雨粒が大きな瞳にあたるため、目をすがめつつ眼球に魔力を集めると、視認したいものが拡大された。


 「そうだね。下級の飛竜だね。あれは下の小鬼ゴブリンたちを狙っている様ね。」


 「あっ!!」


 円を描いて滑空していた飛竜が翼をたたみ、急降下をはじめた。恐ろしい勢いで地表をかすめた飛竜の大きなくちばしには丸々と太って、手に棍棒を持った小鬼ゴブリンが挟まれていた。


 「あ〜あ。」


 ため息をついたユズが地面に目を向けると今まで岩狼を囲んでいた小鬼ゴブリンたちが呆然と空を仰いでいるのが見えた。


 一方、岩狼は血を流しすぎたのか、荒い息で横倒しになっていた。


 「おい、これはどうしたものじゃ。」


 「……とりあえず、小鬼ゴブリンたちを片付けよう? 飛竜はあれを巣に持ってゆくから、しばらく来ないよ。」


 「ならば、吶喊じゃ。」


 「戦車前進でありますな!」


 チハたんがロリの吶喊という言葉に反応し、駆け出した。履帯が草原地帯の土を噛み、勢いをつけてチハたんが前進した。


 呆然と立ちすくんでいた小鬼ゴブリンたちは加速をつけて襲ってくる自分たちよりも大きな鉄の塊に頭を抱えてしゃがみこんだ。



 「テーーーーーーーッ!!!!!」




 チュドーーーーーーーーーン!!!!!




 ロリの叫びとともに主砲から徹甲榴弾が発射された。小鬼ゴブリンたちの狩場のど真ん中に着弾した弾は地面をえぐり、爆風と破裂した弾の破片が周りに飛び散り、そこにいたモンスターを全滅させた。


 速度を緩め、目標の手前で停止したチハたんから降りたユズはモンスターの死亡を確認した。そして、魔法で死骸に圧力をかけ、血抜きの傷の手前に竜巻を巻き起こした。

 すると、死骸からは血が吹き出て、それが竜巻に巻き取られるように渦を巻いた。

 

 「便利じゃのう。」


 「あんまり近寄ると、跳ねるから気をつけてね。」


 「うむ。それにしても、飛竜か……」


 「飛竜はどうかしたの?」


 「ここいらではあまり見かけんモンスターなのじゃよ。」


 「そうなの?」


 「見ての通り、ここいらは高い土地や谷があまりないのじゃ。あやつらはそういったところから飛び降りて空を飛ぶとギルドの勉強会で聞いたことがあるのじゃ。とすると、あの飛竜はどこからやってきたのじゃろうのう。」


 「……なるほどね。確かに不思議だね。」


 「ユズよ。血抜きが終わったらすぐにギルドに戻って報告なのじゃ。」


 「うん。」


 ユズはロリの言葉に頷いて、モンスターの死骸にかけている圧力をさらに強めた。


 二人がチハたんに乗り、急いでギルドに戻ると、アニカが受付で書類を片付けていた。


 「ああ、お早い戻りですね。雨でしたから、諦めましたか?」


 「いや、ちょっと気にかかることがあったので相談しにきたのじゃ。」


 「わかりました。別室で聞きます。」


 アニカは受付から回って、一度出てきて、二人を応接コーナーと思しき、隅の席へと招いた。


 そこで、ロリとユズは小鬼ゴブリンが徒党を組んでモンスターの狩をしていたこと、そこに飛竜がやってきて小鬼ゴブリンをさらったことを説明した。


 「……こんなに早く次の段階に進むとは思っていませんでした。ここで少しお待ちください。」


 アニカは立ち上がり、二人を引き止めてから、ギルドの事務所に戻り、職員を集めた。職員からは驚きの声が上がり、アニカの話が続いた。


 一人の若い職員が階段へと走り、ジェラルドを呼んできた。彼はロリたちを見ながら説明を聞いていたが、二人のところまでやってきて、再度説明を求めた。


 「……というわけじゃ。」


 「うん。よくわかった。些細なことだったが気がついて、報告してくれて感謝する。一三年前の被害が大きかった『蝕』の時と同じ現象が起きていると考えていい。」


 「どういうことじゃ?」


 「本来、普通の動物を襲うようなモンスターが他のモンスターを襲い、それもただ『蝕』で上がった力に任せてではなく、同じモンスター同士が連携して、知恵を出している。あとはここいらを縄張りにしていないモンスターまで確認されたということだ。」


 「……それって、平原に食べ物が減ったということと、モンスターが力だけじゃなくって知恵もつけたということですか?」


 「さすがユズちゃん、頭がいいな。今回は二人がそのどれもをまとめて確認しちまったが、二人以外にもそれぞれ怪しいと思われる事象を冒険者が報告してくれて、こちらも確認している。おおむね、確定でいいと思う。」


 「これからどうなるのじゃ?」


 「まずはギルドの指名依頼で斥候を出す。さらに情報を集めると同時にここの領主たちと会議だろうな。」


 「妾たちにできることはないのか?」


 「おとなしくテントにいてくれ。これが俺の心の底からお願いすることだ。殿下は二度も死にたくないだろう。」


 「悔しいのう。」


 「でも、ギルマスの言う通りだよ。」


 「うにゅう。」


 納得がいっていないロリは口をへの字に曲げてうめいた。


 「お風呂にでも入って、最近出はじめたワインの炭酸割りでも飲みながら、ゆっくり休んでくれ。」


 「あれは、妾が考え出したものじゃ!」


 「へぇ。ゼクトが飲めないから考えたのか?」


 「なんで妾がゼクトを飲めないと困るのじゃ?」


 「伝え聞いた話だと、ロリちゃん家は何かと言えばゼクトが出るそうだからな。」


 「そんなの覚えておらんわ。炭酸水を飲んで思いついたのじゃ。」


 「ほぉ。いっそ、冒険者をやめて、そういった美味いものを発明してくれよ。」


 「うるさいのじゃ。さっさと仕事にゆけ!! さっきから嫁が睨んでおるぞ。」


 「おお、怖いねぇ。」


 おちゃらけた様子でジェラルドはアニカたち職員の待つ事務所に戻った。すぐに窓口担当のエルフの女性が受付の前に立ち大きな声をあげた。


 「冒険者の衆! 緊急の依頼だ!! 内容はキーロフ平原さ行ってモンスターの動向調査だ!! 斥候役さは指名依頼さ出させてもらうから、こっちさこ!!! 低レベルの冒険者は城壁の直しさ頼むことになるべか、こぞって仕事さしてけろ!!! いいかぁ『蝕』さ、はじまるべ!! 今年は前とは比べもんさならんほどの凄まじさになるじゃあ、さすけば冒険者さみんな気張ってゆがねば、町さ一三年前のようになっちまんぞ!!」


 「おう、それなりに弾んでくれんだべな!!!」


 「おめさ、おらさたちの町が難儀さしとるとぎに、しこしこ稼ごっていうどケチな奴か!! おらはそげなこすい男衆さはいらん!!

 ええかぁ! 銭っこさはいつも通りしか出すことはできね!! 戦さあった後じゃあ、お殿様も下々も困っちまってる!! そん代わりと言ってはなんだが、ランクアップさちょぉっとあまぐみんべかもしんねぞ。あがりゃ、いい仕事さつくことだってできんさ!! 」


 ウオォォォ……!!


 エルフの美女の煽りに冒険者たちは気勢をあげた。

 

 「すごい、ほぼ何言っているのかわからない。みんなが盛り上がっているのだけしかわからない。」


 「あの受付嬢は地元の出だそうじゃ。ここの訛りなんだそうじゃ。」


 「なるほどねぇ。いつも私たちに話す言葉はよそ行きだったんだね。」


 「多分のう。ともかく、妾たちはジェラルドのいう通り、風呂にゆくことにするのじゃ。」


 二人は盛り上がっている冒険者たちを横目に浴場に向かった。昼前で誰もいない浴場は雨上がりの日が差し込んでいた。


 さっぱりした二人はテントでくつろいでいたが、その日はジェラルドもアニカも来ることはなかった。


 次の日、朝からギルドは忙しそうに動いていた。『蝕』関係の依頼以外は受付停止の判が押されていた。


 ユズが受付にゆくも、アニカやエルフの受付嬢から二人はギルド依頼を受けることはできないと言われ、所在なく感じてテントに戻り、おばちゃんからもらったパンにフライの川魚を挟んだ朝食を食べて、またゴロゴロとしていた。


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