5話『眠ったままで』(noll)
――その日俺は、不思議な夢を見た。月も見えない暗い屋敷の中に木霊する複数の声だけの夢。
「ねぇ、あの馬鹿猫。ちゃんとお使い出来ると思う?」
「ムリムリ! 守護神ならまだしも破壊神相手は馬鹿猫じゃあ務まらないよ♪」
「静かにしろ、お前ら。…………未来予測者の予測は?」
「……消去された確率九九.九パーセント」
「未来予測者がそう言うなら死んだんじゃない? そもそも魔力も落ちかけてたし」
「しかし、駒が減ったのもまた事実」
「でもでも“ウォーマ・ユイダ様”、馬鹿猫は使えない駒でしたよ?」
「使えなくても駒は駒。減ればそれだけ此方の動きは鈍くなる」
「うぅ……。でもでも」
「はぁ……。未来予測者」
「はい、“ウォーマ・ユイダ様”」
「未来はどう告げている」
「…………本は自らの意思で主を選び、審判の時待つ。されど、主消すんばその時、我らが主人の手に誘われる」
「ふーん、今回は詩での予測ね。また珍しいこと」
「よし、ならば今度は”ホワイトデーヴィー”に行ってもらうとしよう。探索を得意とするアイツならば……」
「お待ちください! ウォーマ・ユイダ様!!」
「騒々しいぞ、”ブルーデーモン”。扉は静かに開けろ」
「そうも言ってられません! ホワイトの戦闘能力は底辺です!! 行かせるならば、このブルちゃんに!!!」
「止めておきなさいよ、ブルーデーモン。あなた探索能力なんて持ってないじゃない」
「そうそう、行ったところで肝心な存在を見つけることが出来なくて迷子になるのがオチだよ♪」
「お黙りなさい、“レッドナムチ”! ……と、“グリーンベリアル”!!」
「ちょっとちょっと、なんでこの麗しきグリーンベリアル様を後付してんのよ!」
「ふーんだ、ちょっと胸がデカいだけでいい気にならないで! ウォーマ・ユイダ様はデカいだけの女には興味無いのよ!!」
「あらあら、これだからペッタン娘のブルーデーモンは! そんな幼稚な事ばかり言っているから、ウォーマ・ユイダ様に夜のお相手をされないんですわ!!」
「な、なんですって~!!!」
「……いい加減、話を先に進めてもいいかお前ら。というか、“絵本”の読み聞かせぐらいでグチグチ言い争うな、鬱陶しい」
「でもでもウォーマ・ユイダ様の寝顔ってとってもキュートなんですもの!」
「それは分かる」
「同感です」
「以下同文」
「ちょっと~、なんで私だけお呼ばれされてないのよ~」
「お前は読み聞かせ下手くそだからな。寝るどころの話じゃ無くなる」
「あらあら、ウォーマ・ユイダ様に振られちゃいましたわね。ブルーデーモン♪」
「……良いわ、そう言っているのも今の内よ! 今にギャフンと言わせてみせるから」
「無理に一票」
「同じく」
「以下同文」
「賭けてもいい」
「ちょっと~、ウォーマ・ユイダ様まで酷いです~」
「……すまん」
「それで、どうするのよブルーデーモン」
「おおっと、忘れるところだった! ありがとうホワイトデーヴィー」
「あ、しまった。私の馬鹿……」
「失言だったな」
「何か言ったかしら、レッドナムチ?」
「いいや、何も」
「……それで、どうするブルーデーモン」
「ええ、ウォーマ・ユイダ様。この水の使い手ブルーデーモン、必ずやウォーマ・ユイダ様のお役目を全うします」
「決意は固いようだな」
「もちろん。なんならホワイトデーヴィーも一緒で良いですよ?」
「ちょ……、私は嫌なんだけど」
「何か言った?」
「ナンデモアリマセン」
「それなら許可しよう。ただし、危険と思えば無理はするな。駒は多いに越したことは無い」
「ご安心を、すぐに対象を消去してきます」
「ウォーマ・ユイダ様はなにも危惧することなくお待ちください」
「全てはウォーマ・ユイダ様の願いの為に」
「「「「我らカラーズゴーストはどこまでもお供致します」」」」
「…………以下同文」
――不気味に聞こえる笑い声が嫌に俺の耳に残った。振り払うようにして飛び起きれば、晴れ渡った日差しが俺を襲った。カーテンを閉めることを忘れていたのを今さら思い出すが、仕方がないと早々に諦めた。こびり付く汗が服にへばり付いて気持ちが悪かった。しかし寝ようと思って布団に入るものの、あのような目覚めで再び眠気は襲ってこなかった。
徐に時計を見れば時間はまだ六時三十分であった。しかし、外が異様に明るかったのことに対し疑問に思った俺は、何気なく外を見ると外は俺の想像を遥かに絶する光景が広がっていた。
「な、なんだこりゃあぁぁぁああぁぁ!!!?」
響き渡る俺の絶叫に近い叫び。俺は思わずムンクの叫びのような表情で外を見つめていた。
外の光景、それは白銀の世界。きっと昨日ロエたちが言っていたホワイトデーヴィーの魔法のせいであろう。しかし、どう見ても俺の腰辺りまで降り積もっている雪は如何なものか。
俺は崩れるようにしてカーペットに座り込んだ。出来ることなら、このまま眠ってしまいたいと思ってしまった。
そう、何も知らずに眠ったままでいたかった。