とある冒険者の一日
練習で書いてみました
至らない所は沢山あるでしょうが、ヨロシクお願いします。
気配を消す…
目標に近づける距離ギリギリだろう。
目標はまだ気づいていない。
子守唄のように風が葉をなでる。
春の陽ざしが木々の隙間から降り注ぐ中、目標は呑気に寝そべっている。
しきりに服で拭うのは得物を握る手が汗ばんだからか。
喉がカラカラに渇くのを感じながら、若干震える手で目標に狙いを定める。
無理も無い。
引き受ける依頼は、狩猟系や採取系であり今回のような内容は両手で数えるくらいしかないのだ。
「捕獲」の依頼なんてこれが二回目なのだ。
緊張しないわけが無い。
それでも引き受けたのだ、失敗は許されない。
荒くなる呼吸を何とか落ち着かせ、再度目標に目をやると此方の事などお構いなしに気持ち良さそうに春の陽ざしをその身に受け止めていた。
荒かった呼吸を止め、得物を目標に向け、引き金を引く。
引き金を引くと撃鉄が起きて連動するように回転弾倉が一発分回転する
バンっと乾いた音が小さく響く。
目標も気がつかなかったのか、その身を地に伏せたまま少しの時が過ぎた。
さっきまで気持ち良さそうに寛いでいた目標も弾の存在には気づいていないが、何かを感じたのか、頭を上げ周囲を見渡した……
その様子をジッと見詰める。
再び風が吹くのと同時に引き金を引き、連動するように撃鉄が起きて回転弾倉が一発分回転した。
再びバンっと乾いた音が小さく響き目標に命中する。
さすがにおかしいと思ったのだろう。
気持ち良さそうにしていた体を起こし周囲を警戒し始める。
その様子をじっと見つめ、ひたすら時間が過ぎるのを待つ。
しばらくして目標の足がふらつきだし、その場にうずくまる様にその体を横たえた……
「捕獲完了と……」
そう呟くと、少年は手に持った獲物を自分の腰に戻し、今まで潜んでいた太い木の枝から飛び降り静かに寝息を立てる目標に近づいた。
「こいつが目を覚ます前に、とっとと戻るとするか」
そう少年はつぶやくと、目標を抱え森の入り口に向かって歩き出したのだった。
窓から差し込む日差しが部屋を照らす。
他の村人の家よりも幾らかは広い部屋……
そして存在感を主張するかのように、部屋の奥に存在する机……
質素すぎず豪華すぎないその机の上のは、書類の束やら見た目水晶が置いてある。
それでも使っていない書類の束等はきちんと整理されており机の端に置かれている。
机の後ろと両端の壁には本棚が並べられておりやはりキレイに本やら書類の束が置かれている。
明かりを灯す魔法具も天井に設置されてはいるが、出番は太陽光日にとられてしまったのだろう。
今はただ沈黙を貫き、己が主を密かに見下ろしている。
日差しだけでも十分に明る、部屋に何やら作業をしている人物がいる。
小さな老人が椅子に座り、プカプカと煙を吹かしては手に持っている書類と睨めっこをして、何やら判を押している。
鼻の頭にチョコンと小さな眼鏡をかけ、口にキセルを咥えている。
ここまでなら普通の老人なのだが、この老人は耳が頭の天辺にあり、体も毛で覆われているのだ。
極めつけは、口が獣のように長く口元にはピンっと張ったヒゲがあり極めつけに鋭い牙も口から覗かせている。
どこからどう見ても人間には見えないこの老人、実は人狼族と呼ばれる種族なのである。
ここアースガルスと呼ばれる世界には、人間はもちろん多種多様な動物や植物、種族が存在し、人間ではない種族を亜人や魔物と呼ぶ。
理性がある者は、討伐や迫害、人買いを恐れてひっそりと暮らす者もいるのだが、中には人間と同様の仕事や生活をしている者もいる。
比較的亜人に寛大であり差別が無い国もあれば、その逆もある。
この人狼族が治めている村は比較的寛大な国にあり、人間だけでなく様々な亜人が暮らしている。
ふと今まで睨めっこをしていた書類から目を離し、扉のほうを見るとため息を一つ。
人狼族の聴覚、嗅覚は人間より優れており、訪れた人物を察知したのだ。
これから起こる問答をするかと思うと、自然と溜息もでるものである。
扉を開けて入ってきたのは、見た感じ十四歳位のどこか頼りない人間の少年だ。
背格好は高くは無いが低くも無く160センチ位と普通であり、着ている服も特徴は無い。
黒いジャケットを羽織り、元は白かったのであろう長袖も所々土や木の葉がついていている。
黒色の長ズボンも所々に土や木の葉が所々ついていた。
来る前に軽く手で払ったのだろう。
それでも完全には落ちなかったようだ。
腰には何かの動物のものと思われる皮でできた小さな袋を身につけている。
ボサボサではないものの、目を隠すぐらい長い前髪が余計に頼りなさ気に見えてしまう
昔は周りの村人も事あるごとに髪を切れと言ってはいたが、本人曰くトレードマークと訳の分からない事を言うので、今では誰も気にはしていない。
ちゃんと前が見えているのか、村人全員が共通している疑問である。
そんな少年がどこか満足げに老人に近づいていく。
「依頼終わったよ。これ依頼金な」
そう言うと、小さな老人の机に子袋を置く
「おお、ご苦労じゃったなぁ」
当然、この老人も前髪の事は見事にスルーし、子袋を受け取る。
中を確認し、おもむろに硬貨を数えだす。
少年がしてきたのは、近くの村で頼まれていた「依頼」と呼ばれるものだ。
「依頼」とは本来「冒険ギルド」と呼ばれる仲介所に頼むのだが、このような小さな村等はその村の村長らが仲介となり村人に頼むのである。
当然、後でまとめて「冒険ギルド」へ報告はするのだが……
ちなみに、村で出来た作物などを売りに行く序に受けたりすることもある。
いくら序とはいえそこは村の収入なので、しっかりし確認をしなければならない。
決して、この老人がお金に汚い訳ではない。
「ひー、ふー、みー……。うむ確かに」
そう言いながら子袋の中身を数え終わると、今度は何やら難しそうな顔をしだした。
「ヌシの報酬は~」
どうやら、この中から少年の報酬を出すようだ。
コレコレ、こうなってっと何やら思案しだした村長。
しばらくあーでもない、こーでもないとブツブツ物思いに耽っていた。
少年も自身の報酬が気になるのか期待をこめた目で老人の手元を見ていくが、段々と険しくなっていく。
どうやら、期待していたほどの報酬ではないらしい……
「まぁこれだけじゃな」
そう言いながら一枚の硬貨を立派な机を挟んで立っていた少年に手渡す。
少年は受け取った硬貨を見るなりゲンナリした。
「げぇ~、またこれだけかよ……」
そう、受け取った硬貨は銅貨という硬貨の一種なのだが一日食事をしたら無くなる位の価値しかないものである。
当然、抗議をしようと老人に詰め寄ろうとするが、その前に咥えていたキセルで額を叩かれ返り討ちにあってしまった。
予想外の反撃は痛かったのか額に手をし、その場に蹲る(うずくまる)少年とジャンピングキセル叩き食らわせスタっときれいに立派な机の上に着地した老人。
そのヒゲと尻尾にはまだまだ若いモンには負けんワイとひそかに主張していたとか、していなかったのか……
「たわけ、本来なら犬の散歩をだけですむのに、目を離した隙に逃げられてしまったのはドコの小僧じゃ」
そう言うとキセルを咥え直し、再びプカプカと煙を吹かす。
「何でそれを……」
蹲って(うずくまって)いた少年は、額を押さえたまま不思議そうに顔を上げ老人を見上げるが、老人は面倒くさげに少年を見下ろす。
「馬鹿者……。ヌシが帰ってくる前にコレで向こうの村長から苦情がきたからじゃ」
本当に面倒くさげに、コレと呼ばれた物体をコンっとキセルで叩く。
コレと呼ばれた物体とは、見た目が黒い四角い箱であり中央に何やら記号っぽいものがいくつも設置されていた。
指で軽く押すことができる構造のようだ。
その上には丸い水晶が置かれていた。
もちろん透明度もハンパではなく、水晶の奥のものが光の加減で多少屈折して入るが普通に認識できる代物である。
通信晶と呼ばれる魔法道具である。
通称:魔道具と呼ばれるそれはある一定の記号を打ち込むことでその登録された相手と会話できる一種の通信道具である。
ちなみに、動力は魔結晶という水晶であるが詳しくは違うときにおいて置くとして、老人はそのやり取りを思い出したのか再びため息を漏らす。
よっぽどの内容だったのだろう、キセルを加えなおしフゥと一息。
気まずい沈黙が続く……
方や蹲り(うずくまり)痛みをこらえる少年と、方や眉間にしわを寄せプカプカトキセルをふかす小柄な人狼族。
「それよか、次の依頼は?」
数十秒の沈黙を破ったのはまだ痛みが治まらない少年であった。
痛みが治まらず額を押さえ、蹲った(うずくまった)状態から顔だけを上げ老人に尋ねる。
「そうじゃの~」
そういいながら、自分のイスに戻る老人。
立派な机の上を散乱していた物を整理しながらあるものを探す。
おお、あったあったと依頼書の束探し出しペラペラ捲る(めくる)
「ていうか、あんなの子どもでも出来る内容じゃないか。もっとマシな依頼にしてよ……」
気怠げに呟く少年。
すると、眺めていた依頼書の束から顔を上げると、机に身を乗り出し、あんなのとは何じゃ!!!と本日一番の声を出した。
「そういうことを言うんじゃったらしっかり仕事をせんかぁぁぁぁ!!」
通常の人間なら聞き取れなかったであろう発言を、しっかり聞き取った人狼族のこの老人。
あまりにも大きい声だったので、耳を塞ぎながら反省の色を見せずにわかってるってと呟く少年。
しかしこの老人、テンションは下がるどころか右肩上がりになり、ついには再び立派な机の上に飛び乗る始末。
「大体ヌシは、果物の採取の依頼を引き受けると指定の数以上取るわ、動物の捕獲の依頼を受けると傷だらけにして皮革の価値を大幅に下げ、買い手がいなくなる始末。挙句の果てには……」
などと、あまりにも低い少年の依頼達成度を口にしだした。
鼻にのっかていたメガネもずり落ち、斜めになっているのもお構いなしにツラツラと数え上げる。
これには少年もさすがに参ったのか、何とか話題を変えようとするも、今変えるのは火に油を注ぐようなものなので嵐が過ぎるのをおとなしく待つのだった。
「そ、それで何があるの?」
次第に塞いでいる耳も痛くなったので当たり障りの無い話題を駄目元で述べるのだった。
「おお、そうじゃったな。ちとまっとれ」
老人は何事も無かったかのように座りメガネを掛けなおし、どれどれと呟くと再び依頼書の束をペラペラと捲り(めくり)だした。
しばらくしてこれでええじゃろと言い、一枚の依頼書を取り出す村長。
「次の依頼は一週間後に定期で来る商隊の護衛兼手伝いじゃな」
そう言いながら一枚の依頼書を少年に見せる。
「なぁ~に、護衛といっても他にも護衛を雇っているはずじゃし、万が一襲われてもヌシの出番は無いじゃろうて」
ほっほっほ、と笑いながらキセルを吹かす。
「わかった」
いつの間にか額の痛みも治まっていたのだろう、その場に立ち上がっていた少年に依頼書を見せた。
じぃぃっと依頼書を読む少年。
前髪が邪魔で字が読めているのかは甚だ疑問ではあるが、特に問題も見当たらなかったので頷くことで返事をする。
すると、キセルを吹かしていた老人は目を閉じ確認するように尋ねる。
「この商隊はそのまま都まで行くが、ヌシもこのそのまま都に行ってもらうからの」
そう少年に問いかけ、溜息をつきながら少年が受ける依頼書になにやら書き込んでいく。
「では、この依頼を受注するからの……」
りょ~かいとなんとも頼りない返事をして入ってきた扉から出て行く少年。
老人は溜息をつきながら依頼書に判を押し受注する。
一体このやり取りだけでいくつため息を漏らしたのか分からないが、その分幸せが逃げていったに違いない……
判を押した依頼書を机の後ろにある本立てに戻すと椅子に座りなおし、窓の外を見る。
昔を思い出しているのだろうか、目を細めて雲一つない青空を眺める。
「やはり血は争えなんだか……」
ひとしきり物思いにふけると、机の引き出しから一丁の銃を取り出し、懐かしそうに整備しだしたのだった。
ちなみに、判は肉球の周りを取り囲むように、に老人と村の名前が彫っていたのだった。
メンタル弱いので、程々にお願いします。