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増築します(テント)

 「やっぱり我が家はいいのう。」


 「テントだけどね。」


 ロリとユズは彼女のアイテムボックスに入れていた細かい幾何学模様の絨毯をテントに敷き詰め、部屋着に着替えてゴロゴロとしていた。


 ユズはいつもの白いターバンと全身を包む真っ青なマントのような外着を脱ぎ、シルバーの髪を晒し、麻でできた袖がない、ゆったりとした作りの生成りのかぶりシャツとショートパンツでモカ色の長い手足を晒していた。丈の短いシャツの裾からは褐色の下腹の魔力紋がのぞいていた。


 ロリも買い足した萌黄色のワンピース姿でだらしなく仰向けになり、裾がめくり上がり、白い細い足がむき出しになっていた。


 「でも、よかったのか?」


 「んと、何が?」


 「住む場所のことじゃ。宿を引き払ってここに一緒に住むなどと聴いたときは驚いたのじゃ。」


 「あ〜 宿代もかつかつだったし、少しお金も貯めたいし、それに……」


 「なんじゃ?」


 「なんか楽しそうだったから。」


 我が意を得たりと言わんばかりに起き上がったロリは両手で握りこぶしを作って主張をはじめた。


 「そうじゃ! 楽しいぞぉ。妾はこれほど自由を感じたことなぞ、なかったぞな。」


 「ロリちゃん、興奮しすぎて、語尾が変わっちゃってるよ。」


 笑顔でユズは指摘したが、彼女も同じ思いだった。


 「おう、起きたか?」


 「おはようなのじゃ。」


 「お、おはようございます。ヒェ〜!!」


 ジェラルドが右手を上げてやってくるのが見え、ユズは慌ててテントの奥に引っ込んだ。


 「おっ、どうしたのじゃ?」


 「み、未婚の女の子は家族じゃない男の人に素肌を見せちゃいけないんだよ。」


 「おお、『青の部族』はそうらしいな。ものの本で読んだわ。くつろいでいたところにすまんな。」 


 「い、いえ。油断して無防備だった私も悪いわけで。」


 「ジェラルドはこの上に住んでおるのじゃ。そういう事情なら少し気をつけるが良いぞ。」


 「わかったよ。テントを作るときに入り口を見えない向きにしてもらうね。」


 「なんだ、もう一つテントを増やすのか?」


 「ユズもここに住むことになったのじゃ。さすが少女二人が住むには足らんのじゃ。」


 「気がつくとテントだらけになっちまいそうだな。」


 「それも面白そうじゃのう。」


 「ま、いいか。それより、昨日は大冒険だったそうだな。」


 「まあなのじゃ。小鬼ゴブリンをたくさん仕留めたぞ。」


 「雑魚でもいつもよりも強かったとか、小鬼ゴブリンの王かと思うほどのナイト・オブ・ゴブリンが出たってアニーから聞いたぜ。無茶すんなよ。あと、外に出るときは気をつけろよ。例の奴隷商人が捕まっていないからな。」


 「そうなんですか?」


 時間のかかるターバンは巻かず、長いスカーフで髪を隠し、器用に黒い布を体に巻きつけてテントの奥から出てきた。


 「どっかでくたばっているなら、それはそれで面倒だけどな。あと、あの件もあってな。」


 「ああ、みなしの子供達の件か。どうなったのじゃ。」


 「その話をしにきたんだぜ。忘れるところだったぞ。」


 「ジェラルドは粗忽者じゃのう。」


 「悪かったな。ウォホン。ギルドの保安係のやつは職員資格剥奪の上、犯罪奴隷十年で砂漠地方の小王国送りになった。砂場で穴掘りをやらされるだろうな。

 いままで、みなし冒険者を搾取していた奴らへの捜索願は出たし、ギルド全体へギルド資格剥奪の回状を出してある。そいつらは仕事ができなくなるだろうから、すぐに捕まるだろ。」


 「子供たちはどうなったのじゃ。」


 「カールは自分の分も仲間から巻き上げたことで、みなし冒険者への恐喝罪に問われた。即日結審でギルド資格剥奪で犯罪奴隷送りになった。多分の奴隷農場送りだろう。かわいそうだが、契約の期間が明けても入国禁止になるだろう。

 他の奴らは被害者でもあるからな、情状酌量もあって、ロートバルトの奉仕活動一週間から一ヶ月で、次に何かやらかしたら、カールのお仲間になるだろうな。」 


 「そうか。……確か、奴には幼い妹がいたとか。」


 「ああ、そのことか。アーデルハイトの家に引き取られたと聞いたぞ。」  

 

 「アーデルハイト? ああ、あのお湿り娘じゃな。みなし冒険者をしているのに余裕がある家なのか?」


 「アーデの家は元騎士だからな。金がなくても、慈善や困ったものを見捨てないと言う騎士道精神を大事にするそうだ。」


 「元騎士じゃと?」


 「ああ、シュトロホーフェン公の流れをくむ貴族の騎士だったそうだが、戦争でその家が取り潰しになったそうだ。仕える家がなくなって、士官もできないそうだ。」


 「ムムム。」


 「まあ、そのことに関してはロリちゃんが気にすることじゃねえからな。それよりも今日はこの後どうするんだ。」


 「今日は午前中はのんびりするのじゃ。午後からユズのテントを張ったり、買い物をするのじゃ。」


 「えっ? そうなの? 」


 「なんじゃ、言っていなかったか?」


 「言ってないよー。」


 「まあ、よいのじゃ。そういうことなのじゃ。さて、そろそろ朝ごはんでも食べることにするのじゃ。」


 「そうだね。」


 「じゃあな。またカッフェをもらいにくるよ。」


 「待っておるのじゃ。」


 ジェラルドが立ち上がった。


 彼が去り、きちんと着替えを済ませたユズを連れたロリはギルドの酒場に向かった。


 いつもよりも遅い時間に出たので、酒場は一仕事終えて、朝食と昼食を一緒にとる冒険者たちでいっぱいだった。ロリたちがご飯を持ってくれる列に並んだ。


 「おはようなのじゃ。」


 「おはようさん。今日はちょっと変わった料理だよ。」


 「ほう、楽しみじゃの。」


 厨房のおばちゃんは平たい鉄鍋に入っている黄色い細長いコメと鶏肉、そして色鮮やかな野菜を皿に盛り付けて持ってきた。


 「ほいよ。今日もしっかり食べて、たんと稼いできな。」


 「うむなのじゃ。」


 フォォォォォォッ!


 ロリの後ろに並んでいたユズが朝食を見て、大騒ぎをしていた。


 「どうしたのじゃ。さっさと席にゆくぞ。」


 ユズの手を引っ張り、空いているテーブルに着いたロリが椅子に腰を下ろすと、涙を浮かべたユズがガツガツと大盛りの朝食を平らげていた。


 「本当にどうしたのじゃ?」


 「フォチノヒョウドヒョウリナンデフ!!」


 「ちゃんと飲み込んで話すがよいぞ。喉が詰まったらどうするつもりじゃ。」


 ガツガツ、ガフガフ、ゴクンゴクン。プッファ〜。


 「ぷはぁぁ。ごめんね。ふぅ。あ〜久しぶりに食べたよぉ。このごはん、うちの里の郷土料理なんだよ。うちの味付けとは違ったけど、お米をこんな風にお魚やお肉と野菜を入れて、香辛料いっぱいにして一緒に炊いて、食べるんだよ。おこげのところがおいしんだよ。」


 「ほう、それは喜びで我を忘れるはずじゃのう。今日はゆっくりと食べるので、お代わりを持ってくるがよいぞ。」


 「うっ、そうしたいけど、これ以上入らないよう。」


 「そうじゃのう。それではお弁当にしてもらうのはどうじゃ?」


 「あっ、それはいいかも。頼んでくるね。」


 また行列に並ぶために立ち上がったユズが去り、一人で食事をしているところに小さな影が差した。


 「なんじゃ、なんぞようか?」


 ロリが見上げるとそこにはアーデルハイトと彼女に隠れるように幼い少女がいた。


 「どこに行ってたの?」


 「ごあいさつじゃのう。なんでお主に話す必要があるのじゃ?」


 「大変なことになっていたのよ!! あなただけどうしてお咎めもなく自由に行動できるのよ!?」


 「ジェラルドに聞いたのじゃ。長い間、不正がまかり通っておったようじゃから、それは何かと大変じゃったろうな。

 じゃが、それは妾には関係のないことじゃ。

 そもそもなぜ、この街に来て、みなし冒険者になったからと行って、小悪党どもに金を支払わねばならぬのじゃ。」


 「だ、だって、それが習わしだったって。私だって元はこの街の出じゃないのよ。それでもこの町で生きるためには、支払っていたんだよ。よそ者の子供が生きるためには仕方がなかったのよっ!!」


 「『夏至の暁』の連中もよそ者だそうじゃな。じゃが、あやつらがそんな卑屈になっている様子はなかったがのう。」


 「だって、大人だもん!! 私たちとは違うのよ!!」


 「なら、なぜ、大人を頼らん。ジェラルドが話しにくいのじゃったら、アニカがおったろ。」


 「そんなの、わかるわけないじゃない!! 私たちはあなたとは違うんだから!! どうしてできちゃうのよ!! まるで! まるで!! ……」 


 ロリの目の前でアーデルハイトが涙をこぼした。唇を噛み締め、涙がボロボロとこぼれた。


 ロリは不機嫌そうに彼女を見つめた。


 「ねーちゃんを泣かすな!! 兄ちゃんを返せ!!」


 アーデルハイトの後ろに隠れていた幼女が近くのテーブルから持ち出した塩の入った壺をロリに投げつけた。重かったのか、彼女にまで届かなかったが、ロリは頭から塩まみれになった。


 騒ぎを聞きつけ、駆けつけたアニカは頭から塩まみれになったロリを見つけ、顔面が蒼白になった。


 ロリは頭を振って山になった塩を落とした。そして、二人を連れ去ろうとしたアニカを手で止めた。


 「幼女。そちの名はなんというのじゃ。」


 「マリアだ!!」


 「マリアか。勇ましいのう。さて、マリアよ。そちは人に悪いことをしてよいか悪いか、あの兄から習ったことはあるか?」


 「も、もちろんだっ!! 悪いことはダメ!! だから、あんたはダメ!!」


 「そうか、妾がダメか。そちの兄はともだちが汗水働いて稼いだお金を巻き上げて、それを黙っていろと友達を脅しておったのじゃが、どうだ。」


 「生きるため!! 仕方がない!!」


 「ふん。半分正解じゃが、半分は言い逃れじゃ。そちの兄は妾が来るまでまとも働いておらず、街中のおじさんやおばさんに怒られておったのじゃぞ。生きるためなら、もっと真剣に働いたほうがよかったのじゃないか?」


 「うっ!!」


 「それにな、人を殴って、笑って仕方がないと済ませられる人は、どこにもおらんのじゃぞ。たとえ王様でもじゃ。」


 「でも、あんた、兄ちゃんの足を魔法でバシッとした!!」


 「おう、当たり前のことじゃ。

 そちの兄が妾の友人を殴り飛ばし、徒党を組んで暴力を振るおうとしたからじゃ。妾はそちの兄に殺されるかもしれんと思おたぞ。」


 「うっ!! 兄ちゃん、怒りっぽい………すぐ殴る。ハンスの腕を折ったことあった。」


 「その時点で誰かが止めないといかんのじゃ。

 よいか、殴るときは殴られてよいという覚悟で殴るのじゃ。

 妾の撃った弾がかすっただけで泣きべそをかくような覚悟で、ともだちや知らない女の子に暴力を振るって、悦にいるような小物は一度、痛い目に会う必要があるのじゃ。」


 「うっ!!」


 「そちも薄々は兄が悪いことに手を染めておると気がついておったじゃろ。そちが説教しても聞く耳を持たぬようじゃったら、そちの兄が言うことを聞くような大人に言うべきじゃったな。それとも、それすらもおらんかったか?」


 マリアは下唇を噛み締めて、ゆっくりとうなだれた。食堂の床には大きな目から涙が溢れ、染みをつけていた。


 「そうか。これは妾が悪かったな。助けを求めることができないような場所だったとはわからんかった。あとで大人たちを叱っておくのじゃ。」


 「うん。でも、姉ちゃん、泣かした。」


 「アーデルハイトは泣かされたのではないのじゃ。不甲斐ない自分に泣いてしまったのじゃ。」


 「なっ!?」


 「アーデルハイトよ。そちの所業を父親は知っておるのか? 知っておったのなら、なぜ今までそちの行いを許した。」


 「ぐっ……。」


 「そちも騎士の娘なら、何より優先すべきことがあったのではないのか?

生活のためと言い訳をして、騎士の娘としての誇りを捨て去り、こんなところまで来て、恨み節をタラタラと吐くようだったら、町の掃除でもしてこい。」 


 自分の素性をロリに知られていたとわかったアーデルハイトは血の気が引き、その場に倒れそうになった。


 「………はい。」


 「あとのう。」


 「……なんでしょうか?」


 「カールが戻ってくるまで、そちの家でマリアを預かるようじゃな。」


 「はい……。」


 「これからこの幼女がそちの庇護の対象となるのじゃ。くれぐれもやけになって変な気を起こすのじゃないぞ。この幼女が大きくなるまで、そちがしっかり、世の道理を教え込むのじゃ。」


 「………。」


 「あと奉仕活動を終えて、もしその気があったら、妾のところに来るのじゃ。パーティーのメンバーは常に募集中じゃ。じゃが、採用試験は厳しいのじゃぞ。妾の望むところまで達することができぬようじゃったら、お祈りをさせてもらうのじゃ。」


 「……あの」


 「なんじゃ、なんぞまだ言いたいことでもあるのか?」


 「ロ、ロリ様はどこかの貴族のご令嬢でしょうか?」


 ハラハラとロリの説教を聞いていたユズとアニカの二人はあちゃーといった声を上げてひたいに手のひらを当てて、天井を仰いだ。

 リアクションが古いのうとロリは感じたが、黙ってあげた。


 「そんなことか。妾は只のロリちゃんじゃ。それ以上でも以下でもないわ。余計なことを勘ぐるよりさっさと仕事にゆくがよいのじゃ。」


 「は、はい……大変失礼をいたしました。父にも全てを話し、償いを済ませたのちに、改めて謝罪に伺わせていただきたく願います。」


 「待っておるぞ。」


 頭を下げたアーデルハイトは左手にマリアの手を握り、右手で涙をぬぐいながらギルドの酒場を後にした。


 「またバレるようなことをして。」


 「仕方がないのじゃ。それよりも朝食を終えたら、また風呂に入るぞ。この服の洗濯も頼んだのじゃ。」


 「はい。それにしてもヒヤヒヤしました。もし壺が当たって怪我でもされたらと思ったら、気が気でありませんでしたよ。」


 「まあ、ギルド内で二度も三度も発砲するのは避けたかったしのう。」


 腰のホルスターに入っていたマウザーの蓋を締め直したロリは立ち上がり、お盆をカウンターに戻した。


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