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二度あることは三度でもあります

 先ほどのパーティーメンバーが見えなくなるほど進んだところにマコ草の群生地を見つけたロリはチハたんから降りた。マコ草の実は三つに割れた果実の中から顔を出した照りのある赤い硬い種だった。どの部分を使うのか、まだよくわからないロリは実の部分をそのまま採集してまたチハたんによじ登った。


 「…師団長。」


 チハたんがなにやら申し訳なさそうに声をかけてきた。


 「どうしたのじゃ?」


 「人が、行き倒れています。」


 「どうして妾はそのようなものばかり見つけてしまうのじゃ?」


 「一応、目的とされるものも見つけていらっしゃるのでよろしいのではありませんか?」


 「……そうかのう? にわかには納得ができんのじゃ。」


 チハたんがさらに東へと進むと確かに行き倒れが一人、地面に伏していた。 


 見た感じ、まだ若い女性であった。彼女は真っ白な布を頭に巻き、だっぷりとした鮮やかな青色をした全身を包む衣装を身にまとっていた。


 右手にマウザーを構えたロリが近寄っても彼女は動くそぶりが見えなかった。


 つま先で仰向けにすると顔には土がついていたが、ロリよりも少し年上の少女は青白い顔をして、カサカサに乾燥した唇を開いた。


 「お、お腹が…すい…た……。 のども………。」


 「行き倒れというやつなのじゃ。妾の昼が残っておったかのう? 」


 「師団長。飢餓状態に急な食物摂取は危険であります。まずは水を飲ませて、それから戻り次第、おかゆなどを少しずつ食べさせることを進言するであります。」


 「そ、そうか。わかったのじゃ。」


 ロリは水筒の水を行き倒れの少女の口に流し込んだ。むせこんだがロリはかまわずに水筒の水を飲めせ続けた。

 身の危険を感じて顔を背けた彼女に次は脇の下にロープを巻きつけた。そしてそのロープをチハたんの車体の上を通し、反対側からロープを引っ張り始めた。


 ゆっくりと少女は引きずられ、チハたんの車体までたどり着いた。そこからロリは少女をチハたんの転輪にもたれるように状態を起こした。そしてまたロープを引っ張り、彼女を引き上げようとした。


 「も、もうやめて。痛いから、痛いから、もうやめて………。」


 「ぬぅ……。 しかし、妾は非力ゆえ、そちを持ち上げることができぬのじゃ。この上に乗せぬとそちを街に街にまで連れてゆくことができぬぞ。」


 「わかった…わ。自分で上がるから……。」


 少女ははい上がるようにチハたんの車体に登ったところで力尽きた。ロリは彼女を表替えししてロープでくくりつけた。


 「どうあってもロープなのね。」


 「固定できぬからな。諦めるのじゃ。」


 「うぅ………。」


 「チハたんや。一度、街へ戻ることにするのじゃ。」


 「はい。ノルマも完遂いたしましたし、了解であります。」


 ロリはキューポラに入ったところでチハたんは街に向けてゆっくりと走り出した。


 街の門では衛士に驚かれ、ギルド長に預けるということをロリが提案すると受け入れられた。さっそくギルドに戻り、窓口の男性職員に声をかけ、三階の職務室の扉を開けるなり胸を張った。


 「人を一人拾ったのじゃ。」


 「ロリちゃんはなんでも見つけるのがうまいなぁ。アッハッハッハー」


 まったく信じていない様子のジェラルドの手を引っ張り、チハたんのもとに連れて行った。彼は車体後部にくくられている少女の姿を見て顎が外れんばかりに驚愕した。


 「こっ、この子は『青の部族』じゃねえか!?」


 「アオノブゾク? それはなんじゃ? 」


 「キーロフ平原のはるか西のかなたにある大陸の端の海岸に住む部族でな。ダ・ディーバ族というのが正式な名前の魔人族の類だ。魔力に秀でて魔法使いを多く輩出するらしい。」


 「らしい?」


 「キーロフ平原を挟んで端っこ同士だからな。こっちでは全く見かけねぇよ。」


 「なるほどな。で、なぜこの娘はこんなところにおったのじゃ? 」


 「さあてな。」


 ジェラルドは肩をすくめて彼女を固定しているロープをほどき、担ぎ上げた。ぐったりとジェラルドの肩に枝垂れかかる少女を抑えながら、彼は医務室まで運んで行った。


 「飢餓ですね。急に食べさせなくて正解ですよ。まだギリギリ大丈夫。これ以上遅かったら危なかったですね。」


 軽い口調でギルドの医務官はジェラルドに報告して、少女の口に短いチューブの付いたマウスピースをくわえさせた。若い看護官がそれをしっかり押さえてテーピングを施した。


 「何をするのじゃ?」


 治療ですよとにこやかに答えた医務官は小声で何かを唱えた。


 少女の体が寝台から浮かび、薄い紫の光に包まれた。その光はそのまま水へと変化し、少女の全身を包んだ。チューブの先はぷよぷよとした水の塊から口を出し、呼吸を可能としていた。


 「この水は栄養を含んでいます。いきなり胃袋に入れると身体を壊すので、皮膚から吸収できるようになっています。老廃物も交換できますからしばらくこのままでいてもらいます。ほんとは裸体の方が吸収効率が良いので脱がせたかったんですけどねぇ〜。アハハ〜」


 笑いながらとんでも無いことをさらっと話す医務官は宙に浮かんだ少女を軽く押すと、ふわりと動いた。

 熟した感じの女性看護官はそれを受け取り、石造りの棺のような容器に彼女を押し込めた。


 「今からでも脱がせますけどね。服、汚れますからね。」


 そう言って看護官は水球の中に手を入れて服の紐を解き始めた。見てゆきますか?との看護官の問いを無視してジェラルドはロリを連れて部屋を出た。

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