__スマッシュ五本__
そんなこんなで練習試合の日。
「おはよーございまーっす!」
「おはようございます」
「おはようございます…」
電車組の、木暮姉妹と汐が到着した。
各々挨拶をし、部室に入る。
「おはよう」
「おはようございます!」
既に到着していたいろはと香澄がそれに答えた。
雪奈が部室内を見渡し、苦笑い。
「菜摘先輩は、また遅刻ですか」
「今回も寝坊だって」
菜摘は遅刻常習犯で、ほぼ毎回定時に来たことはない。
それでいいのかと聞かれればやはり駄目なのだが、菜摘の場合遅れた分だけ自主練習をしている。
遅刻は原則として厳禁なのだが、自主練をしているので罰はない。
ただ、毎度のようにいろはに土下座しているが。
「…菜摘先輩、もしかして土下座が好」
「姉さん黙って」
☆ ☆ ☆
「あああああっ、いろはごめんっ、本当にごめん!!!」
コートの整備をし始めて五分後、菜摘がやってきた。
いろはを見るや否やばっと地面に正座する。
「まあ…今日は早かったほうなんじゃない?」
「ごめんんんっ! 今日は遅刻しないように目覚まし三時にかけたんだよ!?」
それは早すぎじゃないかな。
雪奈は喉まで出かけた言葉を飲み込んだ。
「取り敢えず、桜井。準備運動しろ。もう相手が来る」
「ごめん…片付けはやるから…」
すっかりしおらしくなってしまった菜摘の肩に、いろはがぽんと手を置く。
「スマッシュ五本、完全に決めたら許してあげる」
「辛い!?」
それに続けるように、木暮姉妹が囃し立てた。
「いろは先輩、五本じゃ足りないですよ〜!」
「菜摘先輩、頑張ってください。スマッシュで五点楽しみにしてます」
そんなあと崩れ落ちる菜摘。
自分が悪いだろ、と一成は苦笑した。
「菜摘先輩、私も楽しみにしてます!」
「…頑張ってください」
「やめてプレッシャーをかけないで!!」
そう言いつつ屈伸をする。
側から見たらやる気満々だ。
コートの横にある桜の木が、葉を鳴らした。
「…来たぞ」
「やっほうかずかず。あと菜摘ちゃん! 会いたかった!」
「ぎゃぁぁああ!? うわ、市さん!?」
一成への挨拶もそこそこに、市は菜摘に飛びついた。
菜摘は悲鳴を上げて逃げる。
「…まあアップにはなるだろ」
「一成、菜摘可哀想だから止めてあげてよ…」