__練習試合__
『あー! かずかず? ひっさしぶりぃ!!』
うわ、と一成は顔を顰めた。
耳元から聞こえるきんきんした声。この声は一成にとってあまり聞きたいものではなかった。
「…急になんだよ」
『いやぁ、うちら暇しててさ! どう? 来週末あたりに練習試合とか! うち、菜摘ちゃんに会いたいんだよねー!』
「来週末ぅ? あー、ちょっと待って。予定表見るから」
パラパラとバインダーに挟まれた紙をめくる。
「えーと? あぁ、来週末か。日曜日でいいなら空いてるぞ」
『よっしゃあ! じゃあうちらがそっち行こうか?』
「待ってくれ。空いてるには空いてるけど先生に確認取らないと」
生憎、姫城先生はさっき戻ってしまった。
あの人の事だから保健室に行けば捕まると思うが、もしかしたら寝ているかもしれない。一回あった。
『その事なら問題ないよ。そっちの顧問にはもう許可取ってある』
「…仕事が早いなー」
バインダーを閉じ、棒読みで電話口に応える。
『うちも新入生入って来たから慣らしてあげたいんだよねー。そっちはどう? 廃部の危機?』
「切るわ」
『ごめんて! 冗談じゃん!? 廃部の危機なら顧問が許可しないよな! うん! うちが悪かった!』
「わかってるんなら巫山戯たこと言うな」
自分の事を“うち”と呼ぶ、このテンションの高い電話相手は、佐藤 市と言う。一成の姉で、今は須川高校の数学教諭をしている。話の流れから分かる通り、須川高校ソフトテニス部の顧問だ。コーチも兼任している。
『んじゃ、来週末ね! ばいばい出来た弟よ!』
「じゃーな煩い姉貴」
『ちょっと!? 褒めてあげたのにそれはな』
ぶつっ。
冷めた目で電話を強制的に切り、バインダーに挟んであるカレンダーにメモする。
「おーい、集合!」