___留守番組___
そして、予選当日。
「う、う、うわあああああ緊張するうううううっ」
珍しく時間通りに集合した菜摘が叫ぶ。大会当日も遅刻はシャレにならなかったので良かったが、実は朝、いろはのモーニングコールにて叩き起こされている。
「菜摘先輩大丈夫ですか? 眠くないですか?」
「あ、その辺は大丈夫! いろはにちゃんと叩き起こされてるから!」
「どうやって起こしたんですか?」
雪斗が振り返ると、いろはは苦笑いした。
「メリーさんやったの」
「メリーさん?」
うん、と頷くいろは。
「言われてた時間の十分くらい前から、二分おきに濁声で電話かけて…」
「あ、待っていろは先輩。それ怖いヤツ?」
「怖いよ。私の眠気は一発で吹き飛んだ。今日は眠れないかもしれない」
ふるふると首を振る菜摘に、質問をした雪斗と聞いていた雪奈は思った。「どんな声だったんだろう」と。
「そういえば、一年生組は?」
「ああ、マロンが試合とは別用の飲み物買いに行くって、汐ちゃんと行きましたよ」
一成はオーダー表を提出しに行っている。佐久間は渋滞に引っかかったと連絡が来ている。
今、荷物置きと日除け用に立てた陣地にはいろは、菜摘、雪斗、雪奈だけ。開会式までまだ時間がある。一成たちが帰ってきたら準備運動を始めようと思っていた。
「…あ、一年生組帰ってきた」
ぽつりと呟いた雪奈の言葉に、全員の視線がそちらに向く。
二人は真っ直ぐ陣地に向かって歩いてくる。香澄は俯いたまま、汐に手を引かれていた。
「おかえり」
「…ただいま帰りました」
汐が答える。香澄は俯いたままだった。
心配になったいろはが、立ち上がって香澄の顔を覗き込む。
「どうしたの? 何かあった?」
香澄に、いつものふわふわとした様子はない。覗き込んだ先に、表情はなかった。
「…なんでもありません」
顔を上げた香澄は、唇を噛みながら笑顔を作っていた。




