9話『Super Girl』(noll)
今日から始まる超常現象日記
12月××日
「今日は大雪!
まさか雪如きで学校が休校になっちゃうなんて思わずに学校行っちゃった(テヘペロ
もぉ~(××)、全身雪まみれで帰ってきたらア☆ラ大☆変! 新しい敵に遭遇!?
助けを呼ぼうにも魔法なんてチンプンカンプンの俺は絶体絶命?!!
そしたら俺と契約していた魔導書さんが急に光り輝いたら、まあまあ☆大☆変☆
開けてビックリ! 本が人間になっちゃった☆ 」
…………いやいやいやいや待て待て待て!! 待てよ俺、確かに今の今まであり得ない現象が立て続けに起きて普通の出来事のように受け止めてるけど、あり得ないから! 本から人間が!? は!?? 待って、アレって俺の持ってた本な訳? 桃色天国ことオルディスワールドって性別あったの!!? 確かにエロ本だから、女の子って思うけど著者を考えると男じゃね!!? 違うの!!!? つーか、なんで脳内日記が若干女口調な訳!!?!! なんか俺自身もよく分からなくなってきた、誰か助けて!!!!! しかし俺の心の叫びなど誰にも聞こえる訳も無く、俺は目の前に現れた新しい幼女を目にして呆然としていた。対する爆誕幼女は身体をゆっくりと地に着かせると、その衝撃で身体をフラフラと危なげにふら付かせた。その姿が物凄く不安に俺を追い込んでいく。けれど、爆誕幼女に俺の心配は届くことなく、遠くを見据えた黒い眼差しは、ただひたすらに前を見つめていた。彼女の口が徐に開かれる。
――彼女の声は感情が無く、いうなれば機械的であった。
「《自立型運用、始動。言語解析…………完了》」
そう出された言葉に彼女は一旦口を噤む。しかし、数秒後には喉を震わせて「あー、あー」と意味の無い言葉を声に出す。そして仕舞いには「あー、テステス。あー、あー」と先ほどの声とは打って変わり感情を思わせる音色が生まれる。ひとしきり彼女の中で発声練習が満足したのか、グルンッと俺の方へと顔を向ける。突然の事で俺の心臓がバクバクと激しい鼓動を鳴り響かせる中、彼女は俺を透き通った眼差しで一心に見ていた。今までにない対応に思わず先ほどの胸の鼓動が違う意味へと変わっていく。顔全面に熱が集まり、何だか身体全体が蒸し暑く感じられた。そしてひとしきり彼女は俺を見つめると、彼女は何を思ってか俺に突進してきた。
……え、突進? 突進!!?
「あっるじさっま~♪」
「のああぁあ!?!」
突進……、いや突進というよりかは飛びついてきた彼女。そんな唐突な展開を誰が予想していたであろう。いやいない。そもそも今まで俺に対して此処まで友好的な表現をしてくれた幼女がいたであろうか? いやいない。んでもって、その結果俺は飛びついてきた彼女の身体を受け止め切れる訳も無く顔面で受け止めてしまったのだ。……鼻が痛い。めっちゃ痛い。え、鼻血出てない? ていうか、あれ。なんで俺こんなに好感度マックスな訳? え、俺攻略本なんて持ってないし使ってないけど?? なにこの展開、嬉しくて泣きそう。
俺の心に思わず流れる感動の涙。それはナイアガラの滝に匹敵するほどの水量であった。むしろそれほどの感動を俺は抱いた。しかし疑問が残る。なぜ彼女は此処までして俺に好感を持っているのだ?
俺は冷静になった思考で、自分を頭から抱える彼女に視線を送る。すると、ウットリとした眼差しをした彼女と目が合い、思わず俺は冷めて始めていた顔の熱が再熱したのを自覚した。
「ああああ、あの!」
俺はまるで我が子を愛でるように俺の頭部を愛おしく撫でる彼女に声を上げた。咄嗟の事で裏返ったり、怒鳴りに近い声量になったにも関わらず、彼女は相変わらずウットリとした表情で「なんですか、主さまぁ?」と舌足らずな口調で俺に尋ねてきた。なんだろう、物凄く胸がキュンとした! なにこれ可愛いぞ!! ……ハッ、違う。違うぞ俺!!!
「そ、その、貴女はつまり……、その…………俺の」
上手く呂律の回らない俺に対し、彼女は嫌な顔一つせず、むしろ慈愛に満ちた顔で花のような笑みを浮かべた。そして彼女は言葉にならない言葉を口に出す俺に安心させるように頭部を一撫でし小さく頷いた。
「……ええ、主さま。
私はオルディスワールド、こちらでは桃色天国と呼ばれた魔道書にして成人男性向け本棚に置かれていた本です」
「なんでそんなすごい本が、俺なんかのところに」
「そんな事ございません。
私にとって、主さまに選ばれた事こそが何よりの幸福です」
「でも俺、魔力とか全然だし……」
ニッコリとまるで聖母マリアかのごとく寛大な心と慈愛に満ちた言葉に俺はすかさず進言する。しかしその言葉は俺の心を深く抉る。そう、つまりは自分で自分をオッサン認定したのである。でも違う! 俺は断じてオッサンじゃない!! 一人泣きそうになる中、彼女は驚きの眼差しで口元を覆い隠した。その姿に俺も心の隅で居た堪れないと感じる中、飛び出された言葉に俺は目を丸くする。
「何を言っているんですか!?
むしろ、それが良いんではないんですか!!」
「え?」
「は?」
流石のこれには傍観に徹していた敵さんも驚いて素っ頓狂な可愛らしい声を上げていた。彼女は驚きに満ちている俺に彼女は嬉しそうに笑う。
「魔道書とは本来、“魔を導く書”が変化した言葉なのです。
魔導書とはつまり、先人たちの教えが詰め込まれた書籍であり、そして魔力が枯渇する先人たちを導くための書なのです。
魔導書は魔力がない者、または魔力が少ない者にこそ価値があり、力を発揮するのです」
――分かりますか? そう口添える彼女。俺はその問いかけに恐る恐るコクリッと頷く。それを見た彼女は嬉しそうに微笑み、そして「流石は主さま」と零しては俺の頭部を撫でる。
俺は一人、彼女に撫でられる中で先ほど述べられた言葉を聞き胸にストンと何かが嵌る音が聞こえたような気がした。確かに、それならば彼女が俺を選び俺を軸に動かしたことに理由がつく。しかし、俺が納得したところで周りが俺同様になるわけではない。そしてそれは、俺の首を締めあげていた真っ白しろすけも同様であった。
「ちょっと、何よそれ!?」
憤慨する真っ白さん。まるで火山が噴火するかのように怒りを露にする敵。すると彼女は、そんな敵を憐れむように見つめた。そして、俺を撫で上げていた手を放すと、彼女は俺を守るように敵に立ち挑む。敵は俺を守るように出で立つ彼女を忌々しそうに見つめ、そして舌を鳴らした。
≪集え、支援者≫
全身が雪を思わせる白さを持つ少女は、握りしめていた両手の内、左手に大きくそして自分の身長よりも高い氷の大剣を作り出す。それを見た彼女は悲しみを思わせる眼差しで少女を見つめていた。けれど、対する少女は親の仇のような面持ちで彼女を睨みつけていた。
「貴女はオルディスワールドなの!
私たち主が手にする筈の世界を改変させる魔道書!!」
――それが真実なのよ!! 少女がそう口に出すと同時に、少女は左手に出現させた大剣を両手で引きずりながら彼女へと向かう。引きずられる大剣は火花を散らし、少女の駆ける跡を残す。少女は振り回すように大剣を彼女へと差し向ける。思わず俺が声を上げようとするも、彼女は顔色一つ変えずに人差し指と親指を使い、襲い来る大剣をまるで摘まむようにして止めた。
「いいえ、私の役目は魔を導き守ることです」
首を静かに振りながら何食わぬ顔で大剣を二本の指だけで受け止めた彼女。そんな彼女に少女は息を呑む中、首を大きく振り自分を奮い立たせる。
「そんな訳ない!
だって主は……、主さまは!!」
捕らわれてしまった大剣を取り戻そうと必死になって奮闘する少女。しかし大剣はビクとも動かなかった。埒が明かないと判断した少女は大剣を惜しむことなく捨て、周囲に魔法陣を展開する。光の粒からリボン状の文字の羅列が生まれ、そして一つの輪となる。輪となった間から、次々と縫うようにして張り巡らせられたそれは、一つの五芒星となり、そしてその五芒星の中心に更なる輪が生まれる。少女の白を反映させたかのように白銀に輝く魔法陣。俺はその魔法陣を見つめながら一人震えていた。少女の垂れ流す膨大な魔力を向けられ、俺は自分の身が削られていくような感覚に陥る。
しかし、彼女は違った。彼女は少女は静かに見つめ、困ったように笑ったのだ。
「だから成長しない餓鬼は嫌いなの」
そう言い切った彼女は、受け止めていた少女の大剣を粉々に砕けさせると、彼女も魔法陣を足元に展開させた。俺には読むことも出来ない複雑な文字の羅列が次々と現れ、そしてそれを囲むようにして一本の線が生まれる。輪となり、五芒星が敷かれる魔法陣の中心で彼女は最後の問いかけを少女に向けていた。
「……眠りなさい、良い子でいたいなら」
それは警告にも感じられた。俺は恐る恐る少女を見れば、少女は不敵に笑い、展開していた魔法陣から何やら尖ったナニカが見え隠れしていた。そして、少女は水平に広げていた右腕を静かに振り下ろした。
「悪いけど、寝るにはまだ早過ぎるのよ!!」
――貫け≪貪欲な愛!≫ 少女の言葉に従い、魔法陣の中心に表れていたナニカは音速の速さで俺たちへと向かって来た。しかしそのナニカは俺に届く前に彼女が砂埃を取り払うかのような動作で粉々に破壊した。その顔は無。まるで感情のすべてを無くしたかのように、彼女は少女を暗い眼差しで見つめていた。彼女はまるで指でピストルを作る動作をすると、それを徐に少女に向けた。
≪夢に導け、執政官≫
その言葉に魔法陣が反応し光り輝く。その光は彼女の作り出したピストルの先端へと圧縮されていくと、その光は真っ直ぐ少女の心臓へと向かった。少女は咄嗟に防御の魔法陣を展開するものの、魔法陣はまるで一枚のガラス板のように粉々に砕け散る。
そして、そのまま少女の左胸は彼女の魔法の起動をズレる事無く貫かれた。その瞬間初めて、白かった彼女に白とは別の色が生まれた。真っ赤な花が彼女の左胸を彩った。俺はその光景に思わず息を呑んだ。