___香澄と汐___
「…苦手、なのかな」
いつも明るい香澄から想像できないほど、小さな声。
「なんか、多分…ただ私が勝手に罪悪感を持ってるなんだろうけど」
自嘲気味に笑う香澄の顔を覗きこんでから、汐は顔を上げて時計を探した。本部の壁に取り付けられていた時計は、集合時間まであと十分を指している。
「…マロン、戻ろ」
「うん」
汐が香澄の手を引く。こくんと頷くも、いつもの雰囲気に戻らない香澄に、汐は焦っていた。
どうしたらいいんだろう、何て声を掛けたらいいんだろう。きっと普段の彼女なら、落ち込んだ相手を笑顔にさせるくらい容易いはずだ。
「…」
「…」
陣地に戻るまでの間、二人の間に会話はなかった。
「おかえり」
いろはに声を掛けられ、汐はかを上げた。香澄は俯いたままだ。
「…ただいま帰りました」
無言の香澄を不思議に思ったのか、いろはは立ち上がって香澄の近くに行く。
「どうしたの? 何かあった?」
唇を噛んだ香澄は、精一杯の笑顔を向けた。
「…なんでもありません」
雪奈と雪斗が顔を見合わせる。汐は未だ、何て声を掛ければいいのか悩んでいた。
話したくない話だったら、とか、自分が聞いても何にもならないんじゃないか、とか。ぐるぐる考えてしまって、何も聞けなかった。
「何でもないって顔じゃないよ、マロン。因縁つけられた?」
「やめて。菜摘じゃないんだから」
「私だって因縁つけられませんけど1?」
「じゃあそう言うこと言わないの」
汐は香澄を見つめながら、内心でオロオロと慌てる。
香澄はぐっと、何かを堪えるように唇を噛んでいた。




