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5 『ご イ ラ い』



 放課後。



 「テーザーの射程は8mと言いましたがそれはあくまで最大射程です。出来れば5、6mで狙いをつけてくださいッス。流れる電流は五万ボルトで、当たれば確実に除霊出来ます。その上、非致死性武器なのでとり憑かれている被害者を安全に保護できるッス。なんといっても、普通の銃にはないこの特徴的なフォルム……光俄さんも何か特別なものを感じませんか?」


 少し気を許した途端、霜野さんはスタンガンの解説のみを延々と喋るようになった。この子は有難迷惑な性格の上に、どうやらオタク気質の様だった。そして急に名前呼びだった。そこまで仲良くなった記憶は無いのだが。

 「もちろん、一般的なスタンガンも良いッスけどね。でも私的には」

 「レイタイ行かないの?」

 「あれ? あっ、もう放課後ッスか」


 既に放課後なことに霜野さんはようやく気付いた。


 「それじゃあ行きましょうか。れっつ、ごーッス!」


 相変わらずやや高いテンションをキープしたままで、霜野さんは教室から出て行った。置いて行かれないように僕も後に続く。


 しかし、このクラスは雰囲気が最悪だった。クラスメイト達も相変わらず僕に話しかけようとはしなかった。それは、もしかするとやたらと他の女子達から聞えよがしに陰口を言われている霜野さんと話しているからかもしれないし、六槻……は多分無いが、小学生時代の同級生が僕に気づいて、僕の過去の経歴を流布したのかもしれない。

どうでもいいが。


 「ここから近いんスよ、レイタイ。徒歩十分ぐらいッス」


 昇降口で靴を履きかえていると霜野さんが言った。その霜野さんはというと、なんだか手間取っているようだった。


 「? どうしたの」

 「あ、あはは、いえ、その」


 僕が見ようとすると、霜野さんはとっさに靴箱を隠そうとした。




 が。見えてしまった。




 「酷いね」


 霜野さんのスニーカーに画鋲が大量に入れられていた。


 「霜野さんて、さ。やっぱり、いじめられたりしてるの?」

 「……はい」


 これ以上ないほど惨めな表情で霜野さんは答えた。訊かなければよかった……。クソっ、イラつく。


 「レイタイ、行きましょうか」


 そう言うと、とぼとぼと歩き始めた。

 その後しばらく霜野さんは無言で歩き続けた。声をかけようかと思ったが、余計に惨めにしてしまう気がして憚られた。


 「ごめんなさい」


 道すがら、不意に立ち止まった霜野さんに唐突に謝られた。


 「私、今日一日、いじめられないために光俄さんにくっついてたッス。転入生の光俄さんと一緒にいればいじめ難いんじゃないかと思ったッス。普段の私、あんまり話さないんで。私と話しててもつまんなかったッスよね。ホントにごめんなさい」

 「いいよ別に。謝ることなんてないし、いくらでも話しかけてよ。全然気にしないで。悪いのは周りのやつらなんだから」


僕がそう言うと、霜野さんはより悲壮な顔をしながら懺悔の様に話した。


 「昔から『学校』って、あんまり馴染めないんスよ。……ってすいません、いきなりこんな話しちゃって。とにかく光俄さん、明日から私とはあんまり――」

 「はい」

 そう言って僕はスマホを差し出した。

 「ふぇ?」

 「アドレス交換しよう。あと今の話興味あるからもっと聞かせて。いじめてる側の名前とか顔とか、ね」


 霜野さんは面食らっていた。


 「あの……私とはあんまり」

 「関わらないようにって? 無理無理、もう色々聞いちゃったし。いいからメルアドといじめっ子の名前を教えてよ」

 「メルアドはいいッスけど……その名前とかは」

 「……うんいいよ、分かった。自分で調べるから」

 「いやあの!」


 その時、ちょうど取り出していた霜野さんのスマホが、なぜか銃声の着信音で鳴り響いた。ちょっと恥ずかしそうにしながら霜野さんはスマホに応答した。

 

 「はい、霜野です。あっ、ナオちゃん!……はい、はい、今レイタイの近くッス。……えっ、はい、分かったッス。すいません、いつも通り地図お願いするッス」


 「すいません、レイタイはすぐそこなんスけど、仕事が入ったのでそっちに先に行ってもいいッスか」


 先ほどまでの話を打ち切り、霜野さんは僕に報告した。


 「えっ!? 仕事ってことは、亡霊とかと戦うってこと、だよね? いきなりはちょっと……やり方とかまだ聞いてないし……」

 「あっ、光俄さんは現場の近くで待ってて下さいッス。今、レイタイのメンバー全員に連絡したみたいなんで、現場の近くにいる人が何人か来てくれると思います。だから――」


 その時、今度は僕のケータイのバイブが鳴った。着信画面には昨日登録したての『綺風初氷』。霜野さんに断って少し離れたところで電話に出る。


 「はい」

 『ハロォー! 昨日ぶり! 今アオちゃんと一緒にいるでしょう』

 「なんで知ってる」

 『アオちゃんからさっき『初めて男子と一緒に下校してるッス(´・ω・`)!』ってメールきたから! それよりレイタイの誰かからお仕事の連絡ってきてる?』

 「ああ。今ちょうど」

 『早っ!? ……泉名音子、かなぁ……まっいいや。なら話が早いね。アオちゃんと一緒に亡霊退治してきてー』

 「……分かった。けど、多分足引っ張るぞ」

 『大丈夫。レイタイって元々あんまり大した戦力じゃないから。コウちゃんでもダイジョブ。きっとダイジョブ!』

 「分かった」

 『やった! 確実にお願いね! なんせそいつら、雑魚のクセに私の事色々知ってるからさー。レイタイ以外が行くと最悪、捕まえて尋問とか有り得るから困るんだよ』

 「了解。何人だ?」

 『四体』

 「……任せてくれ」

 『うんうんっ。良い返事だね。コウちゃんは昔私を助けてくれなかったスッゴイ罪があるんだから、そうやってイエス以外言っちゃダメだからね』


 六槻はそう言うとブチッと電話を切った。

 霜野さんのところに戻ると、なぜか落ち込んでいた。


 「あっ……彼女さんとの電話は終わりました?」

 「彼女なんていないけど。友達だよ」

 「そ、そうッスか! うへへ」


 またしてもキモい笑いを漏らしながら霜野さんは「行きましょっか」と歩き始めた。


 「やっぱり僕も参加するよ」

 怖くないと言えば嘘になる。が、僕には六槻の言葉に従わない選択肢が無かった。どんなことがあっても、例え今の六槻がどんな状態だろうと、守り抜く。そう決めたのだ。

 意気込む僕と反対に、霜野さんはまたしても狼狽していた。

 

 「いやいや、流石にそれはまずいッスよ……。何があるか分からないし……」

 「百聞は一見にしかずって言うでしょ。それに、ちょっと怖いけど除霊するとこ見てみたいし」

 「で、でも! ホントに危ないんスよ。その、亡霊って結局、人間の怨みの部分が強めに蘇ったものッス。個体によっては殺人とか平気でやっちゃうんです」

 「邪魔にならないようにするから。霜野さんのことも心配だし」


 多分、押しに弱いであろう霜野さんに対してゴリ押しで頼んだ。

 そんな僕の熱意? に心動かされたのか、霜野さんは渋々「絶対前に出ちゃダメッスよ?」と念を押し、同行を許可してくれた。

 なんでこんなに格好いいのにいじめられてるのか。

 まあ。

 いじめについてはまたあとで訊こう。あとで。

 スマホを見ながらこの道がどうのこうのブツブツ言い始めた霜野さんを見ながら、そう思った。



---



 霜野さんが道を把握するのがあまりに遅いので、代わりに僕が霜野さんのスマホを持ち先導した。昔住んでたとはいえ、まさか引っ越して来てすぐの僕に道案内をさせる人間がいるとは思はなかった。

 道中の霜野さんの説明(やはり、とても分かり辛い)によると、僕らの仕事はレイタイの仲間と一緒に亡霊を監視、霊獣とやらを使える人が来るまでの時間稼ぎ、とのことだった。


 「それじゃあ僕らは直接亡霊を始末する訳じゃないんだ?」

 「そッス。心餽霊-ムシバミ-っていうすっごく強い幽霊みたいなのを使える人達がいるッス。その人達なら確実に除霊出来ますし、捕まえて色々訊き出すことも出来るッス。最近は徒党を組んでる亡霊も多いんで情報は大事ッス」


 なるほど、六槻が言っていた『レイタイ以外』とはそいつらのことか。つまり、そいつらが来るまでに除霊を済ませておかないと六槻に不利な言質を取られてしまう、と。


 「えっ、ってことは『綺風さん』来るの?」

 「はい、なんと言っても、ウーちゃんはエースですからね。私みたいなペーペーと違って、亡霊にやられたりはしないんです!」


 自分が到着するまでにやっとけってことか……?

 どちらにせよやるしかないか。どのみち僕には選択肢なんてないのだから。


 考えていても仕方ないので、ふと思い浮かんだ疑問を雑談がてら霜野さんに訊いてみた。


 「そういえば初めて会ったとき霜野さん、とり憑かれてたよね? 抵抗できなかったの?」


 そう訊くと、霜野さんは申し訳なさそうに答えた。


 「あの時はびっくりさせたッスよね。ごめんなさいッス。私、抵抗力が弱いんで自分がとり憑かれかけてるのにも気づけないんスよ。普通霊視を持ってる人は亡霊に対してそこそこ抵抗力を持ってるはずなんスけど……。だから毎日レイタイの誰かに確認してもらってるんです。それで」


 そう言うと霜野さんは、おもむろにシャツの裾を掴み僕にお腹を見せてきた。油断していた僕は意表をつかれたが、霜野さんは意に介さずおへそのすぐ横、わき腹のあたりの痣の様な痕を指した。


 「とり憑かれてたらここをスタンガンでビリビリッとします」 

 「わ、分かったから、こんな公衆の面前ではだけないで」

 「え? ひゃあ!? い、いや、決してそういうつもりでは! すいません」


 バサバサッと慌てて着衣を直しながら顔を真っ赤にする霜野さん。 


 「しかし、それでよくこの仕事続けてるね……」

 「とり憑かれて怖い思いする気持ちは人一倍分かりますし、合法的に自衛用のスタンガンを持ち歩けますし、何より、こんな私でも、人の為に何かできるんだって思って」


 霜野さんはことさら『人の為』を強調して答えた。きっと霜野さんなりに思うところがあるのだろう。

 

 「そろそろ目的地だけど」


 地図のマークも場所が近づいてきたので、話題を打ち切り霜野さんに報告した。


 「これ、渡しときます」


 そういってスタンガンを手渡された。縦十センチ、横三センチ程の小型のものだった。


 「監視だけじゃなかったっけ?」

 「そうッス。でも、もしもの時はこれを使って下さい。使うときは顔と首、出来れば心臓も避けて欲しいッス。いくら非殺傷武器でもその辺にあたると最悪死ぬか後遺症が残るんで」


 相変わらずスタンガンに関わるところだけはテキパキと説明する霜野さんだったが、そんなことを言われたら普通、もしもの時に使い辛いのではないだろうか。なんというか、小さな親切大きなお世話を地で行く彼女だった。


 すると、そんな僕の不安を読み取ってか、霜野さんは「責任は全部私が取るッス!」と言った。なんでこんなに格好いいのにいじめられてるんだ。本当に。


 まあ、多少の不安はあるが六槻の敵は僕の敵だ。どうにかして倒さなければ……。




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