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2話『ルールは破られた』 (十秋 一世)

 白の少女。

 その少女はいわゆるロリータファッションと言われる時代錯誤も甚だしい、フリルがふんだんに使われた服を身に着けていた。身長は俺が約一七〇センチなのに比べ、彼女は俺の腰辺りしかない。女性というよりは少女と言った方がいいだろう。小学生頃の年頃なのか。だが、その表情の浮かぶのは険しいもの。とてもではないが、小学生には見えなかった。

 と、俺は現状をようやく理解できた。

 さっきまで上手く思考ができなかったんだけど……一体なんだったんだ……。

 なんで俺はエロ本と会話なんてしてたんだろう。

 契約? なにそれ。クーリングオフは効きますか?


「ふふん♪ なんでそこの地球人に【オルディスワールド】を渡したのか理解に苦しむにゃん」


「うっ! ちょ、ちょっと不慮の事故がありまして……そんなことはこの際関係ありません! そこの地球人の方、その本をわたくしにどうぞお渡しください!」


 そうして白の少女は俺に白手袋を嵌めた手を伸ばした。

 金髪の髪がさらりと揺れる。衣服も相まって、まるでお嬢様のような仕草だ。

 俺はそれにどうしていいのか正直分からない。

 正直二人とも見た目小中学生。

 そんな子に、そんな子に、このいかがわしいエロ本を渡してもいいのだろうかっ!?

 いや、いいわけないッ!!

 なんだか喋るエロ本だけど、そこには目を瞑ろう。

 俺もはじめてのエロ本だ。実はエロ本は喋るし、契約をしないと読めない仕組みになっているのかもしれない。そんな未知の存在エロ本を彼女たちには渡せない。

 だから、俺は逃げた。

 レジ台の上に二千円を置いて、「釣りはいらねぇぜ!」とカッコよく決めてみる。

 ……まぁそもそも、このエロ本の値段はっきりいくらか分かんないけど、それで足りるだろう。


「あっ」


「逃がさないにゃん♪」


 しかし、俺の逃走は呆気なく終わる。

 何故なら床がごっそり消え失せたのだ。


「えっ、嘘っ!!」


 俺は奇妙な浮遊感を味わいながら床と共に一階へと落ちて行った。

 ちなみにこの店の構造を説明しておこう。

 この店は二階建てになっており、一階部分が一般書籍を取り扱い、二階部分が漫画、兼、アダルト系書籍を取り扱っている。つまり、その二階部分の床がごっそりと消滅したのだ。


 グシャガシャドコッ!!


 たちどころに悲鳴が沸き起こる。

 男性女性大人子供関係ない。

 老若男女の悲鳴が響き、そして、そのいくつかは消えた。

 何故、その悲鳴が途中から途切れたのかは正直考えたくない。

 無様に瓦礫の上に落ちた俺は痛む体に耐えながら、それでもエロ本は手放さずに顔を上げた。


 そうすれば、現状は酷い有様だった。

 少し前に東北で起きた大地震でテレビのニュースが報じた時、女子アナが「街が壊滅しています」と表現した。

 ここもまさにそれ。

 壊滅状態の店内。本棚という本棚はすべて倒れ、瓦礫は本と一緒にごちゃくちゃになっている。砕けたコンクリートから飛び出した鉄が刃のように天を向き、そこに串刺しになった男性。天井からの瓦礫に押しつぶされたのか、手だけが瓦礫から飛び出している人もいた。

 建物の外枠だけを残したこの場所は、地獄のような場所へと変貌してしまった。

 俺はそれを見て、急に喉が渇いてきた。緊張のせいだろう。唾を何度も飲み込んでも、それは可以前されない。

 なんだ。

 なんなんだ。

 なんだってんだ、今日は!!

 俺の誕生日だろう!!

 なんでエロ本買いに来ただけなのに、こんなことになってるんだよっ!!

 俺は誰にぶつけることも出来ない怒りを抱きながら、途方に暮れて、そこに立ったままでいた。

 すると、近くで気配がした。


「――なんだ、生きてたのかにゃん♪」


 この場には似つかわしくない明るい声。

 それにゾッとした。

 俺は逃げようと慌てて前へと転がる。

 すると、前方の遠くで、ドンッ! という音が聞こえ、柱が一本倒れるのが見えた。

 バキッ、バンッ、という音が周囲に響く。

 それに悲鳴が上がり、出入口に人が殺到した。

 誰よりも自分の命が惜しいようだ。

 それは正解。

 俺だって逃げたい。

 だが、目の前の少女はどうにも逃がしてくれなさそうである。


「さぁ、命が惜しければ、大人しくその本を渡すにゃん♪」


 少女の言葉に俺は恐怖が湧く。

 なんだ、なんでこの少女はそんなにエロ本を所望するのだ。

 というかそもそも、なんだというのだ、この魔法みたいな力は!

 魔法なんてアニメの世界だろ!?

 なぁなぁ、それがなに、現代世界に出現!? わーおっ! 伊東君もびっくりだ! これは歴史に残るな、あと十年したら歴史の教科書に載るに違いない。『西暦二千年初期、魔法が出現した。その際、はじめに魔法を使った人物の名前を記入しなさい。』って、テストに出るね、間違いない! って、知ってるこれ俺現実逃避しはじめてる!!

 だけど、どうしていいのか正直俺見当もつかない。

 何この本渡せば俺、命助かっちゃうの?!

 それならもういっそのこと渡しちゃおうかな……。

 俺の中の倫理観がそうやって負けようとした時だった。


「駄目ーッ!! その本を彼女に絶対に渡さないでっ!!」


 悲鳴が随分と少なくなった店内。

 その中で鈴の音がそう言った。

 ちらりとそちらを見れば、白い少女が頭から血を流しながら、こちらを見ていた。


「【オルディスワールド】は絶対に渡しちゃ駄目っ!!」


 そう言う彼女は胸から下げていたネックレスを握りしめ何かを小声で言い、コスプレ少女に向かって手を向けた。


「《契約の下、我が命に応えよっ! “火炎竜吐息ファイヤードラゴンブレス”!!》」


 すると、驚いたことに少女の手から炎が飛び出してきた。

 それは真っ直ぐにコスプレ少女に向かう。

 俺が驚いて見ていると、さらに驚いたことにコスプレ少女は腕を振るい、爪から風の刃を出し、炎を打ち消した。

 な、なんとぉぉぉぉッ!?


「くっ!」


「ロエた~ん♪ ちゃんと力量は見極めないとダメだにゃん♪ なんの対策も無しに、ピンクちゃんに勝とうなんて、ケーキよりも甘いにゃん♪」


 そうしてコスプレ少女は一気に白の少女との距離を縮めた。

 コスプレ少女は白の少女に向かって右手を振う。

 スピードに追い付けなかったのか、白の少女はその攻撃をまともに喰らう。

 白いドレスに赤い血が付く。

 膝を付く少女。

 口から血を吐き出し、今にも死んでしまうのではないかというような様相だ。


「ふーん♪ 防御結界を張ったのかにゃん♪ さすが、“守護神”と呼ばれてるのも伊達じゃないってことにゃんね~♪ ――でも、もう遊びは終わりにゃん……さっさと、死ぬにゃん♪」


 コスプレ少女はそうして手を天上へと向ける。

 すると景色が歪んだ。

 空気が凝縮されていくのが見ていて分かる。

 空気の玉と表現すればいいのか。

 それがコスプレ少女の翳した手の上に現れた。


「《契約の下、我が命に従え。“竜巻斬トルネードカッター”!》」


 声と共に魔法が完成した。

 その完成された魔法は無慈悲にも白の少女へと落ちていく。

 遠くからでも分かる少女の驚愕の表情。

 俺はもう見ていられなくて、目を逸らした。

 脳裏に浮かぶのは残酷な絵。

 無残に引き裂かれた少女だ。

 俺はただ、何も出来な自分を歯噛みした。

 だが、聞こえてきたのは悲鳴でもなんでもなく、「にゃ、にゃんだとっ!?」というコスプレ少女の驚きの声だった。

 俺はその声に弾かれたように顔を上げた。

 するとそこには三人目の登場人物が現れた。

 少年だった。

 小学生ぐらいの子。

 その子は白の少女によく似ていた。

 少女と同じ金髪、端正な顔付き、少女と対をなすような中世の貴族が着ているような正装。

 彼は金の杖を掲げ、不敵に笑っていた。


「やぁ、ドロボウ猫。ボクの姉様によくも傷をつけたな。死んで詫びろよ」


「ロ、ロイたんッ?! えっ、でも、ロイたんは、あっちが対応して」


「ハッ! このボクが、あんな三下相手に手こずるかよ。全員、天上に返したわ」


「五十人いたのにゃんっ! 嘘だにゃんっ!!」


「ハハハっ! 『たった』五十人でこのボクを止められると思ってたの?」


「くぅっ!」


「ねぇ、ニャンコちゃん。――ちゃんと力量は見極めないと駄目だよ……じゃないと、そっちの味方、ただの無駄死になっちゃうから。カスタードクリームよりも甘いよ。甘々。甘すぎな考えだよ」


「て、撤退にゃんっ!!」


「逃がすかよっ!! 《“暗黒世界ブラックワールド”》!」


 少年が持つ金の杖から黒い玉が出現。

 その玉はコスプレ少女の体に当たる。

 その瞬間、当たった部分が消失した。

 それはまるで映画を観ているように、綺麗さっぱり消えて無くなってしまった。


「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


「あーはっはっはっはっ!! 姉様を苦しめた罰だよっ!! ただ殺すなんて生温い! 苦しんで、苦しんで、死ねばいいんだっ!!」


「うで、うでがぁぁぁ!! ピンクちゃんのぉぉぉぉっ!!」


 肩から消えてしまった右腕。

 その部分をコスプレ少女は押さえ、苦しげに呻き、床の上に転がる。

 形勢逆転。

 圧倒的な力の差。

 そこにひれ伏したのは弱者で、立っているのは強者だった。

 ……なんだ……何が、いったい、何が起こってるんだ……。

 これは映画の撮影か?

 否。

 これは夢か?

 否。

 これは現実か?

 応。

 だったらこの目の前の現象はなんと名付ければいいのだろう。

 あまりの出来事に呆けていた俺は、その時、コスプレ少女と視線が合った。

 その時、嫌な予感がした。

 彼女は俺を見て、そして、ニヤリと笑った。

 瞬間、彼女の姿が掻き消える。

 そして、次の瞬間には、自分の眼の前に立っていた。


「うわっ!」


「【オルディスワールド】……それさえあれば、すべて元通りにゃん……♪」


 コスプレ少女は左手をこちらに翳し、そして、静かに呟きだす。


「《契約の下、我が命に従え。“竜巻切トルネードカッター”》」


 俺の眼前に風の玉が出来上がる。

 あっ、俺、終わった。

 そう思った。

 しかし、それと同時に脳裏に言葉が浮かび上がった。


《魔力感知。再起動リスタート。登録再開。認証アコード入力》


 すると、自分の口は勝手に動き出す。


「認証アコード、×××××」


《認証アコード入力確認完了。本人確認情報登録》


 俺はその言葉に迷わず手に付いた自分の血を本に擦りつけた。


《本人確認情報、登録完了。契約完了。本魔道書【オルディスワールド】全システム作動、魔力供給再開》


「迎撃を」


《了解》


 手に持っていた【桃色天国】――否、【オルディスワールド】のページがバラバラバラと音を立てて開いた。

 そして、ぴたりとページが止まった。

 そこに書かれていた魔法。


《“反射アドウェルサス”》


 その魔法が具現化する。

 コスプレ少女と同じ魔法が、本のページから生まれる。

 しかも、その玉の大きさは倍以上。

 少女の表情に驚きが浮かぶ。

 だが、遅い。

 少女の風の玉を呑み込み、魔道書が生み出した風の玉は少女へとぶつかった。

 悲鳴を上げることも出来ない。

 風の刃が彼女の身体を切り刻み、幾重もの赤い傷を作っていく。

 彼女は白目を向き、そして、力を無くしたように宙でぐったりと四肢を投げ打っていた。

 しかしそれでも風の刃は彼女の体を切り刻む。

 そして、しばらくして、どさりと彼女の体は地面に落ちてきた。

 俺はその物体を見下ろした。


《敵排除完了。生命活動停止確認。命令完了》


「ありがとう。【オルディスワールド】。次の命令まで待機」


《了解》


 そして本は沈黙する。

 それと同時に自分の意識が浮上する。

 先ほどまですらすらと出てきていた言葉。それが嘘みたいだ。

 まるで乗っ取られたみたいな感覚に陥っていたのを思い出し、恐ろしくなる。

 手の中にある本。

 そのタイトルは間違いなく【桃色天国】である。

 だが、それが間違いだと俺は知ってしまった。

 【桃色天国】と読めるそれは、しかし、本当の名前は【オルディスワールド】という名前だということを。


「……なんでおっさんなんかが、【オルディスワールド】と契約なんて出来るの?」


 その声に俺はそちらを向く。

 すると先ほど物騒な言葉を並べ立てていた少年がそこにいた。

 てか、おっさんって……。


「俺はまだ高校生。ピチピチの十八歳だ!!」


「十八歳! なんだ、やっぱりおっさんじゃん!」


「だーかーらー!!」


「おっさんおっさん、おっさんっ!!」


「こら、ロイ、お止めなさい」


 少年の暴言を諌めたのは、白の少女だった。

 白の少女はこちらに向けてお辞儀した。


「はじめまして、地球人の方。彼女を倒していただきありがとうございました。また、その本も守っていただき、感謝いたします」


 小さい子なのに、随分と礼儀正しい子だ。


「あ、いや、どういたしまして、……なのかな?」


「私の名前は、ロエ。“守護神のロエ”と呼ばれています。こちらはロイ。“破壊神のロイ”と言われております」


「……えらい物騒な名前だね」


「ふふっ。地球人の方にはそう感じるかもしれませんね」


 少女はそう笑った。

 それにしても瓦礫の上でこんな立ち話をするという非日常を味わうとは夢にも思わなかった。

 少女、ロエは落ち着いて見ればすごい美少女だった。正直言えば、好みにドストライク。

 何を隠そう、俺は小さい子が好き。あっ、もちろん、手は出さないよ! まだ捕まりたくないからね!!俺は合法ロリの子の登場を待っている。だが、中々現れないから、こういう子を見て癒されるのが常だ。

 瞳の色はグリーン。まるで人形みたいな愛らしさ。胸もぺったんこ。明確なロリッ子。髪の色やら目の色から察するに異国の血が混じってるだろう。

 っていうか、『地球人』って言うのはもしかして『日本人』って言いたいのかもしれない。

 日本語が堪能ではあるが、多少、日本語が不便なのかもしれない。

 ロエは表情を曇らせた。


「……それで、これからのことなのですが、とりあえず、この場所を元に戻していただけませんか?」


「はっ? この場所を元に!? む、無理無理! 俺にはそんな力ないって!!」


「大丈夫です。【オルディスワールド】の力を使えば、今までのことを改変できますから」


 にっこりと笑みを作るロエを見て、俺は不安に駆られる。

 いやいや、何を言ってるこの少女。

 いやしかし、まずは頭の中を整理しよう。そうしよう。

 まず、この現代は科学文明が発達していた。オーケー。

 魔法なんてものはない。物語の中だけ。オーケー。

 でも、さっき魔法っぽいのを見た。オーケー。

 ロエもロイもコスプレ少女もなんか魔法っぽいの出してた。オーケー。

 そんでもって、さらに言うなら、自分も――正確に言えば本だけど――も魔法を使った。オーケー。

 そして、今死人がいっぱいいる店内。オーケー。

 ついでに言うなら、今日は俺の誕生日。最悪だと理解。オーケー。


「オーケーじゃねぇぇぇぇ!!!」


「きゃっ!」


「なんなんだぁぁぁぁぁ! えっ、ちょっと待って、説明して美少女!! あのさあのさ、今、何が起こったのっ!? 何々、これなんなの!」


「あ、あのっ、そんなに強く、しないでっ」


「俺さ、今日、エロ本買いに来ただけなの、それなのになにこの展開!! 酷くない! 本当の俺は今、家に居て、エロ本をぐふふふ言いながら読んでるはずじゃないのぉぉぉ!! なぁなぁ、なにこれ、神さまってどこにいるのまじかぁぁぁぁぁ!!!」


「きゃぁっ!」


 俺は半狂乱の状態で、ロエの肩を掴み、がくがく揺さぶる。

 俺の疑問に答えてくれそうな美少女に。

 だが、美少女は一向に応えてくれない。

 だから俺はなお一層揺さぶる。


「教えてぇぇぇぇ!!」


「姉様に手をだすなぁぁぁぁ!!」


 と、その時、後頭部に衝撃が来た。

 あまりの衝撃にロエから手を離し、床へと倒れる。

 その際、ガンッと床の瓦礫に額をぶつける。

 痛い……。

 前頭部も後頭部も両方痛い……。


「姉様、もう面倒だからこの地球人殺しましょうよ」


「だ、だめよっ! 無益な殺生は“ナディア様”が悲しまれるわ」


「はい、分かりました。――命拾いしたな……カス」


 なんか、酷く怖いこの子。

 うん。

 ロエちゃんに手を出すのは止めておこう。

 ロイくんを敵に回すのは得策ではないのが分かった。


「本当に、すみません、すみません! 今、怪我を治しますので、そのままじっとしていてくださいね。《契約の下、我が命に応えよ。“癒しの吐息ホーリーブレス”》」


 それはきっと魔法なのだろう。

 後頭部の痛みがすっと引く。

 その部分以外も痛みが無くなっていく。

 RPGで言うところの回復魔法か。

 便利だな。

 と、俺は痛みが引いた体を起こし、二人を見上げた。

 ロエはホッとした様子でいて、ロイは侮蔑の眼を向けてくる。

 ううう……ロイが怖いんだけど。

 なんで俺、年下の子供を怖がらないといけないの?


「あ、あの、事情を話すと色々と長くなるので、あとでご説明しますね。なので、ひとまずは、復旧を先にした方がよいかと思いまして」


 少し怯えた様子のロエちゃん。

 そんなに怯えなくても……いや、怯えるのも無理ないか……ゴメンね。


「分かった。じゃあ、説明は後回しで。それで、具体的にはどうすればいいんだ?」


「はい。では、【オルディスワールド】に命令してください。あとは、本が教えてくれます」


 ふむ。

 俺はロエちゃんの言うとおり、【オルディスワールド】を見て、心の中で念じる。

 そうすれば、先程と同じように脳内に言葉が流れ出した。


《起動再開》


 その声は機械のような無機質な女性の声だった。

 その声に対して、俺は命令する。


――現状の復旧をせよ


《了解。時空間への干渉開始、復旧魔法発動》


 そう声が応える。

 すると、世界が改変した。

 まるでDVDの逆再生を見ているように、崩れたコンクリートの床が、逃げ惑う人々が、すべて元通りになっていく。

 だが俺はそれを当然のことだと理解する。

 ちなみにこの時、攻撃をしてきたコスプレ少女は適用外としていた。

 だから、それ以外のすべてが元通りになっていく。

 そして、時が停止する。


《時空間への干渉終了。復旧魔法完了》


 これで俺が魔法終了を承認すれば、時間の進みが再開する。

 それを分かっているので、まずは、敵の死体に目を向けた。


――死体の処理をせよ。


《了解》


 そして死体は消える。

 これで大丈夫だ。


――復旧確認終了。干渉を解除。


《復旧確認終了確認。干渉解除完了。時間進行します》


 その声を最後にざわめきが聞こえ出す。

 平和な声だった。

 そして、自分の眼の前にいる少女と少年。


「あー、とりあえず、スタバにでも行こうか? あっ、コーヒー大丈夫?」


 俺はなるべくリラックスしようと、笑いながら声を掛けた。

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