___マロンと汐___
香澄はコートに入っていく三年生を見ながら、無意識に唇を噛み締めた。
いろはと菜摘の後ろ姿に、中学時代の同級生の姿が重なる。毎日休まず、時には体調が優れなくても部活をやっていた彼女の同級生。香澄を含めて四人しかいないかった。それでも、成績を残そうと努力した。
「(…いや、努力をしていたのは私以外の三人か)」
香澄は中学時代、ピアノの教室に通っていた。週一回、部活を休んで。
中学一年生のとき、部活をするにあたってピアノを辞める気はなかった。小さいころから続けてきたから、できる限りやろうと思っていた。だから、部活を決めるとき『練習が毎日ある運動部はやめようと思っていた』。
けれど、仲良くなった友達に誘われて体験に行ったとき、心の底から楽しいと思えた。そのまま友達とソフトテニス部に入部した。
けれどピアノの教室は辞めなかった。毎週月曜日はピアノの教室に行くと、顧問と先輩に了承を取ったうえでの入部。
最初はそれで、なんとも思わなかったんだけどな。
香澄が自嘲気味に笑う。
みんなと比べたら練習量が少ない。一週間に一回分少ない。誰もそうは言わなかったけど、香澄の中ではずっと劣等感だった。
「…マロン? どうしたの」
ぼーっと先輩たちの背中を眺めている香澄を不審に思ったのか、汐が顔を覗き込む。
「…ううん、なんでもないよ」
「なんでもないって感じじゃないけど」
「本当に、なんでもないんだけど」
眉を下げて笑う香澄の頬に、汐の手が伸びた。
「話したくないならこれ以上は聞かないけど、マロン、心配になるほどテンション低いよ」
ぐいーと頬肉を横に伸ばす。
「…ペアだから?」
「ううん、友達だから」




